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攻略開始

 投げ込まれていたコーネルさんの鞄の中身は、師匠のバンカン、師匠の水筒、何かの種、コーネルさんのチーズ、コーネルさんの塩漬け肉、コーネルさんの水筒、お姉さまの水筒、何かの粉、何かの瓶が二つ。

 咄嗟に必要そうな物を詰め込んで放り込んでくれたに違いない。

 何としてでもエリンさんに会って迷宮を出なきゃ。

 コーネルさんの鞄を担いで、通路の奥の部屋の中央の露骨な四角い段差の上に立ち、念のために盾と刀を構える。

 どうしよう、全然動かない…と焦り始めた時、ゆっくりと下に落ち始める。

 深い穴なのかしばらく下がり続ける。角灯の油がもったいない気がして一度明かりを消す。

 するとようやく光が足元から入り、穴を抜けると嗅ぎなれた香りがする。

 四角い板が下りてきたのは森の中だ。迷宮ってこれが普通なんだろうか。もっと石造りのダンジョン的なものを想像していた。

 四角から降りると地面は先ほどまで見ていた磨かれた石の床と一緒だ。どうやって木が生えてるんだろう。

 とりあえず前に進む。また四角を見つけたらいいんだろうか。

 光が無いのに明るい広い空間に木々が生い茂る不思議な光景が広がる。

 何の木なのかはわからないけどどれも同じ木のようだ。

 迷子にならないようにナイフで木に矢印を刻みながら前に進む。

 生き物の気配は感じない。魔物が出ると聞いていたけどどうなんだろう。

 視界の端を何かが横切ったような気がして右の方を見つめる。

 真っ直ぐ伸びた木立が少し不気味に思えてくる。また何か影が横切ったのが見える。

 盾を出して刀を脇に構え、集中する。

 不規則に左右に移動しながら宙に浮かぶ三つの黒丸。その姿は沢で見たまん丸に太った小さい竜だ。

 一体が口を開けて突っ込んでくる。それを盾を使わずに、引きつけて居合のように斬る。

 上顎と下顎が二度とくっつかなくなって二つの塊が床に転がる。

 残りの二体も同時に突っ込んでくる。

一体を上段から斬り伏せ、二体目に放った一文字が空を斬り、急旋回した竜が上から襲い掛かるのをなんとか盾で防ぐ。

 しかし衝突音はなく、急旋回して盾を避けたのか、竜を見失ってしまう。

 どこからくるのか、ゆっくりと周囲を見渡す。

 左の木の影から飛び出してきた黒丸を咄嗟に斬って払う。

 中心からそれてしまったけど、なんとか当てられた。両断には到らずにボールみたいに床っに跳ねて転がり動かなくなる。

 ぴくぴくと痙攣するそれに止めを差す。

 木によしかかりながら座り、自分の水筒の水を飲む。

 前は七階層だったと師匠が言っていたっけ。ここは二階層でいいんだろうか。それとも最初のは入口でここが一階層目なんだろうか。

 刀を出してじっと眺める。刃こぼれとかはないみたい。

 ずっと同じ明るさで時間がさっぱりわからない。ドライフルーツを一つ口に入れてまた歩き出す。

 コーネルさんの鞄を引きずりながらしばらく歩くと拓けた場所に何か大きいのがいる。

 仰向けで大きなお腹が膨らんだり萎んだりしている。寝ているんだろうか。全身黒い鱗に覆われ、口は鰐のようで手足は短い。竜の魔物の大きい版だ。

 近くには五体ほど小さいのが飛んでいる。

 あれをどうにかしないとゆっくり休むことはできなさそう。

 大きいのが寝てる間に小さいのをどうにか出来ないだろうか。どうやって注意を引こう。

 飛び道具はないし枝を投げて大きいのに当たるのは怖い。

 やっぱり盾だろうか。

 盾を出して限界まで上へと動かしてみる。二、三メートルくらいになるんだろうか。ぶつけるには高さが足りなさそう。試しに横にもギリギリまで動かしてみる。同じく二、三メートルくらいな気がする。

 もしかして私から半径二、三メートルの範囲にしか出せないし動かせない?

 近くに魔物がいることも忘れて出したり消したりくるくるジグザグ動かしてみる。

 やっぱりそうみたいだ。動かしたりは出来ない刀も、出せるのは盾と同じ範囲のようだ。

 とりあえず鞄を置いて盾を四つに分裂させ、木の影に隠れながら、飛ばして左右に動かす。

 祈るような気持ちで近くに眠る竜の側に鉄塊を横切らせる。

 一体が動く鉄塊に気づいて近づいてきてくれる。

 ゆっくりと私の方へ鉄塊達を戻す途中で更に二体近づいてきてくれる。

 呼吸を整えて、刀を構える。集中だ。三体を連続で一撃で仕留めないと、大きい奴を起こされたら終わりだ。

 鉄塊達が戻ってきて、魔物が近づいてくる。

 木の影から覚悟を決めて飛び出し、一体目を一文字に斬り飛ばし、二体目を袈裟斬りで斬り落とし、三体目が口を開いた隙に突きで仕留める。

 貫かれぴくぴくと痙攣すると徐々に動かなくなる。

 ごめんと心の中で呟いて刀をしまうと、ぽとっと石の床に落ちる。

 ひゅっと風を斬る音が耳元でして、驚いて身を引くと、残りの二体もこちらに気づいたみたいだ。耳がいいのか鼻がいいのか、素早く突っ込んでくる。

 四つの鉄塊を回りに待機させ、刀を構え直して突っ込んでくる一体を斬り払う。

 しかしすぐ後ろにもう一匹が飛んできていたのに気づくのが遅れ、肩の辺りにぶつかられて、声が漏れる。


「うぐっ!」


 鉄球でもぶつけられたみたいな鈍く強い衝撃で後ろに仰け反ってしまう。

 苦痛に歪む顔で必死に目が閉じるの耐えて、黒丸を目で追い続け、二擊目に合わせて逆袈裟斬りで仕留める。

 そして痛む肩を抑えながら鞄を置いた木の影に戻り、隠れるようにへたり込んだ。

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