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幸先が悪い

「ごめんねナズナぁ…」

「もう気にしてませんから」

「ミーティア、あまりしつこくするな。ナズナちゃんも困ってるだろ」

「わかったわ…」


 馬に揺られながら、朝からずっとお姉さまに昨夜のことを謝られ続けていた。

 痛みもないしもう赤くないと思うけど師匠が部屋に来たときは私のおでこは赤くなっていたらしい。

 私はポールにコーネルさんと乗っていて、前に座る私をコーネルさんが後ろから支える形だ。お姉さまは剣となってコーネルさんの背にいる。

 師匠はリネとトールに乗っていてリネは器用に師匠の後ろに座っている。

 この先にはもう町や村がないからか、すれ違う人も前を行く人も見かけない。

 景色も木々が増えて森の中へと変わっていく。水の音を頼りに沢を見つけたところで一度お昼休みとなる。

 コーネルさんが先に馬から降りて、私の脇を両手で持って降ろしてくれる。


「ありがとうございますコーネルさん。ポールもお疲れさま」


 ポールのお腹を優しく撫でるとぶるるると返事をしてくれる。


「さて、私は火を起こしてお昼の用意をするからコーネルとミーティアは水汲み、ナズナは私と薪拾い。リネは馬と荷物を見張って、何かあれば吠えて知らせてね」


 師匠の指示でそれぞれの組に別れて森を歩く。ちょうど良さげな枝を拾うけどあまり乾いてなさそう。

 途中木の根元に茶色くて大きな立派な茸を見つける。


「師匠。これ食べられますかね」

「うん?………どれどれ…食べられないことはないかもしれないけどそれは茸じゃない」

「え?」


 師匠が近づいて、掴んでゆっくりと持ち上げると四本の足をゆっくりとバタつかせる。


「亀?」

「そうよ。茶色くてつるつるスベスベな甲羅は確かに湿った茸に見えるかもね。さて茸は無さそうだし戻って火を起こしましょう」

「はい」


 沢の方へ戻るとちょうど水汲み組も戻ってきたところみたいだ。


「私は火を起こして料理を始めるからみんなは自由にしてて」

「じゃあナズナ、馬達とリネにも水を飲ませてあげましょうか」

「そうですね」

「じゃあ一応俺は見張っておくよ」

「コーネル、エリュの背中は頼んだわ」

「ああ、ちゃんと警戒しとく」

「いってきます」


 お姉さまがトールの手綱を引いて、私はポールの手綱を引き、リネは行儀よく後ろをついてくる。

 ちょっと盛り上がった木の根で足場が悪いけどすぐに沢に着く。


「さあ飲んでいいよ」


 ポールとトールとリネが水を飲む横で、一応水筒に水を汲んでおく。


「ナズナ、構えて」


 お姉さまの声で水筒を置いて盾と刀を出し、顔を上げると沢を挟んで向かい側に黒い塊が浮かんでいる。

 黒い塊には小さい翼がついてるようで高速で羽ばたいている。時折左右に移動する様は虫の様にも見える。

 するとこちらに気づいたのか痺れを切らしたのか、突然口を開けて突っ込んでくる。

 盾を魔物に向かって飛ばす。それを魔物が急旋回で避け、左から飛んでくる魔物を刀で狙う。

 ガキンっと大きな音が鳴り、捉えたと思いきや刀に噛みついている。その頭は竜のよう。まん丸と太った竜の赤ちゃんのような風貌の図鑑にもなかった魔物だ。

 力が強く刀を奪われてしまいそう。

 突然ぱっと刀を放すと今度はまるで辛いものでも食べたみたいに口ぱくぱくしながら短い前足で口の周りを掻き始める。

 呆気に取られているとお姉さまが両手剣で思いっきり魔物を叩き斬る。

 バシャっと大きく水飛沫を上げて沢に叩きつけられる。

 半分程両断されピクピクとまだ動いてるそれを大きくなったリネが噛み潰す。

 そしてリネに驚いた馬が騒ぎ出す。


「お姉さま、リネ、ごめんなさい。油断しました…」


 ポールとトールの手綱を引いて落ち着かせながら二人に謝る。


「無理もないわ。あんなの私も初めて見たわ。リネは見たことあるかしら?」


 身体を小さくしたリネが首を傾げる。見たことないみたいだ。


「どうした?何かあったか?」


 物音に気づいてか、コーネルさんがやってくる。


「コーネル、見たことない魔物がいたわ」

「一匹だったのでなんとかなりましたが、あれが複数で襲ってきてたらポールとトールは確実に殺られてました」

「エリュさんを呼んでくる」


 コーネルさんが走って戻っていく。

 私はとりあえず落ち着いたポールとトールを近くの木に繋いで、水筒を拾って腰に結び直す。


「ナズナ、ミーティア魔物は?」

「沢に沈んでます。そこです」


 師匠が沢に入って魔物の死体に近づく。


「見たことないわね。こんなの」

「私が斬って、リネが噛み潰してやっと死んだわ」

「まん丸に太った竜の赤ちゃんみたいな見た目でした」

「それが蜂みたいに素早い動きで飛んで襲ってきたわ」

「これが迷宮から出てきた奴じゃないことを祈るしかないわね」


 とりあえず焚き火の回りに戻り、交代で辺りを警戒しながら昼食を食べる。

 せっかく師匠が作ってくれたスープの味も流石に張り詰めた空気で味わう余裕はなかった。

 食べ終えた後、魔物図鑑に目を通すけど、やはり先ほどの魔物の姿は無かった。しかし竜に似た姿の魔物はいるみたいだ。さっきの魔物は本当に魔物の赤ちゃんだったんだろうか。

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