レイゼリアの伝説

おつまみ美味しい

「えー！私も登りたかったわ！」

「それよりそっちはちゃんとギルドに書類出してきたの？」

「ああ、ちゃんと支部長に渡しておいたよ」

　宿の食堂で夕食を食べながら昼間の出来事を話し合っていた。食堂はお酒を飲んでる人が多いのか活気に溢れていて、レイゼリアさんと同じくらいの若い女の人がせっせと料理や飲み物を運んでいる。

　リネは食堂には入れられないので部屋で眠っている。

　テーブルのたくさんの料理の中から私は手羽中っぽい奴を手に取って食べる。スルッと骨から肉が綺麗に取れて皮はとろとろでお肉はほろほろで美味しい。もう三つめだ。

　三人はお酒を飲んでいるけど私はジュースだ。柑橘系の味と香りが口の中を綺麗にしてくれる。

「そういえばエリュさん明日は朝には出るのか？」

「ええ、そのつもり」

「いよいよねー…」

「お姉さま飲み過ぎなんじゃ…」

「美味しいから…ついつい……」

　お姉さまがなんだかふらふらして眠たそう。絶対酔っている。

「はぁ…だから私と同じのはやめときなさいって言ったのに…」

「だって麦酒より美味しくて…うっ！」

「耐えろ！ミーティア！」

　コーネルさんが急いで宿の外へと連れていく。

「師匠はそんなに強いの飲んでたんですか？」

「麦酒とワインよりは強いわね。匂いだけ嗅いでみる？」

　差し出されたコップに鼻を近づける。お酒臭いかと思いきや、すごく美味しそうなお菓子のような甘い香りがする。

「美味しそう…」

「味見は流石にやめときなさい」

「お姉さまが飲み過ぎちゃったのがわかる気がします」

　師匠にコップを回収される。

　私はとりあえずお魚のフライみたいな奴を食べる。サクサクふわふわで美味しい。

「遅いわね」

「そういえばそうですね」

　噂をするとコーネルさんが一人で戻ってくる。

「ナズナちゃん、これ部屋の鍵。ミーティアは部屋に寝かせてきたよ」

「お姉さま大丈夫ですか？」

「一応二日酔いしてるところは見たことないし多分大丈夫だよ」

　コーネルさんがぐいっとお酒を一気に飲み干す。

「エリュさん俺もそれ飲んでみていいかな？」

「いいけど一応一杯だけにしときなさい」

「やった。おーい！」

　コーネルさんが手を挙げると女の人がやってくる。

「これと同じの一つ」

「はい！他にご注文は？」

「いや大丈夫」

「では少々お待ちください！」

　すぐにコップを持って戻ってきて代わりに空いたコップとお皿を下げていく。

　コーネルさんがさっそくお酒を飲む。

「これはミーティアもやられるわけだ」

「ちょっと？」

　サラダを食べていた私は師匠の声で顔を上げるとコーネルさんがぐいっとお酒を煽っていた。

　コーネルさんが、たんっと音を立ててテーブルに空のコップを置き、少し赤くなった顔で向かいに座る私を見る。

「あの大丈夫ですか？」

「ナズナちゃん頼みがあるんだ」

「頼みですか？」

「迷宮探索が無事に終わったら会ってほしい人がいるんだ」

「何よ急に…縁起悪いわね」

「ごめんなさい…」

「急に謝らないでよ怖いわね…コーネルまで酔ってるの？」

「酒の力を借りようと思って…」

　コーネルさんがどんどん縮こまっていく。

　私は正直に思ったことを話す。

「とりあえずその人が大事な人だというのは伝わりました。まだ私自身もリネもこの先どうなるのかわからないので約束は出来ないです。けどいつかお会いできたら私も嬉しいです」

「だそうよ」

「今はそれで十分だよ。ありがとう」

「私達もそろそろ部屋に戻りましょうか」

「はい。お腹いっぱいです」

「ナズナちゃんずっと食べてたからな」

　ちょっと恥ずかしい。

「いいのよ。子供はそれくらいで」

「そうですかね」

「そうだよ」

　　食堂を後にして部屋に戻る。部屋に入る前にコーネルさんに声をかけようと思ったけどやめておいた。酔った勢いで話すくらいの内容を聞く覚悟がまだなかった。

　鍵を開けて部屋に入るとお姉さまが布団を蹴飛ばしたのか床に落ちている。

　それを拾ってそっと布団を被せると腕が急に伸びてきてお姉さまに抱き締められる。地味に力が強くて抜け出せない。微かに吐息がお酒臭い。

　初めは抜け出そうとしたけど、そのうち疲れて諦めて眠りにつき、久しぶりに夢を見る。

　四人の子供と花畑で鬼ごっこをしている。

　みんな影のように真っ黒で顔はよくわからない。

　男の子が鬼で私を含めた女の子達が男の子から逃げる。

　男の子が狙いを代えて私を追いかける。

　私はもちろん走って逃げる。何が楽しいのかわからないけどすごく楽しい。

　何かに足を取られ、転んで地面に倒れる。

　手を突こうとしたはずが水の中に落ちて沈んでいく。

　勇者の背中が見えたかと思うと勇者に向かって真っ直ぐ落ちていく。

　そして思いっきりぶつかって痛みで目を覚ます。

　布団に絡まりながら身体を起こすと窓から差す光が眩しい。

　お姉さまはベッドの上で大の字だ。

　お姉さまに蹴飛ばされたんだろうか。

　まだ少し頭がぼーっとする。扉を叩く音がする気がする。

「ナズナ、ミーティア、二人とも起きてる？」

　師匠の声だ。

　まだ重たい身体を起こして扉に向かい、開いて師匠に朝の挨拶をする。