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景色がきれい

「あの人に何か聞きたいことでもあったんじゃないの?」


 刀を売っていた着物の男の背を見ながら師匠が言う。


「いえ、ただ私の刀を見せたら何かわかるかなって迷って…あまり知られるのもよくないと思ってやめました…」

「そうね…ガンゼツの武器だとはバレないだろうけど、もしも彼が魔力を持っていたら何か気づいたかもしれないわね」


 リネがすりすりと寄ってきて、私はしゃがんでリネの頬を両手で撫でる。


「ありがとうリネ。落ち込んでるわけじゃないから大丈夫だよ」

「さてこれからどうしましょうか」

「食糧はもう大丈夫なんですか?」

「貰った干し肉もあるし大丈夫よ。迷宮内では基本バンカンを食べることになるから」

「師匠のバンカン美味しいから大丈夫です」

「ならいいけど。夕食までまだあるし、何か見たいものとかほんとにない?」

「リネは何かある?」


 聞いてないのか、意味がわからないのか、特にないのか、撫でられるのに夢中だ。


「えっとじゃあその高いところに行けたりしないですかね…」

「高いところ…いいわよ。ついてきなさい」

「行こうリネ」


 師匠に連れられ大通りを進み、町の中心部まで歩いてくるとなんだか大きな建物に入っていく。この上に連れていってくれるんだろうか。

 少し待っているよう言われ、師匠が受付の人と何かを話すとすぐ戻ってくる。


「高いところにいけるわよ。いきましょう」

「はい!」


 中に入るかと思いきや、外に出て歩いていく。少し歩くと柱のような建物の前で止まり、扉の鍵を開ける。


「上まで頑張って登るのよ」


 私とリネが中に入ったのを確認して師匠が扉の鍵を閉める。建物の中は螺旋状に上へと壁に沿って長い階段が続いている。

 ふとガンドルヴァルガさんの実験室を思い出す。どっちの階段が長いだろう。

 森での訓練の甲斐があってか特に疲れることもなく上まで辿り着く。

 上には大きな鐘があり、四方は壁がなく外がよく見える。


「今は壊れているけど昔は時間を決めて鳴らしていたのよ。多分ここが一番この町で高いところだと思う」


 下からはわからなかったけど赤い屋根が広がっていて綺麗で可愛い。なんだか懐かしさも感じる。


「赤い屋根がなんだか可愛いです」

「そうね。もっと高いところからみたら平原にあるお花畑のように見えるかもね」


 優しく吹く少し冷たい風が心地いい。

 師匠が杖を出して遠くに向ける。


「あっちのずっと左に見えるのが私達がいた森、目指しているのは右に見える山合の渓谷よ」

「どこまで馬車で行けるんですか?」

「馬車はこのまま預かってもらって馬に乗って行く。迷宮に着いたら馬はこっちに穴を使って送るわ」

「魔力は大丈夫なんですか?」

「さっき角灯と一緒に魔石を買っておいたから平気よ」

「エリン…さん、とは戦うことになるんでしょうか」

「恐らくね。大人しくじっとしていてくれたら戦わずにすむでしょうけど」

「リネも一緒にいてくれる?」


 リネが鼻先をぐりぐり押し付けてくる。

 私はリネの首に手を回してぎゅっと抱き締める。


「ありがとうリネ…一緒にエリンさんを助けてあげよう?きっと大きなリネを見たらびっくりするよ」

「そろそろ戻りましょうか」

「はい!ありがとうございました。綺麗な景色が見られてよかったです」

「弟子の珍しいわがままくらい聞いてあげるわよ」


 少し照れくさそうに師匠が階段を降りていき、リネと一緒に後を追う。

 外に出て先ほどの建物で鍵を返して、大通りへ戻ってくる。

 日が傾き始めた大通りには食べ物の屋台が増えていた。

 師匠が串焼きのお店に駆けていって、三本持って戻ってくる。


「少し休憩にしましょ?」

「ありがとうございます」

「そこの空いてるところで食べましょうか」


 露店と露店の間の路地の入口で少し休む。


「いただきます」


 何の肉なんだろうか。四つの角切りのお肉が串に刺さっている。食べてみると赤身だけど柔らかくてジューシーで美味しい。炭火の香りもとてもいい。けどちょっとまだ熱かった。


「美味しいです。何の肉ですか?」

「羊って言ってた。うん結構いけるわね」

「はい、リネ。ちょっと熱いかもしれないから気をつけてね」


 左手で二本の串を持って右手で串から外してリネに差し出す。手袋をしてるから火傷の心配もない。

 すんすんと匂いを嗅いでからぱくっと食べる。

 美味しかったのか、わふっと吠える。


「ふふふっ師匠にお礼をしないと」


 そう言うと師匠のお腹にぐりぐり鼻先を押し付ける。

 師匠が困った顔でリネの頭を撫でる。


「ふふふっリネ、ほらまだあるよ」


 残りの三つを串から外してリネに差し出すと嬉しそうに尻尾を振りながらがつがつ食べる。

 勢いがすごくて手のひらから落としそうになるけどあっという間に空になって、よだれでべとべとになっていた。


「羊好きだったのかしらね」

「森に羊はいなかったのでわからないですね」

「リネの晩御飯にもう少し買って帰りましょうか」

「リネ、また食べたい?」


 わふ!っと元気に尻尾を振りながら答える。


「決まりね」


 追加で十本買ったら、お店のおじさんが喜んでくれて、追加で三本くれ、一本は串から外して渡してくれて、リネがまた喜んで食べた。

 師匠と私は串が刺さらないように気をつけて食べながらゆっくりと宿に戻った。

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