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マルデ

「さあどうぞ」


 宿のお爺さんが手慣れた様子で両手に二つずつお皿を持って席に運んでくる。

 橙色のソースがよく絡んだ麺料理のようだ。入ってる具は海老だろうか。


「近くに寄ったら必ずこれを食べるのよ。みんなも食べてみて」


 師匠がフォークで麺をくるくると巻いて口に運んで顔を綻ばせるのを見て、お姉さまとコーネルさんもフォークを手に取る。


「いただきます」


 私もフォークで巻いて口に運ぶ。つるつるもちもちの麺に海老の香ばしい香りと旨味の濃厚なソースが麺に良く絡んでいてとても美味しい。

 お姉さまとコーネルさんも美味しそうに食べている。

 みんなのお皿があっという間に空になる。


「ごちそうさまでした」

「こんな場所でこんなに上手い海老の料理が食えるなんて…」

「川で捕れるアリガニっていう海老を使ってるそうよ」

「カニ?エビ?」

「大きな鋏があってね。大昔はカニだと思われてたんじゃないかしら」

「そうなんですね」


 食べ終わる頃を見計らっていたのかお爺さんがお茶を運んできてくれる。


「ジゼフ今日も美味しかったわよ」

「光栄ですエリュ様。また来ていただけるように精進いたします。どうぞごゆっくりなさってください」

「ありがとう。そうするわね」


 食堂にはいつの間にか人が集まってきていて、これから忙しくなりそうだ。


「エリュ、あのお爺様とはどういう関係なのかしら~?」

「まだナズナくらいの時からの付き合いよ。初めは結構なクソガキだったのにね」


 お茶を飲みながらそんなことを言う師匠の顔は嬉しそうにも寂しそうにも見えた。

 美味しい甘いお茶を飲み終えて、宿を出て二手に分かれる。コーネルさんとお姉さまは受付の女の人に聞いた傭兵ギルドのある町の西側へ、私は師匠と食後に部屋から連れ出してきたリネと三人でいろいろな店を回って食糧や迷宮攻略に使えそうなものを見て回る。


「初めは道具を見に職人街に行きましょう」

「はい。行こうリネ」


 宿から東にしばらく進むと武器を持った人や商人風な人が増えてくる。この辺りが職人街なんだろうか。やはりというか当たり前というか魔族の人がほとんどだ。


「気になったものがあったら遠慮せずにいうのよ。別に見るのはタダなんだから。でも勝手に触るのはだめよ」

「はい。わかりました」


 武器を売ってる店が多いのか、店先に剣がたくさん入った木箱や樽が置いてある店が多い。


「ちょっとそこの雑貨屋に入るわ」


 見たことの無い物がごろごろとたくさん放り込まれた木箱が店先にあるお店に師匠が入っていく。私は一応リネと一緒に店の前で待つことにした。

 古そうな置時計のような物や険しい顔をした女体像、ガラスのはめ込まれた筒に蝙蝠のような翼の生えた鬼のような像、雑貨屋というよりは骨董品店のよう。


「ここにはなかったわ」

「何を探してるんですか?」

「あなたでも使える角灯を探していたの。手袋をしていれば魔法道具を使えるけど魔法道具じゃない奴もあったら助かるからね」

「そうだったんですね。ありがとうございます」


 それから三軒目で無事に油が燃料の角灯を見つけることができた。かなり古い物で遺跡で発見されたという。


「次は食糧を探しましょうか」

「はい」


 今度は大通りまで出て露店を見る。

 ハシュ村よりもたくさんの露店があって野菜や果物等を売っているところもたくさんあるようだ。

 その中から師匠は日持ちのする根菜を選んで買っていく。買うものを決めていたようで次々と選んで三角帽子に入れていく。

 荷物持ちだと思っていたけどそんなことは一切なかったみたい。

 途中、ござに刀を広げて胡座をかいて座る男が目に留まる。

 両隣の露店には足を止める人がいるけどそこには誰も見向きもしていない。


「あの…あそこ見に行ってもいいですか?」

「刀…確かに珍しいわね。見てみましょうか」

「ありがとうございます」


 ござの前に立つと着物の男が目を開いて顔を上げ、私と目が合う。


「お前、トコヨの子か?どこの家のものだ」

「いえ、私はトコヨの人じゃないです。刀を見てもいいですか?」

「そうか。見るのは構わないが怪我をするなよ」

「ありがとうございます」


 抜いてみてもいいってことなんだろうか。

 五本の刀が並んでいて鞘と柄は全部黒で統一されている。

 一番左の刀を手に取ってみると鍔も全部同じ長方形だ。数打ちなんだろうか。


「失礼します」


 左手で鞘を握り、右手で柄を持って引いて刀を抜く。

 銀色の綺麗な刀身が現れる。今気づくと反りがない。刀に詳しいわけではないのでそれ以上よくわからない。

 自分も持っているからなのか自分自身だからなのかなんだか気になってしょうがなかった。


「これは全部あなたが打ったの?」


 横で眺めていた師匠が質問を投げかける。


「ああ。打った中でよく出来たと思う五本だけ持ってきたんだがな。見向きもされん」

「イー大陸で刀を使う人は正直見たことないわね」

「そうか。道理で売れんわけだ」

「ヨウル大陸の方がまだ売れるかもね。魔族の体格には合わないのかもしれない」

「なるほどなぁ…ありがとうお嬢ちゃん達。引き上げることにするよ」

「見せていただきありがとうございました」

「いいんだ。けどお嬢ちゃんは刀を使ったことがあるのか?」

「少しだけ…」

「そうか…」


 男がござごと刀を丸めて片付ける。

 私は刀を見てもらおうかどうか迷ったけど、ガンゼツの刀であることをコーネルさんとお姉さまにも隠しているし、余計なリスクは避けたほうがいいと思って見せるのをやめた。

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