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アイス

 魔物に殺された馬には虫が集り、倒した魔物の死骸は消えている。

 私が死んだらどうなるんだろう。盾と刀も消えるんだろうか。


「幸い商品はほとんど無事みたいです」

「ええ、被害が馬だけで済んだのは奇跡としか…本当にありがとうございます」

「頂いたモムーの肉があれば南の村まで馬車を引いていけます」

「物々交換よ。リネに干し肉をくれたんだし気にしないで」

「重ね重ねありがとうございます、賢者の杖様。必ず賢者の城に良い肉を送りますから!では!」

「ナズナちゃんも旅は何があるかわからないからお姉さん達の言うことをちゃんと聞いて気をつけてね」

「はい。ありがとうございますカムムさん」


 ダクムさんが引く馬車が南に続く街道への分かれ道を進み、私達は真っ直ぐ進み続ける。

 それから数日、平和な馬車の旅が続く。

 

「次のマルデっていう町の後はもう渓谷まで野宿になるから食糧とかを買い出しに行くわ。多分リネも私の使い魔って言えば中に入れると思うけど、もしも入れなかったら申し訳ないけど何処かで隠れていてもらうからね」


 リネが顔を上げてわふっと答える。


「ミーティアとナズナはなにかある?」

「私はコーネルと傭兵ギルドに行かないといけないわ。賢者様から預かってる書類を出さないといけないの。ハシュにはギルドがなかったから」

「私は特には…」

「そう。じゃあナズナは私の買い物手伝ってくれる?」

「はい!」


 そんな会話をした後、特に問題も起きず無事に昼頃にはマルデに着いた。

 ハシュ村と違ってしっかりとした検問が行われているようで十組程の列が出来ている。


「あの師匠、私、怪しまれたりしないですか?」

「大人と一緒なら大丈夫よ。一人だと通してもらえないかもしれないけどね」

「そうですか…」


 そんな会話をしてる間に私達の馬車の番がきて、剣を腰に差した兵士のような人が歩いてきて馬車の扉を開ける。


「通行証か身分証の提示を」


 師匠は金色の紐を見せ、お姉さまはどこから出したのか鉄で出来たカードみたいなものを見せる。


「賢者の杖様と傭兵の方ですね。そちらの子供と犬は?」

「私の弟子と使い魔よ」

「町の中では犬に首輪を着けて頂いてもよろしいですか?」

「わかったわ」

「では子供一人とと犬の分で銅貨3枚と銀貨1枚を頂きます」


 初めから用意してたのか師匠がすぐに兵士にお金を渡す。


「確かに。では中へどうぞ」


 門を潜って町に入るとハシュ村とは違って、石造りの町並みが広がっていた。

 師匠が三角帽子を脱いで手を入れる。


「まずは宿に行くわ」

「知ってるところがあるのかしら?」

「ええ、馬車が大丈夫かはわからないけどね。一先ずいってみようかと。ナズナ、これをリネに」

「わかりました」


 師匠が私に首輪を渡すと壁を叩いて馬車を停めて外に出ていきコーネルさんが代わりに入ってくる。


「ここには傭兵ギルドあるといいんだが」

「宿の人に聞いてみたらどうですか?」

「そうね」


 リネに茶色の革で出来た首輪を着ける。

 しばらくして馬車が止まり、少しすると師匠が馬車の扉を開ける。


「着いたわ。馬車と馬も別の場所で預かってくれるそうよ」


 馬車を降りると宿の人が馬車を操り別の場所へ運んでいく。


「エリュ様、どうぞこちらへ」


 執事のような背の高いお爺さんが部屋に案内してくれる。

 三部屋借りたようで、部屋割りは師匠とリネ、お姉さまと私、コーネルさんとなっていた。師匠とリネが一緒なのは使い魔だと言っておいたから念のためらしい。


「じゃあ荷物を置いたら下の食堂に集合ね」

「わかった」

「わかりました」

「はーい」


 私とお姉さまは特に大きな荷物も無いので部屋の中を二人で確認しベッド割りだけ決めて部屋を出る。ベッド割りはお姉さまがじゃあナズナが窓側ねと言って一瞬で決まった。

 コーネルさんと師匠はまだ降りてきてないようで一番乗りだ。

 窓際の空いてる席に座り、二人を待っていると、先ほどのお爺さんが厨房の奥からやってくる。


「こちらをどうぞ」


 何かガラスの器に乗った白い物がテーブルに運ばれる。


「これは?」

「私達まだ何も注文していないわ」

「サービスです。ぜひ召し上がってください」

「サービス?」

「はい。それでは」


 宿のお爺さんが厨房へと戻っていく。


「まぁエリュの知り合いみたいだし何かあれば私がお金を払うわ。食べてみましょ」

「えっとじゃあ…いただきます」


 不思議と懐かしさを感じる。これは美味しいものだという確信がある。

 添えられたスプーンで掬って口に運ぶ。

 ひんやりと冷たくて口の中で溶けていく。甘くて乳の良い香りが口に広がる。

 アイスだ。アイスクリームだ。


「なにこれ冷たくてすごい甘いわ!」

「美味しいです…」

「あら?二人で何を食べてるの?」

「エリュこんな美味しいもの内緒にしてたの?」

「お爺さんがサービスですってくれたんです…やっぱり断ったほうがよかったですか?」

「アイスね。あいつ子供好きなのよ。遠慮せずに貰っておきなさい」

「ミーティア俺にも味見させてくれよ」

「もうないわ!」


 満面の笑顔でお姉さまが言う。

 私はコーネルさんが少しかわいそうに思えて一口食べさせてあげることにした。

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