オーガ
お姉さまが木のボウルにスープをよそって、渡してくれて食べる。今日のスープは野菜のスープのようだ。硬いパンを浸して食べると美味しい。
横ではお姉さまがリネに干し腸詰めをあげていて、リネが嬉しそうに頬張っている。
焚き火を挟んだ正面では師匠とコーネルさんがモムーを解体していて、がんっと時折大きな音がなる。骨を断っているんだろうか。
カムムさんとダクムさんも近くで眠っているみたいだ。
「干し腸詰めって何ですか?」
「何かの腸に何かのお肉を摘めて長い時間を掛けて乾燥させたものだったと思うわ」
「サラミみたいですね」
「さらみ?」
「いえっあのオーガのお二人は大丈夫そうですか?」
スルッと言葉出てきた。勇者の記憶だろうか。
「エリュの薬が効いてるみたいで眠っているわ。けど肉食の種族だから効果が短いかもって言っていたわ」
「肉食…オーガってどんな人達なんですか?」
「詳しくは知らないけどかつての戦争では結構暴れてたって効いたことあるわ」
一瞬赤鬼が浮かんで消える。
私はオーガを斬ったことがあるんだろうか。
けど二人は赤い角が生えてる以外人族と変わらない姿をしている。
「用意できた…早速食べさせてあげましょう。コーネルはしっかり押さえてて。リネも元の大きさになって彼が赤くなって暴れだしたら押さえて」
リネが首をかしげながら身体を大きくする。
「ナズナとミーティアはカムムさんを見てて」
「わかったわ」
「わかりました」
緊張した面持ちで師匠が細かく刻まれたひき肉をダクムさんの口にスプーンで入れる。
少しするとゆっくり喉仏が上下してダクムさんが肉を飲み込むのを確認すると、更に一口と、師匠が食べさせていく。
暴れ出しそうな気配は今のところない。
気のせいだろうか。焚き火のせいだろうか。ダクムさんの顔がだんだん赤くなっているような気がする。
包帯もなんだかきつそうに食い込んでいる。
こんなにきつく巻かれてなかったような。
大きな木のボウルに入ってたひき肉を半分くらい食べさせ終えたころ、うめき声を出してダクムさんが震え出す。
「うっううう…うううう……」
「……ダクム?」
「カムムさん、今は近づいちゃだめよ」
「本当に、肉を取ってきてくれたんですね」
「はい、それでこれは…ダクムさんは大丈夫なんでしょうか?」
「はい。私達の安全を心配した方がいいです」
「え?それは…」
があああっと雄叫びをあげてダクムさんが暴れだす。少し目を離しただけなのにその姿は真っ赤な肌に隆起した筋肉、口からは牙が飛び出た異形の姿に変わっていた。
包帯は千切れ、コーネルさんが今にも食い殺されてしまいそう。
「これは、やばい…!」
「リネ!押さえつけて!」
師匠の声に反応して、リネが大きな前足で赤鬼を踏み潰す。
咄嗟に横に飛び退いたコーネルさんも少し驚いているみたいだ。
ぐぐぐとうめき声が聞こえる。
「ダクム!ダクム!」
「カ…ムム」
「私はここよ!しっかりして!」
「カムム…カムムゥ!」
首を振り回して暴れ出す。
カムムさんがお姉さまに支えられながらダクムさんに近づく。
「ここよ。私はここ。ダクム、もう大丈夫よ…」
「カムム…ヨカッ…タ……無事でよかった…」
「リネありがとう。もういいわよ」
リネがゆっくりと足を退かすと地面に身体がめり込んだダクムさんが何事もなかった様に起き上がる。
「ありがとうございます。あなた方は命の恩人です」
見た目は赤鬼のままだけど正気なようだ。
背中にあった傷も消えている。
「私は商人をしながら妻と旅をしているダクムと言います。賢者の杖様、助けていただきありがとうございます」
「お礼ならそこの大きな狼と小さい子に言いなさい。二人がこんな暗闇の中、モムーを狩ってきてくれたのよ」
「ありがとうございます。お礼に美味しいお肉を必ずプレゼントするよ」
「私は何もしてないのでリネにお肉を食べさせてあげてください」
私は身体を小さくしたリネを撫でながら言う。
「ありがとう。良い肉を仕入れたら必ずプレゼントするよ」
ダクムさんがゆっくりとリネに近づいて優しく撫でる。
「カムムさんも起きたならこれを食べる?」
「そうですね…頂いてもいいでしょうか?」
「自分で食べられるかしら?」
「ありがとうございますミーティアさん。大丈夫です」
カムムさんが残りのひき肉を受け取って食べるとカムムさんの姿も赤鬼のようになり、身体少し大きくなって背中の痛みも無くなったようでしっかりと立ち上がる。
「ごめんなさい…私達の姿は子供にはきつかったかしら…」
「いえっ!ただびっくりして…背中はもう痛くないんですか?」
「ええ、私達は血肉を得ると身体が活性……元の姿に戻って元気いっぱいになれるんです」
「はい!おかげでこの通り!普段は怖がられるのであまり変化しないように気をつけています」
ダクムさんがムキムキの筋肉を見せつけるようにポーズを取る。
「お二人が無事でよかったです」
「詳しい話は明日にしましょう。これを飲んで寝なさい」
師匠が二人に小瓶を渡す。薬だろうか。
「ナズナももう休みなさい」
「わかりました」
師匠が毛布を渡してくれて、リネに寄り添いながら焚き火の側で静かに眠った。




