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真っ暗で見えない

 街道から外れて草原に馬車を止め、みんなが野営の準備をしているところ、私は魔物に襲われていた女の人と師匠が倒れているのを見つけた男の人をお世話をしていた。といっても暴れ出したりしないか見張っているだけだけど。


「ここは…ダクム?」

「師匠!女の人が目覚めました!」

「その声…さっきの…ダクム……夫は、無事ですか?」

「あの…少し怪我が酷いですが師匠が薬を作ってくれているのできっと大丈夫ですよ」


 女の人が起き上がろうとして、苦痛に顔を歪める。


「まだ動かない方が…」

「すみません…一目、夫の姿を確認…を」


 少し迷ったけど、私は身体を支えて上半身を起こしてあげ、間を空けて隣に寝かされている

男の人の方を向かせてあげる。


「ああ…ダクム…ダクム……」

「はっきり言って予断を許さない状況よ。あなた達は何族?それによってはまだ手があると思うわ」


 師匠が出来た薬を持って歩いてくる。


「もしや賢者の杖様ですか?」

「ええそうよ」

「ああ…ありがとうございます。私はカムム、夫はダクムと言います。私達はオーガで夫は旅商人をしています」

「オーガね…新鮮な肉があれば…」

「新鮮な肉?」

「私達、オーガは…血肉を主食としているんです。確かに食べることが出来たらダクムはきっと元気に…」


 生肉を食べて生活しているということだろうか。活力が湧くのかもしれない。


「師匠、リネと一緒にモムーを探してきます」

「確かにリネなら探せるかもしれないけど…もう日が落ちるわよ?」

「生肉があれば助かるんですよね?」

「ええ、可能性はぐっと上がる」

「じゃあいってきます」

「わかった…日が落ちたら一度空に魔法を放つ。帰る方角の目印にしなさい」

「わかりました」


 馬車の上で見張りをしてくれているリネに声をかける。


「リネ、モムー…牛を一緒に探して欲しいの!」


 リネが降りてきて私に背を向けて座る。

 乗れってことなのかな。

 背中に乗ってみるとリネが立ち上がり、咄嗟に翼の付け根を掴むと、走り出す。


「ナズナ?リネとどこに?」

「牛を探してきます!」


 驚くお姉さまにそう伝えて広い草原に駆け出す。

 牛はどこで寝るんだろう。

 平原には私なんか隠れてしまう高さの草の生えたところもあるし、群れで隠れてるかもしれない。

 それとも迷わず走り続けるリネには既に居場所がわかってるんだろうか。

 赤かった空が紺色に染まる。そろそろ師匠が魔法を放つかもしれない。

 リネの背に乗りながら空を見渡していると、視界の端に光を捉える。

 リネも気がついたのか、足を止めて光の方を見る。

 橙色の光が空に上っていき弾け、ボッという音が小さく聞こえて光が散る。


「リネ、あっちがみんながいる帰る方向だよ」


 わふっと返事をしてリネが再び走り出す。

 少しして完全に日が落ちて月明かりだけが頼りとなる。

 正直、何も見えない。怖くてリネを掴む手が強くなる。

 どれだけ時間が経ったんだろう。でも目が慣れてきたのか微かに月明かりを反射する草が見えるようになってきた。

 リネがゆっくりと足を止めて、地面に伏せる。

 ずっと乗せてくれていたから疲れさせちゃったかな。

 背中から降り、じっと前方を見つめて動かないリネに合わせて私もしゃがんで草に紛れる。

 目を凝らすと奥に大きな影が動いているのが見える。


「リネ、もしかしてモムー?」


 群れに気づかれないよう小さな声でリネに聞いてみると尻尾を大きく一回振る。


「ごめんリネ、暗くてあまり見えなくて…お願いできる?」


 リネがいつもよりゆっくりと静かに身体を元の大きさに戻すと、音も立てずに飛び上がり、静かに草が揺れる。

 モムーモムーと鳴き声が聞こえたかと思ったら音と影が闇に消えていく。


「リネ…?」


 月明かりに大きな影か浮かぶ耳の形でリネだとわかる。

 モムーを咥えたまま伏せて、右の翼のだけ開いて地面につける。乗れってことかな?

 翼をよじ登って背に乗ると大きく揺れて咄嗟に毛を強く掴む。


「ごめん!リネ……わっ!」


 身体が一瞬重くなり、また大きく揺れて必死にしがみつく。

 風が強い。かなりの早さで走ってるみたいだ。

 顔を上げても暗くて何も見えない。油断すると風に飛ばされそう。

 どれだけ必死にしがみついているだろう。そろそろ握力が限界を迎えそうな時、突然身体の中がふわっとして一瞬気持ち悪さを覚える。

 やっと止まったみたいだ。


「リネ!?ほんとに牛を取ってきたの!?ナズナは?」

「ここです…」


 お姉さまの驚く声がして顔を上げて返事をするけどリネの身体が大きくてどこにいるのかよくわからない。


「リネ、解体しやすいように焚き火の近くに下ろしてくれる?」


 師匠の声に反応してリネが歩きだし、モムーを放すと身体を伏せて私を降ろしてくれる。

 私はすぐにリネの顔に駆け寄り、頬を撫でながらありがとうと感謝を伝える。


「コーネル、これ捌けたりする?一人でやるには大きすぎる」

「鹿ならやったことあるからまぁ二人ならなんとかなるだろう。ミーティア、ナズナちゃんにご飯を出してあげてくれ」

「わかったわ。おいでナズナ。リネにはご褒美に干し腸詰めをあげましょう」

「よかったねリネ」


 リネが身体を小さくしてわふっと答える。

 

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