指輪
「はいナズナ。古い物みたいだけど普通の指輪みたいね。あまりあからさまだとあなたが受け取ってくれないと思ったのかもね」
師匠が指輪に丈夫な紐を通して私の首に掛けてくれる。
「ありがとうございます師匠。確かに見るからに高そうなものだったら怖くて受け取れなかったかも…」
「なんかそれ青くないかしら?」
指輪を持ってよく見てみると、角度によってか光の加減か銀色の指輪が青く見えたりもする。
「ほんとだ…」
ガンゼツの刀も角度によって青く見えるけど同じ材料なのかそれとも何か特別な製法なんだろうか。
「さて訓練をしましょうか」
「訓練?」
「ミーティアも魔法使えるのよね?」
「ええ、私のはただの魔力の塊だけど」
お姉さまが手のひらから光る玉を出す。
「同じ精霊なら出来るかもしれないわ。手を出して集中しなさい」
私は手袋を脱いで、右の手のひらを上に向けて左手で手首を押さえて集中する。
「心臓から血が流れ、管を通って身体中に流れるように、魔力を身体の内から手のひらに集めるのよ」
集中して力を込める。
胸から手に…胸から手に…胸から手に…手がぷるぷると震える。
目がチカチカしてくる。
「ナズナ!」
びっくりして気が抜け、大きく息を吸う。息が止まってたみたい。
「ごめんなさい…何も感じないです…」
「勇者は魔法が使えなかったっていうのは有名だし、やっぱりあなたもなのかしらね…」
「魔力があっても魔法が使えないというのはよくあることなんでしょうか?」
「残念だけど魔力が無くても魔石や魔水晶を使って魔法が使えるからね。魔力があるのに一切扱えないというのは正直珍しい」
「コーネルもエリュに習ったら魔法が使えるようになるってこと?」
「まぁ普通はそうなるわ。苦手でも初級魔法くらいなら使えるはずよ。はぁナズナに教えられることはやっぱりないのかしらね…」
「魔法を教えてもらえなくても師匠は師匠ですから」
「自分の技の一つでも教えてあげられないと師匠とは言わないのよ…」
腕を組んで師匠が考え込んでしまう。
馬車がゆっくりと止まり、壁が叩かれる。
「私が見てくるわ。ナズナとエリュは待ってて」
「じゃあお願いする」
「わかりました」
お姉さまが扉を開けて外に出たかと思ったらすぐに戻ってきて叫ぶ。
「魔物に馬車が襲われてるわ!」
「リネ、馬車と馬を守って。ナズナ行くわよ」
「はい!」
馬車を降りるとリネがひょいっと馬車の上に飛び乗り、お姉さまが剣になってコーネルさんがそれを構える。
前方には四匹の大きな猫のような魔物に荷台を引く馬車が襲われている。
「コーネルとナズナは一体お願い。二体は私がやる」
「はい!」
「わかった!ナズナちゃんは荷台の奴を。俺は馬を襲ってる奴をやる」
「わかりました!」
こちらを警戒する二匹が地面から突然生えた蔓に縛られて暴れ出す。
コーネルさんが土煙を上げて飛び出し、二匹の間を抜けて馬に跨がる魔物に斬りかかる。
右肩を斬られた魔物が唸り声あげてコーネルさんに牙を向ける。
その隙を逃さずに脇を通り抜け、後ろの荷台を前足で踏みつけている魔物に斬りかかる。魔物が横に飛んで避け、こちらを見て唸り始める。
人の姿は見当たらないけど無事だろうか。
魔物との睨み合いが続く。
先に痺れを切らしたのは魔物で一瞬で目の前まで飛びかかり、突然現れた盾を避けずにがんっとぶつかる。
怯んで顔が仰け反ったところに合わせて喉元に一太刀入れると大きな身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「おやすみ」
倒れ、ヒューっヒューっと息をする魔物の脇から刀を刺し、命を止める。
大きく息をしていた魔物が動かなくなるのを確認してから、荷台を確認する。
木で出来た荷台に布で屋根が付けられたよくある馬車のようだ。
「誰かいませんか?お怪我はありませんか?」
屋根の支柱が折れて布が被さった荷台の隙間から中に入って声をかけてみるが返事はない。
「魔物なら大丈夫です。誰かいませんか?」
微かに何か聞こえた気がして奥に進むと指輪をした手が見える。しかしその先は木箱を覆われて下敷きになっているようだ。
二人に知らせないとと思い、急いで荷台から出るとコーネルさんも倒し終えたようで周囲を警戒している。
「止めはナズナが?」
「はい…一応…」
「そうか。よくやった」
コーネルさんが私の頭をポンポンしてくれる。ちょっと恥ずかしい。
「あっコーネルさん!中で荷物に下敷きになってる人がいるみたいなんです!」
「ほんとか!?エリュさん!」
「何かあった?」
「荷台に人がいるけど下敷きになってるみたいなんだ」
「わかったわ。二人とも少し離れていて」
師匠もとっくに倒していたようですぐに駆け寄ってきてくれ、杖をかざす。
ラーラマインと呟くとまるで時が戻るみたいに屋根が倒れされ傾いた荷台が元に戻る。
「中を見てきます」
「俺も行くよ」
「一応気をつけてね」
扉のない荷台に上がり込み、声をかける。
「大丈夫ですか?助けにきました」
「ここ、です…」
奥に女の人が倒れている起き上がれないようだ。
「俺がいくよ」
コーネルさんに任せて邪魔にならないように外に出ると、コーネルさんが赤い角の生えた女の人を抱えて出てくる。




