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退屈しのぎ

「…であるからして、西方諸国との溝は拡がっていくのです。聞いてますか。姫様」

「ネムシム教が勢力を増しているということですよね。ちゃんと聞いてます」

「今日の授業は終わりです。明日は王国暦254年から」

「わかりました。先生」


 家庭教師が部屋から出ていくの確認して机に伏せる。毎日勉強浸けで息が詰まる。


「レイゼリア様、お行儀が悪いですよ。お茶をお入れしましたのでどうぞ」

「ありがとう、レーシャ。いただくわ」


 専属侍女のレーシャのお茶が飲めるのもいつまでだろうか。どんなに勉強させられたところで、貴族に嫁がされる私には無駄にしか思えない。王位は兄が継ぐのだから。

 私にあるのは代々王家の女性に引き継がれてきたレイゼリア様の指輪とレイゼリアの名前だけ。

 兄が結婚し姫が産まれれば、それもその子のものになるだろう。

 水色の宝石がはめ込まれた銀色の指輪は東の王家の森に隠された勇者の遺産に危険が及ぶと知らせてくれるというが、一度もそんなことは起きていないらしい。指輪を眺めながら暗い未来を考えているとキラキラと宝石が光る。


「ねえレーシャ。今光らなかった?」

「レイゼリア様、光の反射ではないですか?」

「そうよね。毎日あんな小さい文字を読まされて目が疲れてるのかしら」


 ため息をつきながら机に重ねた両手を枕にして伏せる。


「光ってます!光ってますよ!レイゼリア様!」


 レーシャの声で顔を上げると自分の影で指輪が光っているのがよくわかる。


「レーシャ。お父様のところへ行くわ」


 部屋を飛び出して、警備の兵士を捕まえて今は執務室にいるのを確認する。

 執務室の入口を守ってる兵士に声をかける。


「急ぎの用があると伝えてください」

「はっ!少々御待ちを」


 兵士が中に入りすぐに出てきて、どうぞと中に入れてくれる。


「どうしたレイゼリア。お前が急ぎの用だなんて何があった?まさか家庭教師に何かされたのか!あいつ殺してやる!」

「違いますお父様。先生は関係ないですし、何もされてませんから。これを見てください」


 私は指輪を右の手のひらの上に乗せて、左手で影を作りながらお父様の前に差し出す。


「光っているな…勇者の墓に何かあったということか?」

「言い伝えではそうなります。なので兵をお借りしたいのです。王家の者無しでは森に入れませんから」

「お前が行くというのか。しかし…」

「お父様には公務が、兄は魔物討伐の遠征からまだ帰っていません。お母様は床に伏せておりますから」

「わかった。お前の護衛二人と私の近衛を四人出そう」

「ありがとうございますお父様。レーシャも連れていってよろしいですか?」

「あぁ、馬車も使っていい」

「ありがとうございます。準備が出来次第すぐに立ちます。それでは失礼しました」


 私は足早に部屋に戻り支度をする。と言っても魔法を使うための指輪と魔石を忍ばせておくだけだ。他の用意はレーシャが済ませているだろう。


「レイゼリア様、そのにやけ面、兵士の前ではやめてくださいよ」

「にっにやけてなんかないわ!」

「旅行じゃないんですからね」

「わかってるわよ。でも城の外なんて久しぶりで。お母様が病気になられてからはお父様とお母様とお兄様、みんなで森に行くことも無くなってしまったし」

「王妃様の病気は良くなられてますから、きっとまた皆様でゆっくりと過ごせますよ」

「そうね。ありがとう」


 扉をノックされてレーシャが対応する。


「レイゼリア様、馬車の用意が済んだそうです」

「わかったわ。行きましょう」


 レーシャと正門に用意された馬車に乗り、馬に乗った兵士六名を連れて西にある王家所有の森へと出立する。

 野営を挟んでおよそ一日と半日程かけてつつがなく、蔓だらけの森の入口に着いた。


「レイゼリア様、お願い致します」

「ええ、わかりました」


 兵士の一人に呼ばれ馬車を降り、王家の花の紋章の彫られた木の前に立つ。同じ紋章のペンダントを左手に握り、右手で木に触れ、魔力を流すと、蔓が引いていき道が開ける。


「さあ皆様、参りましょう」


 兵士達の凛々しい返事を聞きながら馬車に戻り、森の奥へと進む。勇者の墓は森の北西にあり、今いる南東の入口からは距離がある。

 まずは東にある別荘に行き馬車を置いて、そこからは馬か徒歩になるだろう。

 森を東に進み、小さな泉を通りすぎると別荘にたどり着く。

 何年も使われていないから中が大丈夫か少し不安だ。レーシャが掃除をしてくれている間に私は兵士を連れて先に墓へ確認に行くことにした。馬の足なら3時間もあればたどり着けるはずだ。


「では、ヘンゼルさんレーシャのことをよろしくお願いします」

「はい。任せてください」

「レイゼリア様もどうかお気をつけください」

「ええ、いってくるわ」


 馬車の御者をしていたヘンゼルさんにレーシャの護衛を兼ねて残ってもらい、五名の兵士達と墓へと向かう。

 さっさと確かめて別荘で久しぶりにゆっくりしたい。そういえばちゃんとにやけ面我慢できてるのかしら。


「レイゼリア様。どうかしましたか?」

「いえ、ちょっと考え事を。ごめんなさい、先を急ぎましょう」


 凛々しい顔を作って森を更に進んでいく。

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