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胸も痛い

「どうして止めを刺さなかったの?」


 赤い髪のレイゼリアに勇者が平手打ちをされる。


「あなたのせいで!あいつは村の人を六人も殺したのよ!」

「ごめん…」

「あなたのそれは優しさとは違う。ただ逃げてるだけ……戦争なのよ?あの子達の仇を取るんじゃなかったの?」


 レイゼリアが走り去る。一人残された勇者が座り込み、空を見上げる。


「しょうがないだろ…人を殺したことなんてないんだから…みんなは殺したことあるのかよ……」


 勇者が地面を虚しく殴り出す。


「母さんなんて言いながら泣いてる奴、殺せるのかよ…」


 頬がズキッとして目が覚める。

 どこかの屋内のようだ。天井が見える。


「ごめんね?痛かった?」


 エリュさんの声がして視線を泳がすとエリュさんが心配そうな顔をしている。


「もう少し我慢して」


 そう言いながら、右の頬に何かを塗られ、何かを貼られる。時折ズキッと痛む。


「あなたには魔法薬が効かないのが難点ね」

「あのここは?」

「この村で一番高くて良い宿らしいわ。話はコーネルと自警団から聞いた。災難だったわね」

「…あの人達は?」

「みんな死刑ね。かなり悪どいことしてたみたいだし、気に病むことなんてない」

「そう…ですか」

「次は斬りなさい」

「え?」

「今日はここに泊まって明日の昼前には馬車で出発するわ。ゆっくり休みなさい」


 エリュさんが部屋から出ていく。

 次は迷わずに殺せってことだろうか。

 勇者は迷わず殺せるようになったんだろうか。

 扉がバンっと開いてミーティアさんが飛び付いてくる。


「ナズナ!起きたのね!心配したわ!」

「はい、お姉さまも元気そうでよかったです」


 ぽよぽよぎゅむぎゅむ胸が当たる。


「エリュのおかげで腫れはだいぶましになったみたいだわ」

「そうなんですか」

「そういえば盗賊退治のお礼にってこの宿と馬だけじゃなくて馬車を用意できたわ」

「そうだったんですね」

「後で夜ご飯持ってきてあげるからゆっくり休んで!あまり長居するとエリュに怒られるわ!それじゃあね」


 ミーティアさんが嵐のように去っていく。

 身体を起こして窓を覗くと、大通りが見える。やっぱり結構大きな村みたいだ。

 コンコンコンと音が鳴って振り向くと扉が開いてコーネルさんが入ってくる。


「どうかしましたか?」


 上の空で頭を掻いてなんだか気まずそうだ。


「ミーティアに気がついたって聞いてさ」

「まだちょっと痛いけど大丈夫です」

「助けるのが遅くなってごめん」


 コーネルさんが頭を下げて固まる。


「じゃあお詫び代わりに質問してもいいですか?」

「質問くらいどうってことないよ」


 コーネルさんが顔を上げる。

 私は起きてから考えてることを聞いてみる。


「エリュさんに次は斬りなさいと言われました。やっぱり次は殺せってことなんでしょうかね…」

「そうだな。君ならあいつらは余裕で殺せたと思うよ。なんで殺さなかった?」

「なんでって…」

「相手が丸腰だったならまだしも、あいつらは君を殺そうとナイフまで使ってたのに。むしろなんで斬らなかった?」


 言葉につまる。

 如何に殺さずに済ませるか、いいや、如何に誰も傷付けずにいられるかを考えていた。

 斬ろうなんて、ましてや殺さなきゃなんて考えはなかった。

 手枷や首輪を出されて仕方なく戦っただけだ。相手が手枷や首輪を出さなかったら私はどうしていたんだろう。


「俺はミーティアやナズナやエリュさんを殺そうとする奴は迷わず殺すよ。ナズナちゃんもよく考えた方がいい。君が殺されそうになった時、エリュさんは相手をどうすると思う?」


 言葉に出来ない。

 エリュさんは迷わず殺すのだろうか。相手を止めるだけとかではなく、迷わず息の根を止めるのだろうか。


「迷宮では何が起きるかわからない。君のそれはみんなを危険に晒す。迷宮に着くまでに覚悟を決めるんだ。覚悟が出来ないなら君は迷宮に入るべきじゃない」


 コーネルさんがベッドの横にある机に何かを置いて部屋を出ていく。


「とりあえずそれを食べながらよく考えて」


 ガチャンと扉が閉まる。

 机には平たいパンのようなものが置かれていた。

 手に取ってみるけど食べる気にはなれず机に戻し、布団を被る。

 夢が見たい。勇者の夢を。答えが欲しい。

 そんな気持ちで眠れるわけもなく、布団から顔を出す。

 大通りを行き交う人々をぼーっと眺める。

 エリュさん、ミーティアさん、コーネルさん。三人が殺されそうになった時、私は相手を斬れるだろうか。

 いいや、きっと私は盾で守るんだろう。

 自分がそれで傷付いてもレイゼリアさんの時と同じように。


「ナズナ?大丈夫?」


 突然の声にびくっとして振り返ると、ミーティアさんがお皿と籠を持って不安そうにこちらを見ながら立っていた。


「声をかけたんだけど、返事がなかったから寝てるのかと思ったわ」


 籠とお皿を机に置いて、ベッドに腰掛ける。


「コーネルと喧嘩でもしたのかしら?」

「いいえ。喧嘩なんてしてないですよ」

「さっきコーネルがね、げっそりした顔で部屋に戻ってきて、ちょっと言い過ぎたかもしれないって言うものだから」

「そうだったんですか…」

「よかったらどんな話をしたのか教えてくれる?」


 私はさっきコーネルさんに言われたことを話した。

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