合流
「あの私は貴族じゃないのでそんなにお金にならないと思うのですが…」
「そんな綺麗な髪に綺麗な服を着てか?」
自分の髪と服を見る。
そういえば城にいたし、お風呂もたくさん入ったし、貰ったシャツとパンツも真っ白だし、ご飯も薬も貰えた。
貴族の暮らしはわからないけど良い暮らしだったのは確かだ。
「賢者様のお城でお世話になっていたので綺麗なのかと」
「賢者?あの森の奥の?」
赤髪の男の貼り付けた笑顔が少し崩れる。
「はい。ガンドルヴァルガさんのお城でお世話に」
私を囲んだ男達が少しざわつき始める。
賢者と呼ばれるだけあって有名みたいだ。
「ボス…やばいんじゃ…」
「そうっすよ」
「うるせぇぞお前ら!さっさと売っちまえば関係ねぇ!早くあれを付けろ!」
二人の男が近づいてきて、私に手枷と首輪をそれぞれ着けようとしているみたいだ。
魔法道具なら平気かもしれないけど、頑丈なだけの奴だと着けられたら終わりだ。
やるしかない。
峰打ちの練習なんてしてないけど私の腕力でどれだけの威力になるんだろう。
二人の男が近づくと、赤髪の男が私の首に添えたナイフを離す。
首輪を着けるのに邪魔だからだろうか。
今しかない。盾を出して赤髪の男に思いきりぶつける。ごんという衝突音と、んがっといううめき声を聞きながら、刀を抜いて峰で男の手を叩いて首輪をはたき落とし、続けざまに手枷を持った男の手を叩く。
地面に首輪と手枷で落ちて転がる。
「ちっ!魔法使いか!」
赤髪の男がそう呟くと、周りの男達がナイフを取り出して構える。
「しょうがねぇ…お前ら!殺せ!」
赤髪の男が手に拳鍔をはめながら叫ぶと、男達が襲い掛かってくる。
盾を四つに分裂させて、ぶつけ、近寄る男は峰打ちで叩く。
避けるのも防ぐのも簡単だけど、威力不足なのか魔族は頑丈なのか攻撃の手が全然止まない。
「お前、魔法使いじゃなさそうだなあっ!」
赤髪の男が大振りに殴り掛かってくるのを鉄塊一つで受け止め、無防備な腹に峰打ちを叩き込む。
「痛ってーなあっ!」
右の蹴りを避けて、横からくる男の手を叩き、ナイフをはたき落とす。
やっぱり威力不足だ。
「お前ら、こいつは運良く魔法の武器を手に入れただけのガキだ。大した力も無いからビビってねぇでさっさと殺せ!」
赤髪の男の言葉で男達が勢いづく。
「おら!」
「死ね!」
「バラして売ってやる!」
ナイフや拳鍔で襲い掛かる男達を必死に峰で叩きつけるけど勢いが止まらない。
遂に誰かの蹴りが背中に当たり、息が漏れる。
よろけたところをナイフで切りかかられ、刀で防ぐ。
腕力が違いすぎて、簡単に押し負ける。
コーネルさんはかなり手加減してくれていたのかもしれない。
灰色の肌の男が顔を近づけてくる。
「その刀も高く売れそうだなぁ!」
四つの鉄塊を他の男を近づけさせないように、私を囲うようにして回転させる。
「どこ見てんだ?顔が青くなってきたぜぇ?」
右の頬に硬い物が当たったと思ったら気づいた時には身体が地面に横たわっていた。
不思議と痛みを感じない。
目の前がチカチカとして身体が重い。
「ボス、どうせ殺すならその前に遊んでいいだろ?」
「そんな生意気なガキのどこがいいのか知らねーが、お前が仕留めたんだ。好きにしろ」
灰色の肌の男が私の身体をまさぐりながら笑みを浮かべる。
「へへへ…最後に楽しもうぜ…」
身体に力が入らない。男が私の左足を乱暴に持ち上げて、パンツに手を伸ばすと、肘から先が突然地面に落ちる。
「え?」
男も何が起きたのかわからない様子で、私の足を放して固まる。
「あっああああぅ腕が…」
今にも叫び出しそうな瞬間に首が飛んで地面に転がる。
「ナズナごめんな。こいつら殺すから」
コーネルさんの声だ。
「コー…ネル…さん?」
瞬く間に手足が転がり男達が倒れていく。
「なんだ!?てめーは!?」
「リーダーのお前は殺さないでおいてやるよ。いろいろ聞くことがあるからな」
何かが光ったと思ったら、ミーティアさんが私を抱き起こしてくれる。
周りにたくさんいた男達の半数がバラバラになり、半数は恐怖に固まった表情で震えている。
「ナズナ、ごめんね」
「どうして…謝るん…ですか?」
「怖い目に遭わせたから」
「そうですね…」
二人は手足と鮮血の散らばるこの光景のことを言ってるんだろうか。それとも私を一人にしたことだろうか。それとも両方?
「これは!?」
「自警団の人だな。こいつが盗賊のリーダーらしいぜ。後は好きにしろよ」
「わかった。連れの女の子は大丈夫だったのか?」
「ああ。連れ去られてはいなかったよ」
「そうか無事でよかった。みんな!こいつらをひとまず牢に入れよう」
自警団の四人に男達が縛られ、連行されていく。抵抗する者はなく、赤髪の男を含めて十人程が生き残っていたみたいだ。
「あなた達、なにしでかしたの…?」
自警団が生き残りを連れて行ったのと入れ替わりにエリュさんがくる。
「俺が全部悪いんだ。後でちゃんと説明するからナズナの怪我を見てあげてくれ」
「怪我?」
エリュさんが近づいてきて私を覗き込むと、驚いた顔をして私を抱き締める。
私は緊張の糸が途切れたのか、ゆっくりと眠りに落ちる。




