長風呂
「それで訓練はお願いできそうか?」
「正直刀の使い方は俺には教えられません。彼女の使い手だった人は我流のようですし、たくさん実戦を積むか、トコヨで武士を探すのが一番かと」
「では、エリュとナズナと一緒に迷宮攻略へは?」
「そちらは報酬をもらえるのであれば喜んで。ミーティアも彼女と仲良くなったみたいですしね」
「そうか。では報酬は用意しておくとして、契約金を払おう」
「何か魔法道具でももらえるんですか?」
「情報じゃよ」
―――――――――
「くぅ~いいわねお風呂とかいうのも」
「はい、気持ちいいです」
「コーネルの家にはこんなの無いし、水で身体を拭くだけだもの」
「やっぱりお風呂は貴重なんですね」
「そうね。お城ならではなのかしら」
ミーティアさんと二人でお風呂に浸かりながら他愛もない話をする。
エリュさんは用があると眠ったリリクラと部屋に戻り、コーネルさんは賢者様に挨拶してくるとアリシアさんに連れられていった。
「お姉さまは一緒に挨拶にいかなくてよかったんですか?」
「仕事の話はコーネルだけで充分だわ」
胸が浮いてる。
「気になるの?触ってもいいわよ?」
「え?あっいや」
ぽよぽよぷかぷかしていてつい視線がいってしまう。
恥ずかしくなって下を向く
「私も大きくなるんでしょうか」
自分の無を見て考える。
「一応自然霊は成長するらしいわ。でも私達はわからないわ」
「そうですか」
「ナズナは自分を作った人のこと覚えてる?」
「いいえ」
「私は使い手の記憶はないけど少しだけ作った人の記憶があるわ。白髪のお爺さんで私と同じ青い目をしてた。鎚を振る度に、守るんだ!守るんだ!って気持ちが伝わるの。でも何を守って欲しかったのか、わからない」
遠くを見つめながら話すミーティアさんの横顔は悲しげで、顔を伝う水滴は涙のようだった。
私はそっと抱きついて、頭を預ける。
「ふふ、ありがとう…優しい妹が出来て嬉しいわ」
ミーティアさんも頭を預けてくれる。
「私にあるのは刀と盾を使ってた人の旅の記録です」
「その人はどんな人だったの?」
「よくわかりません。でも優しい人だったみたいです。そういえばエリュさんの名付け親みたいですよ」
「え?エリュって何歳なの?ナズナよりは上に見えるけど」
「普段は耳を丸くして隠してるけど本当はエルフだそうです。怖がる人もいるから隠してるって言っていました」
「エルフねぇ。賢者様もエルフみたいだけど精霊とどっちが長生きなのかしらね」
「どうなんでしょうね」
のほほんとお湯に使っていると、ひたひたと音がして誰か入ってきたみたいだ。
「誰か入ってきたみたいですね」
「そーねぇ。そういえば男の賢者様はいつお風呂に入ってるのかしら?」
「そういえばそうですね」
「ちょっと暑くなってしまいました」
なんか頭がぼーっとしてきた。
暑くなってきてミーティアさんと離れる。
「そろそろ上がりましょうか」
「そうですね」
立ち上がって、歩こうとするけど少しふらついてしまう。
「大丈夫か?これで少し涼むといい」
見たことのある銀髪の女の人が大きな氷の塊を床から出現させる。
「ありがとうございます。トーチカさんでしたよね?」
「ああ、そうだ。二人とも顔が赤いぞ。氷の近くで休んでから出るといい」
「ありがとうトーチカ。涼しくて気持ちいいわ」
「気にしないでくれ。私の魔力でしばらくは溶ける心配はないはずだ。けどすまないが念のためにナズナ、君は触らないように」
「はい、わかりました」
床にタオルを敷いて氷の傍にミーティアさんと座って休む。
ひんやりとした空気が漂ってきて涼しい。
「ナズナ!ミーティア!いる?」
浴場の入口からエリュさんの声がする。
「はい!どうかしましたか?」
「師匠が呼んでるわ!上がってらっしゃい!」
「わかりました!」
トーチカさんに氷のお礼を言って、ミーティアさんと急いで身体を拭く。
不思議な力で光を放ちながらドレスを纏ったミーティアさんが私の髪を拭いて、着替えを手伝ってくれる。
扉の外で待っていたエリュさんに連れられて、ガンドルヴァルガさんと初めてあった広間に案内される。
「迷宮攻略にコーネルとミーティアも同行してくれることになった。残念じゃがわしはリーシルのことがあるから留守にはできん」
「三日後に迷宮のある東の渓谷に向けて出発するわ。しっかり休んで用意するようにね」
「ミーティア、そういうことなんだが大丈夫か?」
「もちろん」
「ナズナ、渓谷まで向かう途中も訓練するから覚悟しておくのよ」
「わかりました」
「ねえ、エリュって何歳なの?私知りたいわ!」
「何よ急ね」
「お風呂でナズナからエルフだって聞いて」
「512だったかしら。そういうあなたはいったい何年生きてるのよ」
「私はわからないわ。だって何年遺跡に閉じ籠っていたか、わからないもの。コーネルと出会ってからだと4年ってとこかしら。賢者様は?」
「わしか?すまんがもうよく覚えとらんのう」
「私と一緒ね」
「はっはっはっ!そうじゃな。もう質問はないかな?」
「はい。質問なんですけど…」
「なにかな?ナズナ」
「あの、鞄とか持ってないんですけど、どうしたらいいですか?」
「ナズナの着替えくらいなら私の鞄に入れといてあげる」
「ありがとうございます」
エリュさんにお礼を言ってその場はお開きとなり、ガンドルヴァルガさんを残して広間を後にした。




