お姉様
「起きた?」
エリュさんが私の顔を覗き込む。
膝枕をしてくれているみたいだ。
「どれくらい眠ってましたか?試験は?」
「大丈夫よ。そんなに時間は経ってないから。試験はどうかしら?」
木の棒を振って素振りをしていたコーネルさんがこちらを見る。
「俺が判断するのか?」
「実際に戦った人の意見も聞かないと」
「まあそうだな、子供にしては頑張ったんじゃないか」
「迷宮で戦えると思う?」
「わからない。どこの迷宮もここ数年でかなり魔物が増えているしな。でも、懐に飛び込む勇気と蹴飛ばされても反撃する根性があるから、及第点じゃないか?」
「そうね…ギリギリ合格よ。ナズナ」
「玉取れませんでしたよ?」
「あれはまあ取ったことにしてあげる。それに敵の前で気を失ったりはしなかったからね」
「頑張って森を歩いた効果ですね」
「そうね」
身体を起こして立ち上がる。
「ミーティアさんは?」
「私はここよ」
コーネルさんの背中が光ってミーティアさんが現れる。
「あの、私も武器になれるんですか?」
「同じ武器の精霊に会ったの私も初めてだからわからないわ。でも私も剣出せるしできるかも?」
そう言いながらミーティアさんが何処からともなく出した大きな剣を軽々片手で振り回す。
「鞘は作ってもらったんですか?」
「ん?鞘も私よ。まあ鞘はホイホイ出せないんだけどね」
「そうなんですか?」
「なんというか…鞘は私なの。コーネル!」
「どうした?ミーティア」
「この子に説明してあげてほしいわ」
「そう言われてもなぁ。けど武器に変身できれば、いざというときに役立ちそうだ」
「そうね。罠とかもあるし、咄嗟に武器になれたら怪我をしないですむかもしれないわね。ナズナ試してみましょう」
「そう言われましてもどうやればいいのか…」
「俺の手を握って。そして身体を俺に預けるんだ」
コーネルさんがしゃがんで右手を差し出す。
右手をそっとコーネルさんの手に乗せると強く握り返される。
身体を預けろと言われてもどうすればいいんだろう。
「ナズナ、難しく考えずに彼を信じなさい。彼は人族だからあなたの不思議な力の影響はないから大丈夫よ。それに変なことしたら師匠と私達が殺すから」
「エリュさん、わかりました」
「おっお手柔らかに頼むよ…」
エリュさんの言葉で少し安心し、私は左手も添えて両手でコーネルさんの手を握り、目を瞑って想像する。
どうしよう。刀になることを想像すればいいのか盾になることを想像すればいいのかどっちかわからない。
何も感じない。
「ごめんなさい…」
「しょうがないよ。今日会ったばかりだしね」
「刀になるのか盾になるのか考え出したらよくわからなくなってきて」
「刀になるか盾になるか?そういえば、ミーティアは両手剣だけど、君は何の武器の精霊なんだ?」
「一応刀とあの変わった盾の精霊みたいです。刀と盾は同じ素材で作られたんだろうって」
一応勇者の武器だったということとガンゼツの武器だということは伏せておく。
「確かに鎧の精霊がいたらきっと鎧全部で籠手だけとか兜だけってことはなさそうだ」
コーネルさんが納得してくれたようなので、ひとまず黙っておく。
「あなたは誰かに剣術を教わったの?」
「いいえ、私が精霊になる前に使ってた人の動きをなんとなく覚えているみたいです」
「へー私なんてただ振り回すだけだわ。それに前の使い手のことなんて記憶にないもの」
「そうなんですか?」
「ええそうよ。気づいたら石造りの部屋にこの姿でいたわ。しばらくは閉じ籠っていたんだけど暇になって外に出てみたらなんか黒い奴に襲われてね。コーネルが助けてくれたの」
「その綺麗なドレスを着ていたんですか?」
「そうだけど?」
「この子全裸だったらしいわよ」
エリュさんがニヤニヤしながらばらしてしまう。私は恥ずかしくて顔が熱くなる。
「あなたも遺跡にいたの?」
「私は武器の持ち主だった人のお墓の棺の中で目が覚めました」
「同じ武器の精霊でも全然違うのね。私を魔法を使えるのに、あなたには魔法が効かないどころか弾かれて消えたし、私は目覚めた時からこの身体なのにあなたは小さな子供だし、でも同じ女性だし…」
ミーティアさんが腕を組んでぶつぶつと何か考えながらうんうんと一人頷く。
「まぁとりあえず私の方がお姉さんみたいだし、お姉様と呼んでもいいわ」
「また変なこと言って…気にしないでいいからな」
「いえ、嬉しいです。自分が何者なのかもよくわかんなくて、同じ武器の精霊の人にそんなこと言ってもらえるなんて…」
「おおーよしよし妹よー」
ミーティアさんがぎゅっと抱き締めて頭を撫でてくれる。大きな胸でちょっと苦しい。
「ありがとうございます。えっと…ミーティア、お姉さま…」
更に強く抱き締められて息が止まりそう。
「おーいミーティア、せっかく出来た妹が死にそうだよ」
「あら?」
「とりあえず城に戻りましょうか。あなた達も来るでしょ?」
「ええ。賢者様に挨拶しとかないと。いくぞミーティア」
「わかったわ」
しゃがんで私を抱き締めていたミーティアさんが私を放して私の手を握って引いてくれる。
「行きましょナズナ」
「はい、お姉さま」
ちょっと恥ずかしいけど悪い気分じゃない。




