剣の精霊
訓練場に着くとエリュさんが待っていて、横には知らない男が立っている。
「よく来たわね。核ははちゃんとあるかしら」
「はい」
私は緑色の玉を二つエリュさんに渡す。
「よし。さて、元々はここで私が首から下げたこの大きな玉を奪えるかどうかっていう抜き打ち試験をするつもりだったんだけど、師匠が呼んだ二人に代理をお願いすることにした」
「二人?」
「ここよ」
男から女の声がしたかと思うと、背に差していた剣が光り、人の形になる。
どこかでみたドレスの綺麗な女の人だ。
綺麗な金色の長い髪にぱっちりとした瞳は青く輝いて見える。そして胸が大きい。
切れ目の入ったドレスからは綺麗な白い足が見える。
「私はミーティア。あなたと同じ精霊よ。彼はコーネル、私の愛しの人よ」
「こいつと一緒に傭兵をしてるよ。よろしく」
茶色いツンツンとした頭で少したれ目の人はコーネルというらしい。
少し大きめの白いシャツの袖を捲り、茶色いズボンにブーツ、年は青年といった印象だ。
「賢者様に頼まれて、君に彼女を会わせるために来たんだ。ミーティアと同じ武器の人口霊だと聞いたよ」
「はい、ナズナです。よろしくお願いします」
「あなたの相棒は頭の上のかわいこちゃん?」
「私はエリュの使い魔。試験官として危なくないか見てただけ」
リリクラがぴょんぴょんと頭から降りてエリュさんの肩に乗る。
「あなた一人ならこっちも私一人の方がいいかしら?」
「いや二人でやろう。賢者様にもそう言われてる」
「てことらしいわ。聞きたいことはいろいろあるだろうけど試験が終わってからでいいかしら?」
「はい」
コーネルさんがエリュさんから玉を受け取って首から下げる。
「ミーティア」
コーネルさんの声に合わせるかのようにミーティアさんの身体が光に変わり、コーネルさんの回りに飛んでいくと背中に剣が現れる。
「いいわよコーネル」
コーネルさんが右手で柄を掴み、ヒュオンという音を出しながら鞘から抜く。
銀色の両刃の剣身、長めのガード、長めの柄、一見するとただの両手剣だ。
私も刀を脇に構えて、左肩に盾を浮かせる。
「じゃあ試験開始!」
エリュさんの号令と同時にコーネルさんが一瞬で距離を詰めてくる。
きんと大きな音がして、刀で右から来たなぎ払いをなんとか受け止めたと思いきや、そのまま軽々と弾き飛ばされる。
「コーネル、あの刀気持ち悪いわ」
「気持ち悪い?」
「打ち合った時、変な感じがしたの」
「わかった」
起き上がり体勢を整える。力では一切勝てない。鍔迫り合いを避けられるならこっちも都合が良さそう。
コーネルさんが素振りをする。すると無数の光がこちらに向かって飛んでくる。
盾でそれを防ぐと、こーん、かーん、とーん、と綺麗な音を出して消える。魔法だ。
「魔法は効かないみたいだ。ミーティア」
「わかったわ」
土が舞い上がり、コーネルさんが消える。
ガキン!と耳元で大きな音が響いて、反射的に音がした方へ視線が向く。
ぎぎぎと剣と盾がせめぎ合っている。
「盾も気持ち悪いわ」
「刀と同じか」
今のうちだと思い、刀を消して懐に入り込み玉へ手を伸ばす。
指先が玉に触れる。瞬間、口から空気が漏れてお腹に鈍い痛みが走り、身体が宙に浮く。
「くっ!」
刀を出して、玉を吊るしている紐を狙って横に斬り払う。
「おっと」
コーネルさんが後ろに跳んで軽々と避け、私は受け身も取れず背中から地面に落ちる。
「根性は合格だな!」
即座に上から振り下ろされる一撃を刀で受け止める。
衝撃で手が痺れ、重くて起き上がれない。
「降参するか?」
更に力を込めながらコーネルさんが涼しい顔で言う。
なんかちょっとむかつく。
「いえっまだ、です…!」
四つの鉄塊で頭と両手を狙う。長方形の青い鉄を真っ直ぐに飛ばす。
コーネルさんが軽々と捌き、避ける。
けど私から引き離すことには成功した。
身体を起こして、刀を構える。隙を作って玉を取らないと。
剣を止めてもきっとさっきみたいに蹴飛ばされる。
距離を詰めて、上段から斬りかかる。
避けたところを鉄塊で追撃するけど見もせずに剣で受け止められる。
頭が割れそうになるけど、手を緩めたらおしまいだ。
「君、よく顔に出るって言われないか?」
「っ!よく言われます…」
「全部、視線と表情に出てるよ。だから簡単に防げるし避けれる。それにあまり長く盾を分裂させてられないんだろ?」
その通りだ。体力を無駄にはできないからそれ以上返事はせずに攻め続ける。
「君のためにもならなそうだから、もう終わりにしよう」
また土が舞い上がり、コーネルさんが消える。
一瞬で目の前に迫る刃一つの鉄塊で受け止め、姿勢を低くして懐に飛び込み、私を狙う膝も鉄塊で受け止める。
玉に手を伸ばす。
コーネルさんがまた後ろに跳ぶ。どすっと音がしてコーネルさんの背中に出しておいた残りの鉄塊にぶつかる。
その隙を逃さずに玉を掴んで引っ張る。
「あらら……痛てててて!」
紐が千切れず、コーネルさんの首に思いっきりめりめりと食い込んでいた。
「ごっごめんなさい!」
咄嗟に玉を放す。
「終わりよ!終わり!」
エリュさんが号令をかけて大きなため息をつく。
終わりと聞いた私はふっと全身から力を抜けて落ちてしまった。




