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恥ずかしい

「明日からは体力作りを兼ねて森の中を歩きながら色々教えようかと思ってるんだけどどうかしら?」

「はい、楽しそうです」

「基本的には城の周りを散策して帰ってくる感じだけど、迷宮攻略を想定して野営訓練も考えてるわ」

「いいですね。ナズナさんのお花はないと思いますが、ブブならどこかに生えているかもしれませんよ」

「そうね、南の方なら生えているかも。森は大きくて私達でも把握できてない場所があるから」

「そんなに広いんですね」

「迷子になったら木に登って城を探せば大丈夫ですよ」

「それでもわからなかったら木を傷つけると管理人が飛んでくるわ」

「管理人?」

「この森に住んでいる妖精ですよ」

「そのうち会えるわ」

「さあ、そろそろおやすみした方がいいでしょう」

「そうね。明日に備えて休みなさい。朝迎えに行くわ」

「わかりました」


 二人が部屋を後にする。

 いつの間にかだいぶ症状は落ち着いていて、眠りにつくことが出来た。

  そして久しぶりに夢を見る。

 男が焼け崩れた火事の跡を見つめている。

 青いケープをしてるから勇者だろうか。左腰に刀を差している。

 藁色の髪の女性がやってきて声をかける。エリンさんだ。


「またここにいたの?」


 勇者が振り返り答える。


「近くにきたら必ず寄るようにしてるから」

「あまり自分を責めないでね」

「別に責めてない。俺がいたところで結果は変わらないし」

「そんなことない」


 エリンさんは悲しそうな顔をしている。

 勇者の顔はフードでよく見えない。


「約束してたんだ。旅に連れていくって」

「じゃあ連れていってあげよう」


 エリンさんが手を伸ばすと木の杖が現れる。

 先端には林檎のような赤い実が成っている杖だ。

 エリンさんが両手で掲げるように杖をかざすと赤い実が光輝く。

 すると火事跡から煙のようなものが渦を巻きながら杖の先で輝く赤い実の回りに集まる。

 ぐるぐると回る煙が徐々に四つに別れ、完全に別れると回転が止まる。

 左手で杖を持ったまま右手を杖の先端にかざし、何かを呟くと煙の塊が結晶のようなものに変わる。一つ一つ丁寧に四つの結晶を作ると、出来た結晶を小瓶に容れる。


「はい。これ。余計なことだったら、ごめんね」


 エリンさんが小瓶を勇者へと渡す。


「これは?」

「あの子達」


 小瓶を胸に抱いた勇者の肩が震える。


「ありがとう、エリン。みんな一緒に行こう」


 後悔や悲しみだけじゃなく様々な感情が押し寄せてきて深く沈んでいく。

 まるで水の中のよう。

 何かが通りすぎていく。女の子が泳いでる。まるで空を飛ぶように手を掻かず、足もばたつかせず。

 更に二人の女の子が泳いでいく。

 男の子が一人私の回りをぐるぐる回る。

 すると女の子達が戻ってきて男の子が引っ張られながら奥底へと消えていく。

 残された私は少し不安になる。

 するとリネが犬掻きをしながら来てくれる。

 私はリネの鼻先に抱きついていっぱい撫でる。

 けどなんだか感触が布っぽい。


「リネ…なんだか、お乳の香りがする…ん?」


 見覚えのある大きなミトンが目の前にある。


「おはようございます、ナズナさん」

「おはよう、ございます」


 とりあえず朝の挨拶を返す。


「あれ?なんでアリシアさんが」

「昨日洗った服を置きに来たんですが、布団を掛け直したところを掴まれてしまいまして」


 掴まれる?

 私はアリシアさんの左手に抱きついていた。


「ごっごめんなさい!」


 すぐに左手を放す。


「気にしないでください。可愛らしい寝顔でしたよ。元気になられたようでよかったです」


 あぁ恥ずかしい。布団に顔を埋めて悶える。


「アリシア、ナズナおはよう。朝食を食べたら森へ行くわよ。あら顔が赤いわね。今日はお休みにしましょうか」

「いえ!大丈夫です!」

「私に寝顔が見られたのが恥ずかしかったみたいですよ」

「アリシアには城に来た時にはもう見られてるんじゃ?」

「もう今城にいる皆さんには多分見られてますから諦めてください。さあ朝食にしましょう。フィシェルさんが何か作ってるといいですね」


 抱きついていたことを黙ってくれたアリシアさんに感謝をしつつ、三人で食堂へと向かう。

 食堂にはまだ誰も来てないようで、エリュさんが昨日のお返しだと言ってアリシアさんに代わり厨房で料理をしてくれている。


「そういえばリーシルは大丈夫ですか?」

「はい。植物に囲まれれていれば魔力も回復して良くなると主様もおっしゃっていました。目覚めるのはまだだそうですが」

「そうですか」

「おまたせ。出来たわよ」


 エリュさんが料理を運んできてくれて、三人で朝食を食べる。

 色々な葉のサラダには何か爽やかな香りのする酸っぱいドレッシングがかかっていて美味しい。鶏肉の香草焼きのようなものもいい香りと塩加減で美味しい。平たいパンもパリパリもちもちで美味しい。

 食後にはハーブティーを出してくれて、なんだかまた眠たくなってくる。


「よし、じゃあ出発するわよ」

「はい!」


 少しびっくりして大きな声で返事する。


「いいお返事ですね。エリュさんも無理しないよう二人ともお気をつけてください」

「ありがとう」

「はい、いってきます」


 私はエリュさんに連れられて食堂を後にし、城の外へと繰り出した。

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