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訓練

 巨大な綿毛の塊が振り下ろされる。

 それを左に跳んでギリギリかわす。ばふっと風が起き、髪がそよぐ。

 続けざまに右からなぎ払うように蔓が迫る。

 左腰から刀を抜いて、蔓を切り払う。

 がっと音が鳴り、刀が引っ掛かってそのまま蔓になぎ払われ、身体が宙に浮いたところで攻撃が止む。

 土の上に背中からぽすっと落ちる。


「駄目よ!もっと無心になるのよ!本能に身を任せるのよ!」

「はい!」

「もう一度いくからね!」


 先端に巨大な綿毛のついた大きな蔓がまたたくさん襲いかかる。

 城の外の訓練場でもう朝から何度も繰り返しているけど、私の動きは素人そのものだ。

 今度は振り下ろされる綿毛を右に跳んで、すぐさま綿毛に刀を振り下ろす。

 綿毛に刀が絡まって刀を掴んだまま振り回される。

 吐きそうになる前に動きがゆっくり止まって土の上に降ろしてくれる。


「ごめんなさい」

「少し休憩しましょうか」

「はい」


 少し困ってそうな顔でエリュさんが木のコップに水を入れて渡してくれる。

 お日様が真上にいるからもうお昼だろうか。エリュさんのくれた冷たい水が美味しい。

 きっと本来はもっと激しいんだろう。

 レイゼリアさんが魔法を当てられて膝をついていたのを思い出す。

 本来はトゲトゲのいばらでもっと数が多くて動きももっと早いのかもしれない。

 刀を出して眺める。

 少し反った刀身は普通の銀色のようだけど、角度によって青く見える。

 鍔には右側に雲のようなもの、左側には何かの花が彫られている。花はナズナのようにも見える。

 柄には青い革が巻かれている。

 そういえば鞘がない。


「どうしたの?じっと刀を眺めて」

「そういえば鞘がないと思いまして」

「そういえばそうね」


 私は手を伸ばして念じてみる。


「やっぱり無さそうです」

「鞘は壊れて失くなってしまっているのかもしれないわね。さて続きをやるわよ」

「はい、よろしくお願いします」


 巨大な綿毛達がたくさん生えて、再び襲いかかってくる。

 今度はまず右からのなぎ払いがくる。

 私は刀を構えて目を瞑る。

 盾のように勝手に動くことを期待して。

 思い虚しく、衝撃と共に身体が転がる。


「もっかいいくわよ!」

「はい!」

「発想はいいと思うわよ!盾と一緒のはずよ!あなたの手足のように反射的に動かせるはず!」

「はい!」


 綿毛の塊が振り下ろされる。

 刀を脇に構えて脱力し、今度は目を瞑らずに狙いを定める。

 今だと思ったところで身体が動いてくれない。

 もうぶつかると思って目を瞑ってしまう。

 そしてばふっと風が吹く。

 目を開くと綿毛が真っ二つになっている。


「油断しない!」


 左から蔓が迫る。今までは私が怖がって刀を早く振りすぎていたんだろうか。でも普通に蔓になぎ払われたりもしている。

 わからない。

 しかし無数の綿毛を全部斬るまで訓練は終わらない。

 勢いに乗って絶対に斬ってやる。

 私は刀を脇に構え、一歩踏み出して、迫る蔓に自分から近づく。

 身体が動く。

 下から斬り上げ蔓を両断する。

 駆け出し、左右からくるなぎ払いを斬り伏せ、振り下ろされる蔓をかわし、斬り落とす。

 そして蔓の根元まで駆け、一文字に斬り払う。


「何か掴んだみたいね」

「はい、多分」


 おそらく私が攻める意志を持てるかどうかだと思う。

 私は刀を植物以外に振れるだろうか。


「一旦休憩にしましょう。次の段階に進むわ」

「はい」

「丁度良い時に来たようですね」


 籠を持ったアリシアさんが歩いてくる。


「アリシア、どうかしたの?」

「お二人が戻ってこないようだったので昼食をお持ちしました」

「ありがとう。確かに丁度いいわね。今から戻って昼食を取りに行こうかと思ってた。ナズナ、大丈夫?すぐ食べれそう?」

「はい大丈夫そうです」

「じゃあいただきましょうか」


 アリシアさんが籠から丸い包みを出して、私とエリュさんに手渡してくれる。


「いただきます」


 つるつるとした紙を開くと白い粒々の塊が顔を出す。海苔はないけどおにぎりだ。

 塩気がお米の甘味に引き立てて美味しい。


「訓練は大丈夫ですか?厳しくないですか?」

「大丈夫よ。ちゃんと反省して加減してるわよ」

「フィシェルさんが心配していらっしゃったので」

「ちゃんと手加減してるから大丈夫って言っておいて。大丈夫よね?」


 不安になったのかエリュさんがこちらを見る。


「大丈夫です。地面もふかふかの土にしてくれて怪我もしてないです。レイゼリアさんに言ったら驚かれるんでしょうか」

「そうね。言わない方がいいかもね」

「冗談を言いあえるほど仲良くなったようでよかったです」


 アリシアさんがうふふと手を口に当てて笑う。

 私は気恥ずかしくなって、おにぎりを食べて誤魔化すと照れてるのがわかったのか、二人に笑われる。


「さて私はそろそろ戻ります」

「わかったわ。おにぎりありがとね」

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「日が落ちる前には帰ってきてくださいね。ほれでは」


 アリシアさんが城へと戻っていく。


「さあ次の訓練を始めましょう。リリクラ、お願い」


 エリュさんの肩からひょこっとリリクラが顔を出す。


「ほんとにやるの?」

「そうよ。お願い」

「はぁわかった」


 リリクラが土の上に降りてもぞもぞと土に埋まる。

 すると土から次々に人型の蔓が這い出してくる。

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