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精霊

「まず精霊について話そう」


 そう言ってガンドルヴァルガさんが右の手のひらからレイゼリアの姿の光を出し、左の手のひらから兎の姿の光を出す。


「まず人と動物は基本的に一切魔力を持たずに生まれ、その身体は血肉によって出来ている」


 今度は右の手のひらにリネの姿の光を作り、左の手のひらに竜の姿の光を出す。


「彼らは魔法生物と呼ばれ、身体が血肉によって出来ているが魔力を持ち、普通の動物よりも高い知能を有し、魔法を扱えるものもいる。エリュの使い魔で先ほど話をしてくれたリリクラもこの魔法生物と呼ばれるものだ」


 今度は右にフィシェルさん、左にリリクラの化けた魔族の姿の光を作る。


「魔法生物と同じ様に血肉によって出来た身体と魔力を有する人間は亜人族と呼ばれる。魔族というのはその中でイー大陸に住む角や牙、尻尾などがある種族達がそう呼ばれている」


「私や師匠も亜人族。エイリアという種族だけど一般的にはエルフという名前で知られているわね」


 そう言いながら、エリュさんが丸い耳に手を添えるとガンドルヴァルガさんのように横に伸びた長い耳になる。


「普段は隠しているの。怖がられたりすることがあるから」


 そう言って微笑むと耳を短い丸い耳に戻す。


「フィシェルは魔力を持たない両親から生まれた人族だが、学術的には私達と同じ亜人族ということになる。ここまでは大丈夫かな?」

「えっと、はい大丈夫です」


 レイゼリアさんが魔力を持たない人族ならなぜ魔法が使えたんだろうと思ったけど、今は関係無いかもしれないと思い、聞くのはやめた。


「ではいよいよ精霊だ」


 右の手のひらに燃える筋肉質の男、左の手のひらに流動する細身の女の姿を出す。


「これは火の精霊と水の精霊。精霊とは外界に満ちる魔力が形を持ち、自我を得た存在。リーシルは古くから存在する深い森に満ちる魔力から生まれた妖精族の一人。彼らは自然霊とも言われている」


 今度は右の手のひらに剣を、左にドレスを着た女を出す。


「そして君のように、人が作った物が長い年月を経て精霊となることがある。自然霊に対して人口霊と呼ばれている」


 ガンドルヴァルガさんが両手で様々な武器の形の光を出す。その中には刀と盾もある。


「ガンゼツの武器の素材や製錬方法は失伝している。もしかしたらガンゼツの子孫が何処かにいるかもしれないが、もしその秘密を知っていれば今なお鍛冶職人として名を馳せているだろう。予測できることは盾と刀に勇者との媒介になる物が使われているだろうということ。彼の魔力そのものか、はたまた髪の毛か血か」

「髪の毛か血…」

「そう言ったものを素材に使うことは別に珍しいことじゃない。古くから魔法生物を素材に武器や防具を作っていた。特に魔力を持たない人族が長らく争ってきた魔族に対抗するために用いていた。それにリーシルの傷が癒え、目覚めれば何か聞けるかもしれない。それも君の頑張りのおかげだ。だからあまり考え込んで、塞ぎ込む必要はない」

「ありがとうございます」


 私と同じような精霊がいる。それがわかっただけでも少し気が晴れる。

 いつか会えたらいいな。


「ふぅ、長話になってすまなかったな。改めて、妹を救うために力を貸して欲しい」

「わかりました。でも私は戦える気がしないのですが…」

「そうだな。魔法や座学は教えてやれるかもしれないが、剣術となるとなぁ。エリュお前が鍛えてやりなさい」

「師匠、それは、その、彼女も嫌でしょう」

「君の弟子のレイゼリア姫とナズナは友達だとフィシェルに聞いておる」


 レイゼリアさんはフィシェルさんに私のことを友達だと言ってくれていたらしい。

 嬉しくて顔がほころぶ。


「嫌だというなら、それがお前への罰だ。改めて責任を持って彼女に力の使い方を教えてあげなさい」

「本人の意思を尊重するべきかと」


 困り顔でエリュさんが私を見る。

 私はガンドルヴァルガさんと一緒の今を逃すと話しづらくなってしまいそうで正直な気持ちを話す。


「エリュさんのことは正直、怖い、です」

「当たり前よ。ごめんなさい師匠やはり…」

「でもっ!レイゼリアさんが信じたエリュさんを私も信じたい、です」


 エリュさんの言葉を遮って気持ちを伝えた。


「そう、ありがとうナズナ」

「決まりじゃな。わしらは失礼するとする」

「はい、師匠。ナズナもまた明日ね」

「はい、失礼しました」


 エリュさんの部屋を後にして、ガンドルヴァルガさんが腹が減ったから飯にしようと言い、二人で食堂に行く。

 食堂にはアリシアさんとフィシェルさんがいて、フィシェルさんが完成したというデザートを食後に振る舞ってくれた。

 私が選んだひびだらけの赤い実、名前をシャオンというらしいそれとブブの実のタルトで、甘いクリームと甘いシャオンを少し酸っぱいブブの実がまとめてくれている気がする。


「あーエリュかー。もー無理だと思ったら俺に言えよ?」

「それはどういう?」

「なんじゃ、エリュは教えるの下手なのか?」

「いやー、下手ではねーと思うけどよぉ」


 私とガンドルヴァルガさんが一緒にいたアリシアさんを見る。


「私はエリュさんがお弟子さんを鍛えているところを見たことがないのでわかりません」


 次の日、私は一つの言葉を勇者の記憶から思い出す。

 スパルタだ。

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