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作戦成功だろうか

「急性アルコール中毒かなんかじゃないかって不安になるよ」


 勇者の声が目が覚め、身体を起こすと一面の白い花畑が広がっている。

 まだ目が覚めたわけじゃないみたいだ。


「急性アルコール中毒って?」

「お酒を一気にたくさん飲んだりしたら起きる病気だよ」

「じゃあ…本当にそれかもしれないですね。エリンさんがジュースはこっちって言っていたような」

「それでも本当になんでこんなにお酒に弱いのか俺にもわからないよ。子供の身体だとしても弱すぎて…」

「そうですか…」

「どうにか起きることって出来ないですかね?」

「流石に俺にもどうしようもないかな。でもどうして?」

「このままゲンリュウさんとお別れは嫌だなって…」

「それは…」

「じゃあやってみようよ」

「あの時みたいにだな」

「あの時とはわけが違う」

「そー思う」


 子供達の声も聞こえる。

 あの時とはいったい?


「あの時って?」

「知っているところだと、エリュ…師匠と初めてあった時かな」

「そういえば…勝手に動いていたとか」

「生まれたての赤ちゃんの姿しか知らなかったから彼女がエリュだとは知らなくてね」

「魔族までいたから」

「やばい!」

「って思って」

「みんなでがんばった」

「でも入れ替わったりは出来ないって」

「基本的にはね。話すことは出来ないよ。命が危ない時だけ頑張って動かせることがあるって感じかな。そしてそれをナズナは覚えていられない」

「絶対動けるわけでもないしね」

「うん。普通にやばくても全然ダメな時もある」

「条件は不明」

「そー思う」


 確かにこれがみんなとの入れ替わりのようなものなら師匠ともエリンさんとも意志疎通がとれたはずだ。


「でも動かせたところでだよね」

「どうやって話を伝えるんだ?」

「しがみついておくとか?」

「いいと思う」

「おいみんな、ゲンリュウさんにしがみついてどうする気だ?」

「そりゃそのまま朝まででしょ!」

「そうだぜ!そしたら寝てる間にいなくなるなんてことはない!」

「しかしエリンとフィシェルが引き剥がす可能性も」

「そー思う」

「はぁ…確かにそのまま抱き着いていられるかは賭けだね。どうしたい?」

「えっと…ちゃんとお別れできるなら…みんなにお願いしたい…です」

「じゃあ少し眠ってて。何も覚えてないけど大丈夫。酒のせいってことにしてくれるよ。多分だけど」


 多分ってと言い返そうとした瞬間、どぷんとまるで初めから水の上に座っていたかのように真っ暗な水の中に沈んでいく。

 不思議と苦しくも怖くもない。すーっと自分が暗闇に溶けていく。


―――――――――


「ナズナ?しっかり?」


 ナズナがワインを一気飲みして倒れてしまう。気づくのが遅かった。

 とりあえず椅子から落ちるのはなんとか防いで床に寝かせている。

 話には聞いていたけど本当にお酒に弱かったんだ。

 精霊が酒に弱いとかはあまり聞いたことがない。


「すまない…ナズナ!しっかりしろ!」


 慌てたゲンリュウさんがナズナ覆い被さるので、とりあえず引き剥がす。


「ゲンリュウさんも落ち着いて。ナズナには魔法が効かないからどうにかして起こさないと」

「私が眩しくしようかしら!?」

「ウチが水ぶっかけようか?」

「ナズナちゃんが風邪引いちゃいますよフィシェルさん…」

「んじゃビリっと?」


 フィシェルが指先から稲妻を迸らせる。


「それは最終手段かな」


 ナズナの胸に耳を当て、鼓動が正常なことを確かめ、鼻に手を当て呼吸が正常なことも確認する。

 眠っているだけなのようだ。


「とりあえずは眠っているだけみたいだね。だからリネもゲンリュウさんも安心して」


 そわそわ立って歩いて伏せてを繰り返すリネと間違えて酒を飲ませてしまって狼狽するゲンリュウさんを宥め、この後のことを考える。


「とりあえずベッドに寝かせてあげないとね」


 ナズナを抱き上げようと出した手が突然現れた盾に阻まれる。


「ナズナ?」


 目は閉じたままだ。酔っぱらっているのか、はたまた寝惚けているんだろうか。

 ナズナの頭と腰の下に手を入れて、宙に浮く盾の下から抱き上げやすいようにずらそうとすると、盾が四つに分かれて旋回を始め、慌てて手を引っ込める。


「ナズナ?お店の中で危ないわ!」


 酔ったミーティアがそう言うと旋回していた盾達が空中で動きを止める。

 こっちの声が聞こえているのかたまたまなのか。ナズナむくりと状態を起こす。


「ナズナちゃん?」

「エリン、杖だしとけ」


 フィシェルが席から立ってナズナに杖を向ける。


「エリュをやった時と同じかもしんねぇ。とりあえず店にいる奴はみんな寝てもらっといた」

「ない…とは言えないか。店の中で暴れられても困るし」


 エリュがやられた時と一緒だということなんだろうか。

 フィシェルとトーチカと今代のレイゼリアが止めたと聞いていたけど。


「前はどうやって?」

「花の毒と姫様の子守唄でやっとだ」

「つまり眠っているけど身体が起きてる夢遊病みたいなこと?」

「わかんね。あん時ナズナはエリュにいじめられてボロボロで、防衛本能からの暴走状態って感じだったから落ち着かせようとしたんだ」

「今回はお酒だからわかんないってことか」


 ナズナが立ち上がり、私も咄嗟に杖を出して構える。


「ナズナ…聞こえてる?」


 頷いたかと思いきや、ナズナが盾を消してゆっくりと歩き出す。


「ナズナ、落ち着け。お父さんが悪かった」


 ゲンリュウさんがしゃがんでそっとナズナを抱き止める。


「馬鹿で悪かった…」


 ナズナがぎゅっとゲンリュウさんを抱き締め返す。

 裾まで握り締めてゲンリュウさんが投げ飛ばされないかと心配になるけど、そのまま動かなくなってしまう。


「ナズナちゃん寝た?」

「どう…なのかしら?酔いが覚めてきたわ」


 ゲンリュウさんが軽くナズナの手を引っ張る。


「離れんなぁ…着物を脱がんと駄目かもしれん」

「コーネル、今日はミーティアと寝ろ。ゲンリュウに部屋貸してやれ」

「そうですね。リネはどうする?」


 コーネルくんの質問に答えるようにリネがナズナに身体を擦り付ける。


「リネも俺の部屋で寝るみたいです」

「はぁ…とりあえず宮殿に戻ろうか」

「そーだな」

「ゲンリュウ、ナズナ抱っこできる?」

「問題ない」

「多めに置いといてやるか」


 コーネルがテーブルに金貨を置いて、魔法を解く。

 テーブルの客や座り込んで眠っていた店員が目を覚ます。

 近くの立ち上がってきょろきょろして考え込んでいる店員に声をかける。


「ごちそうさま。子供が寝ちゃったから帰るよ」

「え?あっはい!ありがとう、ございました?」


 外は夜風が涼しく、私の酔いももう覚めてきた。

 ナズナがゲンリュウさんを放してくれたら、ナズナには悪いけどみんなで飲みなおしたいところだ。

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