そういえば全然見かけない
アムムさんと一緒に宮殿に戻り、部屋で一息つく。
お土産を探したけど、今日は開いているお店が少なかったようでちょうど良さそうな食べ物を見つけることは出来なかった。
部屋の中は静かで冷たく、まだお姉さまは戻ってきていないようだ。
「リネ、ちょっとトイレしてくるね」
リネに一言伝えて、バスルームの隣のトイレで用を足す。ここのやつは落ちそうにならなくてすごくやりやすい。
背の低い種族のことも考えてあるのかもしれない。
扉の外からリネがわふわふと吠えている。
備え付けの綺麗な布の切れ端で股を拭き、トイレから出る。
「リネ、どうしたの?」
部屋の中にエリンさんとフィシェルさんがいて、リネを撫でてくれている。
「すみません。トイレにいました」
「おう、トイレの方を向いて吠えてたからそうだろうなって思ったぜ」
「リネ…すごく美味しそうな匂いがするよ……何食べてきたの?」
「えっとお肉を食べてきました」
フィシェルさんがくれていていたお金の入った小袋を返すと、重さを確かめるように手のひらの上でぽんぽんと投げる。
「また何かあったのか?それともゲンリュウと一緒だったとか?」
お金が減っていないことに気づいたみたい。すごい。
「いえ…アムムさんというオーガの方にご馳走になりました」
「オーガ?」
「珍しいね」
「宮殿に宿泊されているみたいで、街に来た渡り竜を倒した方の護衛の一人だと言っていました」
「じゃあ宮殿の中で会って一緒に?」
「一度宮殿を出る前にカウンターの前でお会いして、別々に外に出たんですけど、中央広場で偶然お会いしまして」
「それがどーしたら奢られることになんだか…とりあえず明日の朝にはここを立つ予定だ」
「そうですか…」
「だから今日の夜はまたみんなでご飯にしようかって話をフィシェルとしてね。フィシェルとゲンリュウさんを迎えに行ってきてほしいんだ」
「わかりました。けどエリンさんは?」
「私はコーネルくんとミーティアを残って待ってるよ。リネはどうする?」
リネが私の使っているベッドの上に座る。
お腹いっぱいでお昼寝したいのかもしれない。
「じゃあリネはエリンさんとお留守番よろしくね」
リネがわふっと元気に答える。
「よし…んじゃ、ちょっと行ってくるわ」
「いってきます」
「二人ともいってらっしゃい」
フィシェルさんと二人で宮殿を出て、特に誰かと会うことも何かが起きることもなくゲンリュウさんの泊まる宿に辿り着く。
これが普通のことのはずなのに、なんだか腑に落ちない。
フィシェルさんが宿のお婆さんと話をして、お婆さんが階段を上がると、少ししてゲンリュウさんと降りてくる。
「どうした二人とも」
「明日にはガームスを離れっから、一緒に飯でもどうかって話と、報酬と仕事の話だ」
「そうか。では一旦部屋に戻ろうか」
「おう」
ゲンリュウさんに連れられ、ゲンリュウさん泊まっている部屋に入る。
中はベッドに机と棚が一つの質素な部屋だけど、掃除が行き届いているのか綺麗だ。
「男の使ったものですまないがベッドに座ってくれ」
そう言ってゲンリュウさんが机の椅子に腰掛けると、フィシェルさんは気にしない様子でベッドに腰掛けたので、私もとりあえずフィシェルさんの隣に座る。
「まずこれとこれ」
フィシェルさんが三角帽子から綺麗な赤い小袋と筒状に丸められた紙を取り出してゲンリュウさんに渡す。
ゲンリュウさんが紙を広げて眺める。
「ふむ…これはこれは、書状までいただけるとは」
そう言って今度は赤い小袋の中身を確かめる。
ちゃりちゃりと金属の擦れる音がするからきっとお金だ。
「うむ、確かに」
「あとはこれだな」
フィシェルさんが三角帽子から今度は手紙を取り出しゲンリュウさんに渡すと、ゲンリュウさんがすぐに封を開けて中を広げる。
「かたじけない。しかと承った」
何が書いてあったんだろう。
「議長殿が出す連絡船に乗せていただけることになった。ナズナのおかげだな」
また顔に出ていただろうか。
ゲンリュウさんがにかっと笑って私の頭を撫でる。
「お会いできたのはたまたまですけど…よかったです」
「これでとりあえず仕事の話は終わったんだがどうすっかな」
「確かに夕飯の時間まではまだあるな」
「待ち合わせをしているわけではないですし、一度宮殿に戻った方がいいんじゃないでしょうか?」
「そだな…そーすっか。ゲンリュウもそれでいいか?」
「かまわないぞ」
「下で待ってってから、用意しておりてきてくれ」
「ああ。少し待っていてくれ」
フィシェルさんと一階でゲンリュウさんを待ってから、一緒に宮殿に戻る。
もちろん誰かと会うこともなく、何かが起きることもなかった。
やっぱり子供一人は危ないってことなんだろうか。
そういえば街で子供を見かけたことがほとんどない。見たのはアルセルの城下町だけなような気がする。
普段子供はどこで何をしているんだろう。
家の中でお手伝いだろうか?
それとも託児所のようなどこか子供を預かる施設が?
もしかして一人じゃ危ないから今日出会った二人は声をかけてくれたんだろうか。
きっとやっぱり街は危ないところだ。




