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銀の戦乙女

 剣になったミーティアと二人、街の東側の暗く狭い路地で樽に蛇が巻きついた看板を見つける。


「ここが手紙に書かれてた場所みたいよ」

「そうだな」


 宮殿の部屋で一人休んでいた時に、係の人なのかいつも一階のカウンターにいる執事風の人がわざわざ部屋まで届けてくれた手紙には地図と差出人の名前だけが書かれていた。

 差出人の名前はエーリア・ハイトタイト。

 ガームスには傭兵ギルドの支部もないのに、どうやって俺のことを知ったんだろうか。

 そもそも本当に本人なんだろうか。

 ミーティアを狙った罠の可能性もあるけど、本物だったら相手は一番上の白等級だ。

 銀の戦乙女と呼ばれる最強の女剣士が一体何のようだろうか。

 無礼を働けば今後の仕事に支障をきたす可能性もあるし、頭が痛くなってくる。


「ミーティア念のために俺がいいって言うまでは一言も喋るなよ」

「わかったわ」

「じゃあ中に入るよ」


 深呼吸をして、扉を開ける。

 中はちゃんと灯りで照らされているようだけど、酒場や食堂ではないようだ。

 左側には木箱や棚に大量の瓶が陳列され、右側には樽がたくさん並んでいる。

 どうやら酒屋のようだけど、正面奥のカウンターには人影がない。


「誰かいないのか?」


 三人いる。一人歩いてきてる。

 ミーティアがそう囁く。


「見ない顔だな。おつかいか?」


 白髪の老人が奥から出てくる。特に敵意は感じない。


「エーリア・ハイトタイトさんはいらっしゃいますか?」

「ん?」


 老人が奥を覗き込んでエーリアの名前を呼ぶと、奥から長い銀髪の色白の綺麗な女性が出てくる。服装は何処にでもいる村娘と言った感じだ。シャツに長いスカートを太いベルトで留めている。


「私がエーリアです。あなたがコーネルかな?」

「はい。青等級の俺に白等級の方が何の用事でしょうか?」

「とりあえず入って。お爺ちゃん店番よろしく」

「言われんでもわかってるよ」


 店の奥の部屋に案内されて、椅子に座らされ、テーブルを挟んだ向かいにエーリアが座る。

 窓がついているけどその先は壁で部屋の中は薄暗い。


「申し訳ないですが、お仕事の話でしたら今はお手伝いできませんよ?」

「仕事の話だけど仕事の依頼ではないです」

「じゃあ何の用事でしょうか?」

「海賊を捕らえたとお聞きしましたよ」

「俺じゃなくて雇い主がですけどね」

「そうですか。実は海賊から話を聞きましてね。そちらの剣はガンゼツの武器ですか?」

「いいえ」

「良ければ見せていただいても?」


 エーリアが右手から光の玉をふわりと天井へと浮かばせ、部屋を明るく照らす。

 魔法が使えるみたいだ。


「俺の剣はこれ一つなので申し訳ないですがお断りします」

「警戒させてしまいましたね。ガンゼツの武器を集めているとかそういうわけではないんです。でも私の探しているものか確かめさせて頂けますか?詳細は仕事なので言えません。お金が欲しければ払いましょう」

「もう一人この家にいますよね?」

「ええ…あなたも魔法が?」

「失礼します」


 子供のような声がして扉が開くと、お茶の入ったコップがテーブルに置かれる。

 十二とか十四とかだろうか、成人前くらいの緑色の髪の少女が一礼してから部屋を出ていく。


「三人目が彼女です。何か警戒させてしまっていたならごめんなさい」


 自分の前に置かれたものではなく、俺の前に置かれたお茶を飲んで微笑む。

 淡い青色の瞳に吸い込まれそうになる。


「じゃあエーリアさんの武器も見せていただけますか?それなら俺のも見せますよ」

「わかりました。少々お待ちください」


 椅子から立ち上がると窓際のベッドの下から四角い金属の塊をテーブルに置く。


「こちらが私の仕事道具です。申し訳ありませんが剣は今手元にありません」

「触っても?」

「どうぞ」


 恐る恐る手に持ってよく観察してみる。

 やっぱりナズナの持つ勇者の盾に似ているように思う。角度を変えると銀色の鉄の塊が青く見える。

 そっとテーブルに戻して、ミーティアを抜いてテーブルに置く。


「これが相棒の両手剣です」

「では失礼しますね」


 エーリアがミーティアを手に取り、じっくりと見定め始める。

 剣を見つめる姿も絵になっている。


「とても綺麗な剣身ですね。それに…魔法剣ですか」

「はい」


 エーリアがミーティアをテーブルに置く。


「確かにガンゼツでは無いようですね。しかし私が探しているものの一つだったようです」

「探しているもの?」

「アリューア」


 扉が開き、先程の少女が部屋に入ってくる。


「マスター、やっぱり二人います」


 そう言って俺の前にもう一つお茶を置くと身体が光って消え、エーリアの左手に剣が現れる。銀色の両刃の真っ直ぐな剣身には緑色の読めない文字が刻まれていて、白いガードに白い柄の不思議な片手剣だ。


「ミーティア…世間は広いようで狭いってやつみたいだ」

「そうみたいね」


 ミーティアが変身を解くと、アリューアも変身を解く。


「ごめんなさいコーネルさん。本当は以前から噂を耳にしていました。頭角を表してきた精霊使いがいると」

「それじゃあなんでこんなややこしい呼び出しを?」

「女使いとか女連れとか女を振り回しているとか変な噂も多かったので、しっかりした方なのか少し試そうかと」

「そうですか…」

「どうやら二人への嫉妬からのものがほとんどのようですね」

「私を振り回しているのは本当のことだから仕方ないわ!」

「ミーティアがそんなこと言うからあらぬ噂が広がってるんじゃないか?」

「私もマスターに振り回されていますからしょうがないです」


 変なところで意気投合しないでほしい。


「確かに否定は出来ないですね。コーネル、私は精霊を探しています。酷い扱いを受けている者の保護をしているんです」

「武器の精霊ってそんなにいるんですか?」

「いいえ。武器の精霊は私も会うのはあなた達で三人目です。多くは自然霊ですよ。資源を求める人々に不当に搾取されている精霊を保護して自然に返しています」

「じゃあ今はもう傭兵の仕事は引退しているんですか?」

「副業とでも言いましょうか。今は指名が入った時だけ護衛をしています。ここは私の実家で普段はコルネルホにいます」

「ここから北の方にある城塞都市ですね」

「はい。もし精霊のことを見聞きすることがあれば、ぜひコルネルホにいらしてください」

「わかりました。もしも困っている精霊を見つけた時はエーリアさんのところへ一報を送ります」

「ありがとう。アリューア、ミーティアさんにお部屋を見せてあげたら?」

「はい、マスター。ミーティアさんこちらにどうぞ」

「コーネル…」

「行ってきていいよ」

「わかったわ!」


 アリューアさんに連れられミーティアが部屋を出ていく。

 テーブルの方へ向き直ると、エーリアさんがベッドの下から瓶とコップを二つ出してテーブルに置く。


「せっかくですから一杯だけでもどうですか?向こうも二人だけで積もる話もあるでしょうし」

「そうですね…じゃあ一杯だけ」


 とくとくと音と甘い香りを立てて、コップに黄金色の液体が注がれていく。

 絹のような銀色の髪の毛垂れたのをエーリアさんが耳にかける。

 緊張を吹き飛ばしたくて、注がれたそれを俺は一気に扇いだ。

 焼きつく口内と喉が狙い通り酒だったことを教えてくれる。

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