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これで素手で平気になるんだろうか

 優しい海風が私の長い髪をそよがせる。

 遠くで鳥の声が聞こえ、横ではリネが気持ち良さそうにお昼寝している。

 だめだ。全然集中できていない。

 両手を見つめ、穴を塞ぐように想像しながらぐっと力を込め続ける。

 ぱらぱらと振りかけられた粉が煙となって手のひらから無情にも立ち上っていく。


「これは…」


 エリンさんが困った顔で腕を組む。


「勇者…ユウキさんは出来たんですか?」

「いや…当時は魔法道具もこんなに普及してなかったし、むしろ罠とか武器とか危ないものが多かったからね。魔力を押さえる必要があまりなかったんだ」

「そうだったんですね…」

「けどね、出来ると思うんだ。実際ナズナは既に出来てるでしょ?」

「いえ…全然」


 両手から溢れる煙を高く掲げてエリンさんに見せつける。


「それはまた別っていうか。身体強化や手足から魔力を放出することは出来ているでしょ?魔力の流れははちゃんと制御出来ているんだよ」

「それは…そうかもしれませんけど…」


 粉が煙に全て変わり、煙の収まった両手を下ろす。


「だからね。逆に取り込めばいいんじゃないかな?」

「逆に取り込む?」

「そう。止められないのなら流れを操ってみようよ」

「流れを?」

「出すのとは逆に身体の中に魔力を集めるんだ。引っ込めるというか、身体の外から中へ流れをね」

「でも外に出ている魔力を扱えないから魔法が使えないんですよね?それなのに取り込めるんでしょうか?」

「まずはやってみようよ」

「わかりました…」


 目を瞑り、集中する。いつもとは逆でいいんだろうか。

 外から内へ魔力を、外から皮膚へ、指先から腕を通って肩へ、足先から股関節へ、四肢の付け根から心臓へ。

 熱は感じられない。ちゃんと出来ているのかもわからない。

 それでも想像する。

 心臓からいつも魔力を引き出す下腹部へと魔力を流していく。

 流れを反復しつつそっと目を開いて、どうしたらいいのかわからなくて、ついエリンさんの顔色をうかがってしまう。

 エリンさんは何か言ってくれるわけではないけど、私の視線に気づいてしゃがんで、私の両手を握ってくれる。

 触れた瞬間はひんやり感じたけど、とても暖かい。

 不思議と安心感を覚える私は単純かもしれない。なんだか身体まで暖かく感じる。

 なんだろう。ほんとに熱く感じる。急に怖くなってきた。


「エリンさんなんだか身体が熱いです」

「ほんと?手は特に変わらないけど…」


 エリンさんが私の手を放して腕や肩、頬や首をぺたぺた触る。

 そういえば今日は青いケープ着ていない。

 というかフィシェルさんに借りたシャツのままだったのを忘れていた。

 ぺろんとシャツの服を捲られて、太ももやお腹もぺたぺたされる。


「手足はなんともないけどお腹が少し暖かいね。魔力を上手く流せているってことだよ」


 魔力の熱を全然感じられていなかったから不安だったけど、ちゃんと出来ていたようでよかった。


「よし、粉をかけてみよう」


 エリンさんが私の両手に粉を振りかける。

 その光景をみていると心臓の鼓動が早くなる。怖い。

 そして恐怖が形になったのか、ゆっくりと煙が立ち上る。

 やっぱりだめだったんだ。


「そんな顔しないでナズナ…よく見て、煙が凄い減っているよ。あんなに火種みたいにもくもく出ていたのが今はちょっとした湯気くらいだよ?」

「これで…ものに触れても平気なんでしょうか…」

「そうだね…すぐに試させてあげたいけど、それは港に着いてからにして、少し休んだ方がいい」

「でも…」

「震えてる…一回やめよう?ね?」


 震えているとはどういうことだろうと思いつつ自分の両手へ視線を落とすと、ぴくぴくとして震えていた。

 全然気がつかなかった。

 すぐに魔力をお腹に集めるのを止め、手袋を着け直す。


「全然気づきませんでした…」

「平気ならいいんだけど、一応今日はもう止めておこう」

「わかりました」

「それにしても、みんな起きないね」

「そうですね。こうやって普通に話していても誰も…」

「もうすぐお昼になるのに」

「そういえばフィシェルさんが早ければお昼に港に着くって」

「ちょっと見てみようか」


 エリンさんが望遠鏡を取り出して水平線を見つめる。


「港が見えてきたよ。暗くなる前には着くんじゃないかな」


 そう言って私にも望遠鏡を貸してくれて、私も覗いてみると、石造りの街並みが見える。

 空には何かが飛んでいるような?


「エリンさん、何かが飛んでるみたいですよ」


 エリンさんに望遠鏡を返すと、どれどれと呟いて望遠鏡を構える。

 

「飛竜便かなぁ…いや渡り竜かも…巣立ちの時期にしても最近多い気がする」

「ガームスは大丈夫なんですか?」

「慣れているだろうから一頭くらいは平気だと思うけど…」


 エリンさんが私の顔を覗き込む。


「行きたいって顔に書いてるよ」

「え?」


 心配になったのは認めるけれど、そんなにうずうずして見えただろうか。


「リネ」


 エリンさんに呼ばれたリネがすくっと起き上がる。


「港の様子をナズナと見てきて欲しいんだ。街がどんな様子でも必ずナズナ連れて船に戻ってきて。リネなら余裕で勝てるかもしれないけど、二人だけで無茶しないこと。ナズナもね」

「わかりました」


 散々一人で突っ込んでいっているから信用がないのは仕方ない。

 エリンさんが右手の指先で円を描いて穴を開け、中から茶色い布地を掴み出すと、私に羽織らせてくれる。外套だったみたいだ。


「これを着ていくといいよ。いつものケープはフィシェルが持っているから」

「ありがとうございます。リネ、お願い!」


 伏せてくれたリネに股がり、しっかりと皮を掴むと、リネが何も言わなくてもふわりと飛び立つ。

 リネには街の方向がちゃんとわかるようで、迷わず真っ直ぐに速度を徐々に上げて風を切っていく。

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