新しい訓練
フィシェルさんの手のひらの上の丸い水晶玉が光を失う。
「私でも会話出来るんですね」
「そうみてぇだな。エリュと話せてよかったじゃねーか」
「はい。ありがとうございます」
「飯に戻ろうぜ」
「はい」
舵から階段を下りて甲板に戻って席に座り直す。
「ガンドルヴァルガから突然何の話だったのか聞いてもいい?」
エリンさんがそう口にすると、お姉さまが身を乗り出す。
「私も気になるわ!」
「別に何か緊急の仕事とかじゃねーよ。ただナズナに招待状届いたんだけど、戻るのはどれくらいになりそうかってよ」
「ナズナに招待状?」
「友達のお姫様からだよ。行くにしても行かねーにしても返事は必要だからきっと急ぎの手紙を寄越してきたんだろ」
そこまで思い立ってなかった。
ただ私がお城にいないからかと思っていた。
確かにお姫様からの手紙にお返事をしないわけにはいかなさそう。
「レイゼリアだったかしら?」
「そうです。お姉さま」
「私もちょっと気になるな…レイゼリアの子孫。なに孫になるんだろう」
「とりあえず二月後の生誕祭に間に合うようにしてくれってよ」
「二月後…」
「安心しろコーネル。バックには必ず寄るから」
「あっいや!…ありがとうございます」
「間に合うようにちゃんとエリンさんとフィシェルさんの言うことを聞くように言われたした」
「お主らもなんだか忙しそうだなぁ。うむ、美味かった美味かった」
私もまたクラーケンの炊き込みご飯を口に運ぶ。
貝のような出汁と味がして美味しい。
気づいたら食べ終わってないのは私だけみたい。
残りの半分もせっせと食べる。
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
「喜んでくれてよかったよ」
「見た目はあれだけど美味しかったわ」
「そうだね」
「まだまだあるから安心しろ」
「そうだったな。さてこれから何をするか…」
「エリンさんかフィシェルさん、釣り竿とかって出せたりしませんか?」
「出せるよ」
「ほんとですか?釣れるかわからないけど釣りでもしようかなと」
「いいよ」
「じゃあナズナはウチとエリンと訓練な」
「訓練?」
「魔力を抑えて止める訓練だよ」
「わかりました」
「ほう…では俺も釣りをしてみてもいいか?」
「もちろんですよ。ミーティアはどうする?」
「私は訓練一緒にやってみてもいいかしら?精霊だから他人事じゃないような気がして」
「じゃあ一緒にやろうか」
「ええ!」
「んじゃとりあえず片すか」
フィシェルさんの言葉でみんな席を立つと、ゲンリュウさんとコーネルさんさんがテーブルを運んで、エリンさんとフィシェルさんが椅子を宙に浮かせて移動させていき、あっという間に元通りの広々とした甲板になる。
「リネは寝かせておいてあげて…はいこれ。コーネルくん、ゲンリュウさん」
「ありがとうございます」
「かたじけない」
エリンさんがどこからか釣竿を二本出して二人に渡す。
「一応疑似餌がついてるけど、あまりにも釣れないようだったらフィシェルに何か餌になりそうなものを貰うといいよ。船倉からクラーケン少し持ってきてもいいし」
「わかりました」
「承った。よし夕御飯も豪勢にしてやらんとな!」
「はい!頑張りましょう!」
同性同士、息が合うのか二人で仲良く甲板の縁に立って釣竿を大きく振る。
「おし、リネも日陰に移動してやったし始めるぞ」
「お願いします」
「お願いするわ」
「んでどーすんだエリン?」
「ん?私?私も教えるのはあんまり得意じゃないんだけどなぁ。じゃあまずは二人とも、手のひらから魔力を出してみて」
手袋を外して、ブーツの隙間に入れておき、手のひらから魔力を出す。
手のひらからチカチカと白い光ような炎のようなものが吹き出る。
お姉さまの手のひらからは綺麗な黄金の炎が輝いているように見える。
「二人とも上手に出来たね」
私のは上手なんだろうか。
「今度は出すのを完全に止めてみて」
言われた通りに魔力を止めると、私とお姉さまの手にエリンさんが何か粉を振りかける。
するとなんだか私たちの手から赤い煙が立ち上る。
「その赤い煙が出るってことは魔力が漏れているってことなんだ。フィシェル、手」
「おう」
エリンさんがフィシェルさんの手に同じ粉を振りかけても何も出ない。
「フィシェルはレイゼリアやコーネルくんと違って魔力を持っているけど、こうやって完全に魔力の流出を止められる」
「全身にぐっと力を入れて、穴を塞ぐ感じ?」
「そんな感じかな?精霊の二人が出来るようになればきっと敵は二人をただの人だと勘違いするよ。だからゆくゆくは全身の魔力を止めれるようになって欲しいけどまずは手足かな。魔力に反応する罠とかもあるからね」
「これはもう繰り返すしかないのかしら?」
「そうだね…意識して繰り返すしかないかな」
両手のひらを見つめて集中する。
ぐっと穴が塞がるように。魔力が漏れ出さないように。
魔法道具とか触っても壊れないように。
エリンさんが私の手に粉を振りかけると、無情にも赤い煙がゆっくりと立ち上る。
「やっぱりだめなんでしょうか…」
「うーん…練習あるのみだね」
エリンさんが今度はお姉さまの手のひらに粉を振りかける。
すると先ほどよりも煙が少なくなっているように見える。
「ミーティアはいい感じだね」
「でも、身動きが、出来そうに、ない、わ…」
これはかなり厳しそうだ。
出来るようになるのだろうか。




