久しぶりの声は元気そうだった
街道から外れて森に入り、門をくぐって城の近くへと移動して、のんびりと城に向かって歩く。
なんだか少し騒ぎがあったらしいけど、変わった様子は無く、いつもの森のようであんしんする。
「さて、久しぶりの帰省だな」
「そうね。トーチカも今回はゆっくり出来るの?」
「どうだろう。ゆっくりしたいところではあるが…エリュの方こそアルセル行きで忙しいんじゃないか?」
「アルセルには穴を通っていけるからそんなでもないわね。とりあえず報告を済ませましょうか」
「そうだな」
トーチカと城に帰り、そのままの足で真っ直ぐに実験室に向かう。
相変わらずの長い階段を上がって、トーチカが扉を叩く。
「師匠、居られますか?トーチカとエリュ、帰還致しました」
「中に入ってくれ」
トーチカが扉を開けてくれ、先にと促されてありがたく通してもらう。
「二人ともよくぞ無事で戻ったな。ゆっくりと休んでいくといい」
「ありがとうございます。こちらが資料になります」
トーチカが二人でまとめたレポートの束を師匠に渡す。
「後でじっくりと確認しておこう。とりあえず急ぎの依頼は無いからしばらく城で休んでおくれ」
「ありがとうございます。では私は部屋で休ませてもらいますね」
「トーチカは久しぶりの休みだろう。ゆっくりするといい」
「はい。そうさせていただきます」
トーチカが部屋を後にし、私も出ていこうと思っていたら呼び止められる。
「すまないがエリュは少し残ってくれ」
「レイゼリアの件ですか?」
「そうじゃ」
「ナズナはいつ頃戻る予定なんですか?」
「わからんな。帰りにコーネルの実家に寄ることになっているとフィシェルから報告は受けてるが」
「コーネルの?」
「ナズナなら呪いを解けるかもしれなくてな」
「呪い?家族が呪われているんですか?」
「彼のお姉さんがな」
「知りませんでした…でもそれなら生誕祭までには戻れないかもしれませんね」
「そこなんじゃ。フィシェルもエリンもいるから連れ戻そうと思えば出来るだろうが、確証は無くてな。今はフィシェルに送った手紙の返事待ちだ」
「そうですか」
「おい、師匠。聞こえるか?」
「噂をすればじゃな」
師匠が図ったように微笑む。
「聞こえるぞフィシェル。そちらの様子はどうだ?」
「こっちは哨戒任務が延長されて今も海の上だぜ。けどクラーケンも出たし、とりあえず魔物は近くにはもういねーと思う」
「そうかそうか」
「つーか帰りの予定を聞かれてもウチには予想できねーよ。また急ぎの依頼か?」
「依頼ではないがナズナに招待状が届いてな。出来れば連れてってやれないものかと思っての」
「招待状?んなもん誰から」
「レイゼリアじゃよ」
「あー…エリュの弟子のアルセルのお姫様か…姫ならそういうのも送るのか」
「まあ貴族ならそういうものはよく送り合うだろうな」
「いつのなんの招待状なんだ?バックっていう村に寄って帰る約束しててよ。師匠には言った気がすっけど」
「ああコーネルの実家だろう。話は聞いておるよ。アルセルの生誕祭に来ないかとな」
「あと魔力の出し入れをウチとエリンで教えろって話だっただろ?まだ始めてもないぜ?」
「やはり間に合わせるのは難しいか…」
「一応アルセルの生誕祭は二月後よ、フィシェル」
「エリュもいたのかよ。ナズナ呼んでくる?」
「別にいいわよ」
「冷てぇー」
「冷たくないわよ」
「冊子と木刀持って頑張って振り回してるぜ」
「そう」
「声が高くなったぜ」
「高くなってないわよ。それで二月あればどうなのよ」
「まぁ帰りを飛ばせば間に合うかもな」
「そう、わかった」
「嬉しそうでなによりだ」
「師匠これ叩き割ってもいいですか?」
「やめなさい。フィシェルもからかうのをやめんか」
「だって少しくらい喋ってやりゃーいいじゃんかよ」
「それは…わかったわ。ナズナを呼んできて」
「おう。待ってろ」
特に話すこともないのに、ナズナを緊張させてしまうだけなんじゃ。
「…に…すか?…もしもし、師匠ですか?」
「久しぶりナズナ。元気にしてた?」
「お久しぶりです…全然リリクラのお世話出来てなくてごめんなさい…」
「そんなこと気にしなくてもいいわよ。自然ではお世話なんてしてもらえないんだから、ちゃんと無事よ」
「そうですか」
「フィシェルから刀の練習頑張ってるって聞いたわよ」
「はい!あの師匠、刀を売ってた人に会ったのを覚えてますか?」
「マルデで会ったわね」
「はい!その方とガームスで偶然お会いして、刀の練習に付き合っていただいたり、頑張ってます」
「そうなの…冊子の内容、トコヨの人に笑われたりしなかった?」
「笑われるなんてそんな…むしろよく調べられてるって褒めてました!冊子の通りに練習を続ければ体力もついて、ぎこちなさも無くなるだろうってお墨付きをもらいました」
「そう…頑張って調べた甲斐があったわね」
「はい!ありがとうございます!…あっ私ばっかりごめんなさい。用事があったんですよね?」
「レイゼリアがね、生誕祭に来ないかって」
「生誕祭?」
「初代のレイゼリアの生誕祭でね。最終日に代々レイゼリアの名を継いだ王族が魔法を披露するのよ。そのお祭りによかったら遊びに来ませんかって」
「私は行っても大丈夫なんでしょうか?」
「レイゼリアがわざわざ招待状を送ってきたってことはとりあえず大丈夫ってことよ。ナズナは行きたい?」
「えと……行ってみたいです」
「そう。じゃあフィシェルとエリンさんの言うことをちゃんと聞いて、無理しないで頑張りなさい」
「はい…頑張ります」
「そういうことだからフィシェル、後は頼んだわね」
「おう。任せろ」
「それじゃあまたねナズナ」
「はい、師匠」
淡く光る玉が光を失う。
「ごめんなさい師匠。勝手に終わらせてしまいました」
「気にするな。元々エリュの決めることだったからの。エリュもまずはゆっくりと休んでくれ」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
師匠に一礼してから実験室を出て、足早に自室へと向かう。
とりあえずまずお風呂に入りたい。
多分トーチカはもうお風呂だろう。




