ひとまず朝食
赤い兎に緑の鳥、黄色い猫に青い犬。
なぜかみんな川を泳いでいく。
私はそれを川原から眺めている。
隣にはリネとお姉さまがいて、リネは木の枝を齧っていて、お姉さまは石を拾っている。
そして気付くと私も石を拾い始めている。
誰かに呼ばれた気がして振り向くと、川の向こう側にボロボロの修道服を着た女性が立っている。
不思議とその人をよく知っている気がするのに顔は思い出せない。
影絵のように真っ黒でまるで空間が切り抜かれているみたい。でも怖くはない。
夢に出てくる子供達も似たような感じだからだろうか。
また何かが聞こえた気がして、身体が勝手に動き出し、川に足を踏み入れる。
川なのに水がすごく熱く感じて、川底もつるつるでぐにぐにと弾力を感じる。
女性が何かをまた私に話しかけている気がするけどよくわからない。
「淀みの森に彼女はいる」
声がはっきりと聞こえて目が覚める。
「大丈夫?ナズナ」
お姉さまの声で視界が定まっていき、谷間から視線を上に移すとまだ眠たそうなお姉さまと目が合う。
「おはようございます…何か変な夢を見て…」
「怖い夢?」
お姉さまがそっと頭を撫でてくれる。
「いえ怖い夢じゃなかったんですけど…勇者の記憶とも違って…」
「どんな夢だったの?」
「お姉さまとリネと川原にいて…石を拾っていたら声がしたような気がして振り向いたらボロボロの修道服の女の人が川の向こうに立っていて…その人の方へ歩いて川を渡っていたら、淀みの森に彼女はいるって誰かに男の人に言われて…声は思い返すと勇者の声だったかもしれません」
「淀みの森…残念だけど聞いたことがないわ…フィシェルやエリンなら何か知っているかもね」
「そうですね…」
「とりあえず朝っぽいし起きましょうか…ん~っ」
お姉さまが上体を起こして両腕を上に伸ばして伸びをする。
私も上体を起こして足元で丸まるリネの頭をそっと撫でる。
「おはようリネ、朝みたいだよ」
まだ眠たいのか、ゆらゆらと立って私のお腹にぐりぐりと鼻先を押しつけてくる。
私はわしゃわしゃとリネの頬を撫でてあげていると、扉の開く音がする。
「起きたか?」
「おはようフィシェル」
「おはようございますフィシェルさん」
扉からフィシェルさんが入ってくる。
「朝飯食って仕事の時間だぜ」
「今日はナズナとリネはお休みでも…」
お姉さまが私とリネを抱き寄せる。
「気持ちはわかるが、昨日襲われたばっかだからこそ人の目は多い方がいい。魔物はヘンダーが連れてきたのか、それとも別件なのかもわかんねぇからな」
「リネは大丈夫?」
リネがわふっと元気に吠える。
「私も大丈夫です。お姉さまありがとうございます…あ」
「ナズナ?」
「腕…ヘンダーの腕が見つかれば何か調べられたりしませんか?」
「確かに見つかれば色々調べようはあるな…とにかくまずは飯だ。飯」
フィシェルさんに連れられて甲板に出ると、椅子とテーブルが並んでいて、エリンさんが料理を前にして待っていてくれたみたいだ。
「コーネルとゲンリュウは?」
「ご飯を軽く済ませて寝てるよ。朝まで起きていてくれたからね。とりあえず座って」
椅子に座るとお姉さまが椅子を押してくれてテーブルに近くなって手が届きやすくなる。
私がお礼を言うとにこっと笑って左隣に座る。
そして右の横に伏せたリネの元にお皿がふわりと浮いてきて、リネの前に置かれる。
「リネもどうぞ」
エリンさんがそう言うと喜んでリネが食べ始める。
ぎこちない感じだったけど、エリンさんに馴れたみたいでよかった。
「いただきます」
パンと青いスープに赤いサラダで何だか見た目は怪しく感じるけどいい香りがする。
スプーンを青いスープに入れると触れたところから波紋が広がり海のように見える。
掬って口に含むと味は普通だ。野菜の出汁を感じる。
「あれ?ナズナ、そういえば手袋は?」
そういえばブーツを脱いで手袋を足に履こうとしているときにヘンダーが…。
「そういえば昨日脱いだままでした。誰かが拾っていなければ、海に落ちたか船の床に埋まってたりするんですかね…」
「ん?…そういや昨日ゲンリュウから預かってたの忘れてたぜ」
フィシェルさんがパンを口に放り込んで頬を膨らませながら三角帽子を脱いで右腕を中に入れる。
「あったあった」
手袋とブーツを出して、私に手渡してくれる。
「ありがとうございます」
とりあえず手袋は横に置いておいて、ブーツを履く。
「なんで脱いでたんだ?」
「魔物退治をしている時に、コーネルさんに魔法がかかっているかもしれないからと船倉に降りるのを止められまして、手袋を足に着けたら平気かなって脱いだところにヘンダーが…そのあと船が壊れて…完全に忘れてました…」
くぅーんとリネの悲しげな声が聞こえてリネの頭を撫でてあげる。
「リネのせいじゃないよ。助けてくれてありがとう」
「そういえば結局魔法はかかっていたのかしら?」
「かけといたぜ。だから沈まずに済んだろ?」
「じゃあもし、私が降りていたら…」
「すぐにどうこうなるってわけじゃねーけど、途中で解けてたかもな」
「コーネルくんの判断は正しかったよ。場数を踏んでるだけあるね」
「私の相棒だからね!それくらい出来てもらわないと!」
お姉さまが誇らしげに笑うのを見て、みんなが微笑んだ。




