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お姉さまの足はもう大丈夫なんだろうか

 くそ、血が止まらない。

 なんとか帰ってこれたが身体が動かせない。

 魔力が空だ。あのクソガキ手足をもいで死ぬまで実験台にしてやる…。


「なにこいつ、死んでんじゃん」

「勝手に…殺さないで、くれない?…おじさんのこと助けてよぉ」

「やだよ気持ち悪い。死ね」

「へ?」


 あれ?自分が二つ見える?視界が右に左に勝手にぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐ、る、ル……。


「綺麗にしておけよ?」

「えーやだよ」


―――――――――


「これで穴は全部か…無駄にでけぇんだよ軍艦ってよぉ」

「早く私達の船に戻ろう」

「賢者の杖様、ありがとうございました…我々では歯が立たず…」

「ごめん。話は明日聞いてやっから」

「失礼いたしました…こちらへ!砲門から外に出られます!」

「ありがとう海兵さん」


 海兵さんに案内されて砲門をくぐって外に出て杖に股がって急いで船に飛ぶ。


「フィシェル気にしないで先に行ってあげて」

「わかった。迷子になんなよ!」


 放たれた矢の様ような早さでフィシェルが闇夜に消える。私も急がないと。


―――――――――


「ナズナ、お前何したんだ?」

「あっ…えー書いてる通りです…」


 お姉さまのお仕置き中の私の元へフィシェルさんが歩いてくる。

 帆柱に縛り付けられて首からは木の板が下げれられているからかフィシェルさんも流石に驚いた顔をしているように見える。


「私はまた一人で飛び出しました。お姉様が許すまで縛られています。何したんだ?」

「えーっと…エリンさんは?」

「もうすぐくると思うぜ」

「揃ったらちゃんと話します…後ろで片付けをしている皆さんを助けてあげてください…」

「片付け?」


 もしかして船首の方から歩いてきたフィシェルさんは後ろの状態を知らないんだろうか。

 私の横まで歩いてきて、帆柱の後ろを見る。


「リネかミーティアか?」

「リネです」

「こっちのも合体したのか?」

「合体?」

「魚が集まって大きくなったんだよ」

「いえ…そんなことは…」

「とりあえず直すか…お前ら!動かないでいろよ!……ラーラマイン」


 フィシェルさんが杖を出してそう言うと船が少し揺れながらメキメキバキバキと音を立てる。

 後ろの様子がわからない私からすると更に壊れていっているように聞こえる。

 そこにエリンさんも戻ってきて、甲板に降り立つ。


「こっちの様子は!」

「とりあえず今直してるところだ」

「そう…ナズナはどうしたの?」

「えっと…」

「このまま聞いてるから話してくれ」


 横に立つフィシェルさんにも促されて事の経緯を話す。

 船が浸水してきて一度二人に会いに軍艦にリネと飛んだこと、二人共戻る余裕が無さそうで船に残ったみんなでどうにかしようとしたこと、お姉さまを盾で守り、他のみんなが魔物を倒している間にヘンダーに襲われて捕まりリネに助けを求めてお姉さまの静止を聞かずにそのままリネを追いかけてヘンダーに向かっていったこと、そして逃げられて終わったこと。


「また変態野郎か」

「それでどこか怪我をしたの?首元に血の跡が」

「ヘンダーにやられて左耳を…けどゲンリュウさんが薬を塗ってくれました」

「私のあげた薬か」

「はい…それとヘンダーの狙いは私だって言ってました」

「まさかガンゼツの刀を持ってたから?」

「そういうわけじゃないみたいでした。魔力が多いから魔法が苦手なのかとか言っていたので…」

「魔法が効かねぇのは高い魔力によるものだと勘違いしてたってことか…」

「多分…」

「あながち間違いでもないけどね。精霊だから普通よりは遥かに魔力の量は多いだろうし…でも逃げられたのは不味いかもね」

「ああ…」

「とりあえず考えなしに飛び出して行ったのは悪いことだよ。リネの援護のためだったとしてもね」

「ごめんなさい」

「そうだな…ナズナ、お前はエリュとの訓練で身に染みてると思ってたが全然みてぇだな」


 身に染みてる?


「エリュが操っていた植物と何度も触れ合っているはずだ。それなのにあまりにも無頓着に見える。油断してると死ぬぞ」


 油断、確かに防ぎきれなくても多少はなんとかなる、すぐに解けるだろうという意識があった。

 師匠の操る植物達も私が触れたからと魔法が解けたりはしなかった。

 魔力によって作られたものや魔力そのものは効かないのかもしれないけど、たとえば川原で無数の石を魔法で撃ち出されたらきっと防ぎきれずに大怪我を負うだろう。

 悠長に考え事をしていないで、盾を使うか助けを呼ぶか、すぐに判断をしていれば少なくとも耳を怪我することはなかったかもしれない。


「ごめんなさい…考えが足りなかったです…もしも二人が今ヘンダーがやったように木片を私の胸や頭に撃ち込んできたらきっと、私は死んでしまいます…もっとすぐにヘンダーのことをみんなに言って助けを呼ぶべきだったし、せめてちゃんと盾を使うべきでした…」

「私の時もそうだけど今回もそうだよ。いざという時はちゃんと自分の命も大切にしてね」

「ミーティアが許してくれるまで頭を冷やせ」


 船の軋む音が止み、静寂に包まれる。

 二人の足音が離れていき、扉の開け閉めする音がして、波の音だけになる。

 やっぱり私のしたいことは人助けなんだろうか。

 それとも人を斬ることなんだろうか。

 夢中だった。あいつは倒さなきゃいけないと思った。それが間違いだとは思わない。

 でも正しいことかはまだわからない。

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