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明かりが足りない

 梯子の下に立つお姉さまの回りに四つの鉄塊を旋回させる。

 水面から黒い影が飛び出す度に鉄塊で叩き落とす。

 お姉さまは光が消えないように両手を伸ばして集中しているようだ。

 そしてまた三匹が飛び出してきて、それらを鉄塊で防ぐ。


「お姉さま大丈夫ですか!」

「ええ…けど知っての通り魔法は苦手でね!」


 じっと四つの鉄塊に意識を集中する。

 いったい何匹の魚の魔物がいるんだろう。

 すでにリネ、コーネルさん、ゲンリュウさんの三人がもう十数匹はたおしているんじゃないかとは思うけど、お姉さまに向かってくる魔物はまだまだこうしている間もお姉さまに向かって飛び出してくる。

 足元は大丈夫なんだろうか。


「うっ!」


 そう思った矢先に魔物がお姉さまの足に噛みつき、お姉さまから声が漏れる。


「お姉さま!動かないで!」


 両目と右腕に魔力を回し、魔物を目掛けて刀を投げ落とす。

 ガッと音が響いて魔物を貫き床に刺さる刀を即座消す。


「お姉さま大丈夫ですか!」

「ええ…ありがとナズナ…」


 お姉さまの足元の水が赤く染まる。

 やっぱり下に降りないと水中の魚影までは追いきれない。

 手袋を脱いで、ブーツも脱ぐ。

 ぶかぶかの大人用の手袋なら私の足くらい入るはず。

 手袋を足を履こうとした時、背中に何かがぶつかる。

 強く叩かれたみたいで少し痛み、振り返ると暗がりに誰か立っている。


「…誰ですか?」


 三つの塊が撃ち出され、刀を出して咄嗟に斬り払う。

 両目と右腕に魔力を回したままじゃなきゃ対応出来なかった。


「その刀どころかお前にも魔法効かないじゃん。おじさんびっくりだよ。折角苦しくないようにしてあげようと思ったのに」


 ヘンダーなんだろうか。

 ゆっくりと全身に魔力を回す。


「その刀、ガンゼツとはまた別の何かなのかな?」


 船倉のみんなに声をかけるべきだろうか。

 いや駄目だ。エリンさんのように一瞬で水を凍らせられたりするなら船倉のみんなが身動きを封じられてしまう。


「また無視かい?おじさん傷付くなぁ」

「ヘンダーさんは何のお仕事をしているんですか?」

「ん?うーんそうだねぇ。子供には難しいんじゃないかな」

「これは戦争ですか?」

「いやいやいやこんなことは世界各地で起きているんだよ?子供は知らないだろうけどね」

「どこの国の人なんですか?」

「質問ばっかりだなぁ。おじさんの質問には答えないくせに…これだからガキは…」


 自分も質問に何も答えない癖に突然怒り出したように感じる。


「狙いは賢者様ですか?それとも賢者の杖?」

「こそこそ嗅ぎ回られるのは面倒だからさ。それとお前」


 突然杖を出して先端を私に向けてくる。


「いろいろ実験したいらしいよ」


 瞬間、周囲から木の板が無数に伸びてくる。

 刀一本では捌ききれず、身体中に巻きつき固くなって動かなくなる。

 両手首、両足首、腰に首に胸に股、まるで元々そういう形だったみたい私の身体に沿って巻きついたまま固まっている。


「やっぱり物体は消えたりしないか。そしてお前自身の力で魔法が解けてがっちりと固められて、可愛いねー」


 まずい。私の無意識下でも反応することがあるからお姉さまの周囲に残していたけど、盾を呼び戻すべきだろうか。

 とりあえず刀を消しておくと、ぶんという音が左耳に残り、熱を感じたかと思うと首筋に何かが伝う。


「木片を飛ばしたら傷がつくってことはやっぱり魔力を拡散させているだけかな。大魔法使い級の魔力でもあるのかよ。そのせいで魔法が苦手なのかなー?」


 どうしよう。

 私を生きたまま連れ帰りたいんだろうか。

 そしてどうやって連れ帰るか今いろいろ試しているんだろうか。

 早く考えないと。

 もしもの時はぶっ壊してもいい。

 フィシェルさんの言葉を不意に思い出す。

 コーネルさんが魔法がかかっているかもしれないと言っていた。私は駄目でも…。


「リネ助けて…」

「なんか言ったか?おじさんに聞こえるように話してよ」


 奥からヘンダーがゆっくりと歩いて近づいてくる。

 そして木で出来た船がミシミシバキバキと悲鳴を上げる。


「なんだ!?」


 木板が弾け飛び、床から巨大な顎が飛び出して私ごと木の拘束を噛み砕く。


「なんだこのでかいの!?こんなの聞いてないぞ!」

「グルルルルルルッ!」


 リネが器用に私を舌で包み、口の中に仕舞い込んだまま唸り声を上げる。


「リネ!どうしたの!?」


 お姉さまの声が聞こえる。


「ちっ!化物と剣士三人は相性が悪い!」

「リネ!逃がさないで!」


 リネが私を吐き出してヘンダーに飛びかかる。

 船倉の水に落ちると思ったらお姉さまが受け止めてくれる。


「ナズナ!何があったの!?」

「ヘンダーです。突然現れました…拘束されてしまってリネを呼んだんです」


 衝撃音が響いて、船が揺れ、月明かりが差し込む。

 リネは空に飛んでいったということだろうか。

 上部はほぼ崩れている。帆柱が倒れてこないか心配だ。


「魔物はどうなりましたか?足は大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。粗方倒したわ。コーネル!ゲンリュウ!ヘンダーよ!気を抜かないで!」

「またきたのか」

「わかった!」

「お姉さま、リネのところに行ってきます」

「待っ…つ、ナズナ!」


 盾を足場にしてお姉さまの腕を抜けて、月明かり目掛けて外へ駆け出す。

 月明かりに影が浮かび、いくつかの光が横切る。

 リネが戦っている。ヘンダーを見つけて隙を作らないと。

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