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リネがいるから大丈夫だと思いたい

 リネに顔を舐められて目が覚める。

 もう朝なんだろうか。


「どうしたのリネ…もう朝?」


 カンカンカンと小さく音が聞こえて飛び起き、船室を見渡す。

 日の光のない船室では時間がよくわからないけど、お姉さまが隣のベッドで眠ったままということはまだ夜中だろうか。

 ベッドの柵から乗り出してお姉さまの肩を揺らす。


「お姉さま、お姉さま」


 もぞもぞとしてゆっくりとお姉さまの目蓋が開く。


「うーん…どうしたのナズナ…トイレかしら?」

「お姉さま、起きてください。鐘の音がします」

「鐘…」


 お姉さまも飛び起きると、ゆっくりと船室の扉が開く。


「ミーティア、ナズナ、リネ、起きてる?」


 小さな声で名前を呼びながらコーネルさんが顔を覗かせる。


「リネが起こしてくれたところです。何があったんですか?」

「今、フィシェルさんが確認のために軍艦の方へ飛んでいったよ。寝起きで悪いがミーティア念のために変身してくれ」

「わかったわ」


 お姉さまの身体が光って消え、コーネルさんの背に剣が現れる。


「二人もいつでも動けるようにしといて」

「わかりました」

「じゃあ俺は甲板に戻るよ。リネ、もしもの時は船をぶっ壊してもいいってフィシェルさんが言ってたよ。ナズナを守ってあげてくれ」


 リネがわふっと返事をすると、コーネルさんが微笑み返して船室を出ていく。


「また海賊かな…」


 青いケープを羽織り、ブーツを履いて手袋を着け、腰に短刀を差して一応残っている炸裂薬も結んでおき、リネの頭を撫でる。

 鐘の音は止んでいて、波の音だけが大きく聞こえる。

 突然リネが私のケープの裾を引っ張り始め、どこかに連れていこうする。


「リネどうしたの?」


 されるがままにしていると、船室の外に連れ出そうとしているみたいだ。

 私はリネの指示通りに扉を開けて外に出て、甲板へと上がると、ゲンリュウさんがこちらに気付いて振り返る。


「どうした?二人とも」

「リネが私を外に連れ出したんです。何があったんですか?」

「まだわからないようだ」


 リネが私のケープの裾を放すと今度はゲンリュウさんの着物の裾を引っ張り始める。


「お?どうしたどうした?」

「もしかして私を連れ出した理由を教えようとしてる?」


 リネが一度ゲンリュウさんを放して私を見て、わふっと答える。


「私は…行ったら駄目なのリネ?」


 リネが困ったように顔を伏せる。


「俺がナズナを守ってあげてって言ったからかな?」

「そうよ!リネを困らせたらいけないわコーネル」

「え?ごめんなリネ…ゲンリュウさんナズナをお願いします。リネとは俺達が」

「俺はかまわんが」


 船首の方にいたのか、コーネルさんが歩いてくる。


「ナズナもそれでいい?」

「…わかりましたお姉さま」

「案内してリネ!」


 お姉さまの声に反応して器用に扉を開いて奥へと駆けていくリネをコーネルさんが走って追いかける。


「とりあえずまかせよう」

「そうですね…そういえば中より外の方が静かなんですね」

「静か?」

「船室にいた時はもっと波の音が聞こえていたので」

「そうなのか。ほとんど甲板にいたから気がつかなかったな」

「そうだったんですか…そういえばエリンさんは?」

「フィシェルと一緒に別の船に飛んでいったぞ」

「そうですか…また海賊でしょうか?」

「余程の大海賊でもわざわざ軍艦には手を出さんだろう」

「それもそうですね…夜の間に逃げた方がいいかもしれません」


 ばんっと扉が勢いよく開いて一瞬びくっと身体が跳ねそうになると同時にリネが飛び出してきてコーネルさんが血相を変えて走ってくる。


「穴が空いて浸水してる!」

「船に水が入ってきているわ!」


 波の音が大きいと思っていたけどまさか水が入ってきてる音だった?


「しかし、傾いても沈んでもいないぞ?」

「傷は小さいのかまだ船倉にしか浸水してないようだからですかね」

「でもどんどん水が入ってきてるわ」

「とりあえずみんなでリネに乗せてもらいますか?」

「いや俺とミーティアで水に潜って船倉の傷を確認してくる。ミーティアがいれば明かりくらいは用意できるから。ゲンリュウさんは何かいるかもしれないので一緒にきてください。ナズナとリネは軍艦に飛んでいってこっちの様子を伝えてきてくれ。リネ、これを咥えて飛べば誤射は防げると思うけど気をつけるんだよ」


 リネがコーネルさんが差し出した角灯を咥えると私の前で伏せるので、私は迷わずにすぐに股がってリネの皮を掴むとすぐに駆け出して船首から暗闇に飛び立つ。

 迷わずに真っ直ぐ飛んでいくリネには私には見えない軍艦の位置が匂いや音でわかるのだろう。

 そんなことを考えていると月明かりに照らされて大きな船が微かに浮かび上がる。


「すみません!えっと、賢者の杖の仲間です!こちらに魔法使いがいらしてませんか?」

「フィシェル様とエリン様がいらしています!」


 海兵の方が返事をしてくれる。


「甲板に降りてもいいですか?」

「どうぞ!」

「よしリネ、降りてみよう」


 リネがゆっくりと甲板へと降り立つと二人の海兵さんが近づいてくる。

 私もリネから降りて姿勢を正す。


「そちらの船でも何かありましたか?」

「はい。船が浸水しているようで…こちらの船もなんですか?」

「はい。今フィシェル様とエリン様が調査に赴いてくださっています」

「そうですか…犯人を見た方などはいますか?」

「残念ながらいないです」

「こちらも同じです…伝言をお願いしてもいいですか?」

「もちろんです」

「リネがいるから大丈夫です。そちらも気をつけてください。と」

「わかりました。失礼ですがお名前は…」

「ごめんなさい!ナズナです。ナズナがそう言っていたとお伝えください」

「かしこまりました」


 リネに股がるとリネがふわりと浮かび上がる。


「もし何かありましたら、また鐘を鳴らしてください。この子と駆けつけますから!」

「わかりました!」


 二人の海兵さんが私達を見上げながら腕を水平に伸ばしてから胸に拳を当てる。

 敬礼だろうか。とりあえずリネの上からでは真似しても見えないだろうけど、見様見真似で答えた。


「リネ急いで戻ろう」


 速度を上げて真っ直ぐに飛ぶリネにしがみつきながら暗闇を突き進んで自分達の船に戻った。

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