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わたしはだれ

 男の後ろ姿が見える。

 フードの着いた青いケープが風に揺れている。

 顔を確かめたくて必死に追いかけるけど、走っても走ってもどんどん遠くなっていく。

 諦めかけた時、四人の子供が私を追い越していく。

 一生懸命追いかけるけど誰にも追いつけない。

 そして突然光に包まれて目が覚める。

 木の枝が風に揺れ、日射しが目に入って眩しい。横には丸まって眠る大きな銀色の狼。いつの間にか伏せの姿勢から変わっている。

 水を飲んで、身体を洗って、あのまま寝ちゃったのかな。昼過ぎくらいから次の日の朝まで眠ってしまったんだろうか。

 もぞもぞと小川に行き、水を飲んで、顔を洗う。写る顔はやっぱり見慣れない。身体を勝手にぶるぶるっと震えて、服が無いのを思い出す。朝だから肌寒いのか、服が無いからなのか。

 ぐぐぅっと情けない音が鳴る。食べ物を探さないと。狼は深く眠っているようだから起こさないであげよう。

 森を一人で歩いていると小鳥が木の枝に止まっているのを見かけた。小鳥がいるということは虫や木の実もあるはずだ。

 しばらく歩くと、丸い葉の木に紫色の木の実がなっている。けれど高くてとても取れそうない。近くに落ちてないか辺りを探し回って、運良く虫に喰われてない実を二つだけ拾えた。

 水の音を頼りになんとか小川まで戻ると、狼がゆっくりと頭を持ち上げてこちらを見る。


「おはよう。これ一緒に食べよう?」


 紫色の実を一つ狼に手を伸ばして差し出すとゆっくりと口が開く。

 舌の上に乗せてあげるとばくんと一飲みで消える。


「ごめんね。もっと拾ってくればよかったね」


 ベロンと顔を舐められる。慰めてくれてるんだろうか。

 拳大の実の紫色の皮を剥いて、中の黄緑色の果肉を食べる。酸っぱいぶどうみたいな味で美味しい。

 前にもこうして誰かとブブの実を食べた気がする。

 狼がまたベロンと私を一舐めしたかと思うと狼は立ち上がり、大きな体で器用に木々の間を抜けていき、どこかへと消えてしまう。

 私はベタベタになった手を小川ですすぐ。近くで魚が跳ねて、私は咄嗟に飛び込んだけど捕まえられるはずもなくずぶ濡れになる。

 近くの岩に寝転がり、日射しで身体を乾かす。あぁアホなことしたなぁ。そして冷静になって思い出す。火がないと魚は食べられないのではないかと。

 服もないし火を起こそう。

 小川から離れたところで乾いた枝を拾ってこよう。朝と夜は少し冷えるかもしれない。

 薪にする枝を探しながらついでに木の実がまた落ちていないかも探す。迷子にならないように小川を背になるべくまっすぐに。

 結構歩いてきてしまった気がする。日が高く、暖かくなってきたような気もする。お昼頃の時間なんだろうか。

 考えながら歩いていると開けた場所に出る。

 白い花が一面に広がり、その先の岩壁には四角い石柱で囲われた入口がある。中は真っ暗で何も見えない。

 もしかして私はあそこに?

 何か手がかりがあるかもしれない。

 拾った薪を投げ出して夢中で走り、中に入る。しかし中には一切明かりなどなく、真っ暗で進めなくなり、すぐに外に出た。

 火だ。火を起こさないと。改めてそう思い薪を拾いなおし、一度小川へと戻る。花畑で火を起こそうとは思わなかったし、何かあった時に水がすぐそばにあった方がいいはずだ。

 駆け足で小川に戻り、平らな岩の上に拾ってきた薪を広げる。

 どうやって火を起こすんだろう。木と木を擦り合わせるんだったろうか。

 うっすらと浮かんだ記憶を頼りに、石で木の枝を叩いて潰し、ほぐして繊維にして集めて玉にする。そして平らな岩の上に玉を置いて真っ直ぐな枝の先ので押さえつけながら、枝を手で挟んで擦り合わせ続ける。

 これで繊維の玉が摩擦で熱くなって煙が出てくるはずだ。

 手が痛い。どれくらいやれば火がつくんだろう。そもそもやり方はあってるんだろうか。不安になってきた。

 ため息が出て、少し多めに息が吸いこまれる。何かが揺らいだような気がして力を振り絞って擦り合わせる速度を上げる。

 ゆっくりと煙が立ち上ってくる。焦らずゆっくりと玉を拾い上げて息を優しく吹きかけると煙がどんどん多くなっていく。橙色の光と共に火がつき、急いで火種を岩の上に戻し、薪を放射状に並べてまた息を吹きかけると火が立ち上がり、何度目かでぱちぱちと薪が燃え始める。


「ついた…やっとついた…」


 多めに薪をくべておき、真っ赤になった手のひらを小川で冷やす。少し沁みるけど気持ちいい。

 どれだけ時間がかかってしまったのか、もう日が傾き始めてしまっている。あそこに行くのは明日にした方がよさそうだ。

 ザザっと音がしてその方へと振り向くと狼が鹿のようなものを咥えて戻ってきたみたいだ。

 小鳥以外に見かけなかったけど他の動物もいたみたいだ。

 狼が鹿を咥えたまま近付いてきて私の前に鹿を置き、鼻先でぐいぐいとこっちに押す。

 木の実のお礼なんだろうか。正直お肉が食べられるなんて思ってもみなかったから嬉しい。


「ありがとう。一緒に食べよう?」


 狼は言葉が通じたのかゆっくりと鹿を食べ始める。私はナイフとかないしどうしよう。

 狼が鹿を食べるの眺めていると、何かに気づいたのか噛み千切ったお肉飲み込まずに私の前に吐き出してくれ、それを鼻先でぐいぐいと私に近づける。これなら拾った枝に刺して焼けそうだ。


「狼さんありがとう」


 火が起こせてよかった。もし火がなかったら食べられなかったな。

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