自然の摂理
リネがすごい速度で揺らめく光を追う。
炸裂薬の音が消え、リネの耳を塞ぐのやめて頭から背に這うようにして戻る。
やっぱり光は船に向かってるように見える。
「リネもう少し近付いて。盾で防いでみる」
リネが翼を羽ばたかせ、風を切って速度を上げる。
揺らめく光の正体は炎だ。大きな火球が飛んでいる。
並走するリネの背から火球に向かって手を伸ばして集中し、盾を火球の正面に出す。
ばーんと弾ける音がして無数の火の玉が飛び散り、海に落ちる前にきらきらゆらゆら光って消える。
なんとか船に落ちるのは防げたみたいだ。
「ギャアアアアア!」
雄叫びが聞こえて空を見ると、灰色の竜が急降下しながら今度は私とリネに向けて火球を放つ。
「リネ!」
リネは私が何も言わずとも火球を軽々と避けて、灰色の竜に向かって急上昇しながら身体を元の大きさに戻して竜の首へと噛みつき、横に振って投げ飛ばす。
元の大きさのリネよりも大きい竜がよろよろと海へと落ちていく。
蝙蝠のようなぺらぺらでボロボロの翼に浮き上がった肋骨と凹んだお腹、よく見ると四本の足も骨と皮だけのようにガリガリだ。
「一応直衛についてたんだがもう終わったのか?」
フィシェルさんがリネの隣に飛んできてくれる。
「エリンさんは?」
「船の近くで待機してもらってるぜ」
「この竜…痩せ細ってました」
「同情したって助けられないぜ。リネみたいに卵から人に育てられたわけでもねーし、リネくらいお利口とはいかねー」
「ごめんなさい…コーネルさんが言ってました。渡りは命懸けだって」
「その通りだ。最後の力で賭けに出たんだ。殺るか殺られるかのな」
「リネと一緒で心の強い竜だったんですね。一人で先も見えない広い海に出て…生きるのに一生懸命だった…」
「そうだな。…休憩の時間だ。一旦船に戻ろうぜ」
「わかりました」
フィシェルさんの後ろを飛びながら、リネがゆっくり大きさを狼くらいに縮めていき、甲板にふわりと着地する。
「ナズナ!リネ!怪我は無い?」
「大丈夫ですお姉さま」
「渡りの竜ですか?フィシェルさん」
「多分な」
「最近は物騒だな。そして俺は必要だったのか…」
「船の上じゃ男手があるに越したことはねーからな」
「コーネル一人に荷運びをさせるのは確かに忍びないな」
「俺も助かってますよ。男一人だとやっぱり気を使うし、使わせてしまうし」
「それならばいる意味はあるか…」
エリンさんもふわりと甲板に戻ってくる。
「一応確認してきたけど、もう襲ってくることはないよ」
「そうですか…」
私がリネから降りると、リネが私のお腹にぐりぐりと鼻先を押し付ける。
「ありがとうリネ…大丈夫だよ」
「ほらリネにはお肉と水。みんなにはおやつを用意しといたわ!」
剣の姿のお姉さまがそう言いながら、船室からコーネルさんとゲンリュウさんがテーブルと椅子を運んできて並べるとまた船室に戻り今度はお皿とコップを持って戻ってくる。
「気が利くな」
「ミーティアがただの休憩じゃ可哀想だって言い出しまして…魔法が使えない俺じゃ船で料理は難しくて果物を切っただけですけど」
「充分だよ。ねナズナ?」
「美味しそうです。リネにお肉まで切っておいていただいて…よかったねリネ」
リネが嬉しそうにぶんぶん尻尾を振りながらわふっと吠える。
「三人とも座って座って!リネも食べていいわ!」
リネがちらっと私を見るのでいいよと呟くとお肉を食べ始める。
私達も椅子に座っておやつの時間にさせてもらうことにする。
とりあえず水が美味しい。
フィシェルさんは早速果物を食べ始めているみたいだ。
エリンさんは私と同じで水をとりあえず飲んでいるみたいだ。
コーネルさんとゲンリュウさんは座らないのだろうかと思っていたら、持ち場に戻って警戒を続けていた。
「ナズナ、海はコーネルくんとゲンリュウさんが見ていてくれるから今は英気を養お?」
「そーだぞ。折角用意してくれたのに傷んじまう」
「そうですね。いただきます」
私は赤い皮の中が黄色い実を食べてみる。
甘くて美味しい。
海で見かけたものは亀と渡りの竜だけだったようで特にお互い報告もなく、暖かい日射しの中のんびりと果物を食べ続けてお水を飲む。
途中お肉を食べ終えたリネにも果物を分けてあげたりしながら落ち着いた時間を過ごした。
「さて、そろそろ休憩はこんくらいにしとくか」
「そうだね」
「三人ともまた船を頼むぜ」
「夕食は私とフィシェルで料理するから期待しててね」
フィシェルさんとエリンさんはそれぞれの得物に股がって早速空へと飛んでいく。
「リネ私達も行こう。ごちそうさまでした!」
リネに股がって甲板からふわりと浮き上がるとコーネルさんとゲンリュウさんが手を振ってくれ、私も手を振り返して船から離れる。
二人きりになったところでリネの背を優しく撫でる。
「リネ、会いに来てくれてありがとう…海を渡るのは私が想像していたよりも更にずっと大変で危険ですごいことだったんだね」
リネがわふっと元気な返事を返してくれる。
気にするなとでも言ってくれているんだろうか。
「ありがとうリネ。日が落ちるまでまた頑張ろうね」
私はそう言って望遠鏡を手に広大な海を眺める。




