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書類まみれ

「はぁー…」

「お行儀が悪いですよ?レイゼリア様」

「けど、レーシャも流石にこのところは退屈じゃない?」

「私は四日前に休暇をいただいてますから」

「そういえばそうだったわね…」


 今日も部屋に缶詰めで、書類に目を通してはサインを書き入れ、認めないものに専用の判を押しては横に避けての繰り返し。

 お茶会の申請に舞踏会や晩餐会への誘い、指輪の申請に魔石の領収書や備品管理や新しいドレスの参考書類など様々だ。

 扉を叩く音がして、レーシャが応対し、すぐに机の近くに戻ってくる。


「何かあった?」

「ギーマス様がお会いしたいと」

「最近こういうの増えてないかしら…」

「そうですね…レイゼリア様には許嫁もおりませんし、二月後の生誕祭に合わせて親睦を深めておこうと狙っているのでしょう」

「公務で忙しいと断ってもらえる?」

「かしこまりました」


 生誕祭には正直いい思い出がない。

 今は気にしていないし、そのような声も減ったけれど、初代レイゼリア姫の功績を讃える生誕祭で金髪の私が現れた時の人々の落胆の視線、小さなころから言われた陰口、ついにはお母様は自身を責めて身体を壊してしまった。

 赤髪のお父様と金髪のお母様。

 貴族達がお母様のことを批難し責め立てていたことを知ったのは大きくなってからだった。

 レイゼリアのくせに赤髪じゃないと陰口を叩かれ、友達のいなかった私にお父様が連れてきてくれたのが師匠だった。

 容姿が近い方が仲良くなれそうという理由で幼い見た目のエルフの師匠を選んだことを知ったのはつい最近だ。

 師匠が知ったらお父様は痛い目を見るかもしれない。


「レイゼリア様、手が止まってしまっていますよ?少し休憩にしませんか?」


 レーシャが書類を角に寄せて、お茶を用意してくれる。


「ありがとうレーシャ」

「今年の魔法のお披露目はどうなさるんですか?」

「忘れてたわ…」


 生誕祭では代々レイゼリアと名付けられた王族が国民へ魔法を披露する催しが行われている。

 過去には模擬戦を披露した女王もいたようだけど、基本的には派手な魔法で子ども達を楽しませ、大人達にはアルセル王族の力を示す場だ。

 去年は水で形作った動物達を操って子ども達と触れ合わせ、とても好評だった。

 しかし去年と同じことは出来ない。

 今年はどうしようかと考えていると、また扉が叩かれる。

 またどこぞの男の誘いだろうか。


「レイゼリア様、孤児院の子達からの手紙だそうですよ」

「孤児院の?」


 生誕祭に限らず、なるべく催し事に孤児院の子ども達も参加出来るように寄付や関係各所への訪問に努めている。

 去年も生誕祭の後に感謝の手紙が届いていた。

 しかし祭りの前に手紙が来るのは初めてかもしれない。


「読ませていただきますね」

「ええ」

「レイゼリア様へ、今年は…あー……」

「どうしたのレーシャ?」


 院長が代筆したのではなく、子ども達が書いてくれたものならまだ字が拙いだろうし、少し読みにくいところもあるのかもしれない。


「罠でもないようだし自分で読んでみるわ」

「どうぞ…」


 レーシャが渋々な様子で私に手紙を差し出す。

 何々…今年は指輪の妖精さんに会いたいです。僕たちも妖精さんとお友達になりたいです…。

 かなりの無茶振りが書かれている。


「どうなさいますか?レイゼリア様…」

「どうもなにもナズナを披露出来るわけないじゃない…」

「じゃあ誰かに妖精のふりをしてもらうとか?」

「そんなことしたら孤児院に訪問する度に今日は妖精いないのかって聞かれることになるわ…」

「そうですね…」


 あの絵本と劇のせいで面倒なことになっていたみたいだ。


「でも、ナズナちゃんにもお友達が出来るかもしれないですよ?」

「そうね…子ども同士触れ合うことは確かにいいとこかもしれないわね」

「はい!ですので、魔法のお披露目とは別にお声掛けしてもいいかと」

「ナズナが来られるかはわからないけど手紙に書いておくわ。ありがとうレーシャ」

「どういたしまして。さあ、あとで一緒に魔法の案を考えてあげますから残りの書類もお願いしますね」


 笑顔でレーシャが空のカップを回収して、また書類と判とペンを並べる。


「はぁー…」

「またため息ですか?」

「自分の部屋でくらい許してよ」

「もう…絶対外ではやめてくださいよ?」

「わかってるわ」


 肩が巨大な変なドレスは嫌だから判を押して避けて、魔石の領収書にはサインをする。

 そうして日が傾き始めた頃にようやく最後の書類にサインをする。


「お疲れ様でしたレイゼリア様」

「ええ…」

「私は終わった書類を届けに行ってきますね」

「ええ…お願い…」

「私がいない間に誰かにだらしないところ見られないように気をつけてくださいね」


 レーシャが部屋を出て扉が閉まるのを見届けて、机の上に突っ伏す。

 政務からは離されているのになぜこうも書類だらけなんだろうか。

 これが多いのか少ないのかも、他の貴族令嬢の友達のいない私には知るよしもないけど、お茶会はきっと他の人より少ないと思う。

 とりあえずナズナに招待の手紙を書こうかな。

 よく考えて書かないと、きっと真面目なナズナのことだからお姫様のお誘いは断れないと無理にでも来てしまいそうだ。

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