なんだかんだ身体が慣れてきたんだろうか
「おい!しっかりしろ!」
「ナズナしっかり!」
大声でびくっと身体が跳ね、目が開く。
全身の寒気はまだ消えていない。
エリンさんがふらっとした私を受け止めてくれたんだろうか。
フィシェルさんとエリンさんが私の顔を覗き込んでいる。
「失神するほど驚いたのか?」
「疲れてるんだよ。慣れないことをいきなりさせちゃったから」
「リネは…みなさんは怪我はないですか?」
「大丈夫だ。無理させて悪かったな」
「フィシェルさんも無事でよかったです…」
「おう」
また夢の中の花畑に行くかと思っていたら今回は一瞬くらっとしただけですんだみたい。
身体も流石に慣れてきたんだろうか。
そういえば砲身もいつの間にか消えている。
「とりあえず船に戻ろうか」
「そうだな…」
フィシェルさんが杖を振ると、高台から船に向かって氷の道が繋がる。
「階段の方が安全じゃない?フィシェル」
「滑った方が早いだろ?」
「え?」
「ウチは他の奴らにも伝えてくっから」
「ちょっとフィシェル…いっちゃった…」
「穴も開けずに…ガンドルヴァルガさんとヘンダーと同じ…」
「ああ、距離が短くて開けた場所ならガンドルヴァルガの弟子ならみんな出来るんじゃないかな」
「そうなんですか?…エリンさんも?」
「一応ね。でもヘンダーとかいう奴やガンドルヴァルガみたいに長距離を移動出来るのはそうそういないはずだよ」
そんな凄い魔法使いが何を企んでいるんだろう。
「とりあえずナズナをベッドに寝かせてあげたいし滑るか…」
エリンさんが私を横に抱いて、滑り台に座る。
「短いスカートで冷たくないですか?」
「冷たいよ…じゃあ行くね」
氷だからか結構な速度で滑り、勢いよく船に飛び出して、だんっと大きな音を鳴らしてエリンさんが両足でなんとか着地する。
エリンさんは震えて動かない。
「ごめんなさい…重かったですか?」
「いやナズナのせいではないと思うけど、ちょっと足が痺れたよ…」
一歩一歩、間を空けてエリンさんが甲板から船室に入っていき、私を柵のついたベッドに寝かせてくれると、コーネルさんとゲンリュウさんが入ってくる。
コーネルさんの腕にはお姉さまが、ゲンリュウさんの腕にはリネが抱かれていて、私は柵から身を乗り出す。
「リネ…お姉さま…二人はどうしたんですか!?」
「あの黒いの、魔力を奪う性質があったみたいでね」
「二人とも終わった途端にぐったりとしてしまった。きっと戦闘中は耐え続けていたんだろう」
「そんな…」
「フィシェルさんが言うには症状が軽いから一眠りしたらすぐに元気になるって」
「そうですか…」
コーネルさんが隣のベッドにお姉さまを寝かせ、ゲンリュウさんがリネを向かえのベッドに寝かせようとする。
「ゲンリュウさん、リネをこっちに寝かせてもらってもいいですか?」
「お?わかった」
ゲンリュウさんが私の隣にリネを寝かせてくれる。
私はリネの頭をそっと撫でる。
「みんなを守ってくれてありがとうリネ…」
そう言うとリネが私の膝に鼻先をぐりぐり押し付ける。
「ナズナもゆっくり休んでいて。今日はこのまま海の上で過ごすことになるからね」
「わかりました」
三人が部屋を後にするとお姉さまの寝息だけが静かに部屋を流れる。
また何かがあった時、魔力がなかったら、邪魔になってしまう。
リネの頭をそっと抱き締めながら目を瞑って、そっと意識を溶かしていく。
「レイゼリア大丈夫か?」
「ええ…こんなの、寝たらすぐ治るわ…」
レイゼリアの顔が赤く、大量の汗をかいている。
額には氷嚢が乗せられ、顎までぴっちりと毛布が掛けられている。
レイゼリアが寝ている部屋にいるのは勇者一人みたいだ。
レイゼリアが静かに寝入ったのを確認して、勇者が木造の簡素な部屋を出ると、エリンとタルガが扉の前に立っている。
「レイゼリアの様子はどう?」
「辛そうだよ。汗もひどいし。エリンが身体を拭いてやったりは?」
「結界の中に入ったら私も多分熱病になっちゃう…魔法のようだから多分平気なのはユウキだけ…」
「そうか…」
「俺とエリンで魔法薬の素材を取ってくる。その間、姫さんを頼んでもいいか?」
「わかった」
「じゃあなるべく早く戻るから後はよろしくね」
「そっちこそ気をつけて」
「おう。エリンのことは任せろ。じゃあ行ってくる」
廊下からエリンとタルガ去っていき、勇者がまた部屋に入る。
そしてレイゼリアの寝るベッドの横の椅子に腰掛けて、レイゼリアの手を両手で握る。
魔力の無い人ほど抵抗力が無くて悪化しやすいなら、俺の魔力で少しでも楽にしてあげられるかもしれない。
勇者がゆっくり少しずつ、レイゼリアへと魔力を送る。
苦しそうだったレイゼリアの表情が少し和らいで、穏やかな表情へと変わる。
よかった。こんな得体の知れない力でも誰かのためになれるんだ。
今度は勇者の表情が苦しそうに見える。
誰かのためになるなら嬉しいことなのではないのだろうか。
なんだか顔がくすぐったい。
病気が移ってしまったんだろうか。
また顔がくすぐったい。
溶けていた意識が形を取り戻していく。
「レイゼリア?」
ゆっくりと重たい目蓋を開けると、リネの舌が私の頬をぺろっとなぞる。
「リネ、身体は平気?」
鼻先を近づけてまたぺろっと舐めてくる。
「今日は甘えん坊さんだね」
リネの頭を撫でてあげながら、されるがままになってあげることにして、リネが私の顔を舐めるのをやめるまで撫で続けてあげた。
また心配をかけてしまったし、私も心配だったからおあいこだ。
だから隣のベッドからの暖かい視線に気付くのはしばらく後になってしまったけど、お姉さまは優しいから怒ったりはしていないから大丈夫だ。




