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終わりは呆気なく

 エリンさんが杖先で氷の地面を叩くと氷が上に伸びて高台になり、私と黒いあいつを遮っていた氷の壁よりも高くなる。


「見て」


 エリンさんが指差す先には、いくつもの黒い塊とそれと戦う…私?

 私が四人いる…。

 木の枝のような杖を持って大きな岩で出来た拳で黒い塊の叩き潰し、四つん這いで駆け回り、目にも止まらぬ技で細切れにし、お姉さまを振るい流星を降らせている。


「もしかして…他のみんななんですか?」

「そうだよ。魔法で匂いまで一緒になってる。上手く騙せているみたいでよかったよ」


 エリンさんがしゃがんで目線を合わせて私の手を取る。


「準備をしないとね。集中して…両手にたくさん魔力を集めて…間違えて出さないようにぎりぎりで押し止めて、たくさん魔力を集めて」

「魔力を集める…」


 下腹部から魔力を回してお腹から心臓に、心臓から両肩へ、肩から腕を通って手に…。

 手のひらから溢れてしまわないように、ゆっくり丁寧に魔力を集める。

 視界の端に黒いものが入り、視線を泳がせると黒い触手が私に向かって伸びてきて、エリンさんがそれを突風で吹き飛ばす。


「大丈夫だから集中して」

「はい…」


 気を取り直して両手に魔力を集め続ける。

 両手が熱い。熱湯に手を入れているみたい。

 じんじんヒリヒリと手が痛む。

 戦う音がする。氷の砕ける音がする。風を切る音がする。

 エリンさんがしゃがんで私の顔を覗いてきて、意識が引き戻される。


「魔力は集められた?」

「はい…多分…手が熱いからちゃんと集められてると思います…」

「そのまま堪えて集め続けて…」


 そう言ってエリンさんが立ち上がり、杖をかざして目を閉じると、私の目の前に光で出来た長い板のようなものが現れる。

 一つ、二つ、三つと時計の針が進むように、十二の板が円を描き、それを支えるかのように十二の光の輪が現れる。


「こっちの用意は出来たよ!みんな!黒いのを一つに戻して!」


―――――――――


「お前ら聞いたな!変身を解くぞ!ウチが囮になる!」


 リネとコーネルとゲンリュウの変身を解除すると、三人がそれぞれ相手していた塊達が面白いくらいに踵を返してこちらを向く。

 やっとこの身長にも慣れてきたところだ。

 杖を振って氷の壁を作って黒いのを追い立て、ちゃっちゃと一つの塊に戻していく。

 魔法は効かねぇけど、物体をぶつければ水と変わらず弾け飛ぶ。

 攻撃も触手のように伸びてくるばかりで、たいして強くはねぇ。

 こいつはまじでなんなのかわかんねぇ。

 煮ても焼いてもなんともねぇ不死身なだけのかなりうぜー奴。

 こんなんでどうやってナズナを襲う気なんだ?

 窒息でもさせる気なのか?

 氷の壁で防ぎ、岩の拳で突っ張って、エリンと示し合わせた場所へと、黒いのを連れていく。

 化けたウチをナズナだと思ってるみてぇだから誘導は余裕だ。

 匂いで人を判断してんのか実は目が見えてんのか。

 魔力で判断してねぇのは確かだ。

 もしそうならこの作戦は成立してねぇ。

 本物を狙ってた塊も近づいたらすぐにウチの方にきやがった。

 岩の拳で突き上げてぶっ飛ばした塊がべちゃっと大きい塊にぶつかり、取り込まれる。

 これで全部一つに戻ったはずだ。

 エリンにはこいつの正体が何かわかったみてぇだが、何も喋りやがらねぇ。

 とりあえずナズナの魔力が効くことを信じるしかねぇ。


「いいぞ!エリン!ナズナ!」


―――――――――


 多分フィシェルさんの声が響く。

 私に変身してるからなのかいつもと声が違うけど口調はフィシェルさんのままだ。


「照準、よし。ナズナ、手袋を外して、両手を砲身の前に」

「はい」


 手袋を外すと私の両手が白く光っている。

 漏れてしまっているのだろうか。

 ぎゅっと魔力が留まるように努めながら両手伸ばして砲身に手のひらを向ける。


「魔力濃度、最大。砲身固定率最大。照準固定。ナズナいつでもいいよ」


 手のひらを砲身に向けて、呼吸を整える。

 砲身の穴の先には大きな黒い塊と小さな人影。


「エリンさん!フィシェルさんがまだ!」

「大丈夫、フィシェルなら平気。あいつが動かない内に撃って!」

「くっ…フィシェルさん!いきます!」


 ずっと堪えていた魔力を手のひらから一気に解き放つ。

 全身の熱が引いていくと同時に手のひらから白い光が溢れ出し、強い輝きと共に砲身を通って加速しながら膨れ上がり、一筋の白い光が黒い塊に向かって降り注ぐ。


「キュウウウウウアアアアアアアアアアアア!」


 あいつの声なのか、なんなのか、高音が鳴り響いて沈黙すると同時に、私の魔力も尽きて手のひらが光を失い、酷く冷たく感じる。

 白い光が止んだ砲身の先は少し氷が溶けて水溜まりが出来ているようだ。

 黒いものは見当たらない。

 すると、すっと突然私の姿が水溜まりの横に現れて、すっと消える。

 お化けでも見てしまったようで頭が混乱する。


「消えたみてーだ」

「よかった。ナズナは痛いとこない?」

「はい…ちょっと寒気がしますが痛くはないです……うわっ!?」


 知らない声の方を見ると私が立っていて心臓が飛び出しそうになる。


「そんな驚くことねーだろ。自分なんだから」

「いやいや普通驚くと思うよ」


 あれ?頭も凄く寒気がして、なんだか寒くてたまらない。

 真っ暗で前がよく見えない。

 全身が氷の中に溶けていくみたい。

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