黒いあいつの倒し方
リネの案内ですぐに海中を突き進む黒い影を捉える。
「リネは空から、ウチとエリンで海中から追い込むぜ」
元の巨大な大きさになったリネがうぉふっと逞しい声で応える。
「フィシェル、本当に大丈夫?」
「なにがだよ」
「顔色悪いよ?本調子じゃないなら無理に海中に潜らなくても…」
「平気だ。伊達に賢者の弟子なんてしてねーよ」
「わかったよ」
「んじゃいくぜ」
「うん」
自分に魔法をかけて箒に乗ったまま海中に突っ込む。
周囲を包む見えない膜が水の浸入を防ぎ、水中での呼吸を可能にする。
エリンはまた違う魔法で水中での呼吸を可能にしてるみたいだ。
髪が漂う様子から全身が濡れているだろうことがわかる。
黒い塊はぐるぐるときりもみ状に回転しながら海中を突き進んでいる。
杖向けて、魔法を放つ。
何が効くかわかんねぇからとりあえずただの魔力弾だ。
けど当たっても効いてもねぇみてぇだし、無反応だ。
リネとナズナは攻撃されたはずだが。
空にいるリネに触手を伸ばす様子もねぇ。
ナズナが狙いなのか?
変態野郎の命令か?
エリンの魔法にも無反応だ。
「ナズナが狙いかもしれねぇ」
「フィシェルもそう思う?」
「リネにも攻撃しねぇし」
「ヘンダーとかいうやつは近くにはいないみたいだよ。魔法使い同士だから当てにならないかもしれないけど」
「そーだな…エリンは先に船に戻ってくれ。念のためだ」
「わかったよ」
エリンが海上へと飛び出していっても、黒い塊は何も反応がしない。
何度か横槍を入れてもやっぱり効いてる様子もねぇしこっちにも何もしてこねぇ。
ガン無視だ。
やっと前方に氷が見えてきた。
ちゃっちゃと氷の上に突き飛ばしてやる。
―――――――――
氷の上からこちらに向かって飛んでくるリネの姿をコーネルさんとゲンリュウさんと見守る。
海から何かが飛び出してきて、凄い速さでこっちに飛んでくる。
身構えようとして、それがエリンさんだと気がつく。
「こっちは何もなかった?」
エリンさんが氷の上を滑るように着地して私達の元へ駆け寄ってくる。
「特に何もなかったですよ」
「ああ、少し雲が増えてきたくらいか?」
確かにゲンリュウさんの言う通り空の雲が少し増えたかもしれない。
「狙いはナズナかもしれない。理由はわからない。私達のことは完全に無視してた」
「ナズナが狙い?どういうことなのエリン!」
「わからない。空を飛ぶリネにも攻撃してこないし、二人が見たって言う触手を私とフィシェルはまだ一度も見てないんだ」
私は黒いやつと戦ってもいないのに何故狙われるんだろうか。
「狙われるとしたらコーネルさんかお姉さまではないですか?昨日黒いやつを撤退させたんですよね?」
「…試してみようか。コーネルくん後ろに乗って」
「わかりました」
コーネルさんがエリンさんの杖に股がる。
「ちゃんと私のお腹にぎゅって腕を回して。攻撃がきたら振り落とされちゃう」
「わかりました…」
「コーネル、照れてる場合じゃないわ!」
「そうだな。ごめんなさいエリンさん」
「いくよ!」
コーネルさんがエリンさんに腕を回してぎゅっと背に抱き着くとふわりと浮かんで矢の様に飛び出していく。
「何やら変なこと巻き込まれたようだなナズナ」
「そうみたいですね…」
「もう戻ってきたようだぞ」
ゲンリュウさんの見つめる先からエリンさんが飛んできて、氷の上に突っ込むように着地する。
「勢い余っちゃった…コーネルくんもミーティアも無事?」
「なんとか…」
「私は剣になっていれば平気よ」
「して、ナズナが狙われているというのは?」
「可能性が高いみたいだわ…試しに魔法を飛ばしても私達も攻撃されなかったわ」
「とりあえず警戒して。もうくるよ」
エリンさんがそう言うと、突風を起こしてリネが氷の上に着地し、姿勢を低くして唸り声を上げる。
リネの視線の先の海面が大きく膨らんで盛り上がり 巨大な水飛沫と共に大きな手が飛び出してきて、その手から黒い流星群が私に向かって降り注ぐ。
刀と盾を出そうと思った瞬間、生暖かい風を感じたと思ったら青いケープが引っ張られてそのまま船の後ろに放り投げられる。
リネが私のフードを咥えて投げたみたいだ。
「リネ!」
私を一瞥して、すぐに翼を広げてエリンさん達に覆い被さったリネに無数の黒い触手が降り注ぐ。
背中を打って氷の上を滑り、ごろごろぐるぐる自分が何処にいるのか右も左もわからなくなって必死に辺りを見回す。
「リネ!みんな!」
ようやく見つけたのはテーブルに溢した水のように氷の上を広がりながら私に向かってくる黒い水。
急いで立ち上がり、後退ると氷の壁が目の前に広がる。
「ナズナ!無事?」
「エリンさん!リネは!」
声のした空を見上げるとエリンさんが杖を構えて無数の青白い光を壁の向こうへと放つ。
「リネは大丈夫だよ」
そう呟くと私の前に降りてきて、しゃがんで私の顔を見る。
「ナズナごめん。多分あいつにはナズナの魔力しか効かないみたい」
「どうして…謝るんですか?」
真剣な顔で私を見つめるエリンさん。
「力不足だからかな…多分、機会は一度きり。みんながあいつを追い込んでくれるから、ナズナがあいつを倒すんだよ」
「どうやってですか?」
「私が射出機を魔法で作るから、それでナズナの魔力を思い切りぶつける」
「魔法が壊れてしまうから一度きり?」
「…そうだよ。早速準備をしよう」
含みがあった気がするけど、真っ直ぐな瞳に押し切られてしまった気がする。
とりあえずみんなのためにも頑張らないと。




