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黒いやつは怒っていそう

「ゴレオは村一番の暴れん坊。いつも村のみんなを困らせてばかり。狩りに出れば木々を倒し、畑を手伝えば大きな穴を掘ってしまうわ」

「怪力ですね」

「そうよ。そして年に一度のお祭りの準備をみんなでしている時のこと、みんなで囲って踊る大事な櫓をゴレオは壊してしまいました。村のみんなは口々に言うわ。いつも余計なことをして!いつもみんなの邪魔ばかり!ついにみんなが楽しみにしていた櫓まで!そしてついには村を追い出されてしまいます」

「追い出す…のは…やり……」


 とろんと今にも閉じられそうな瞳で小さく呟くナズナの胸に手を置いて、優しく静かにとん、とん、とん、と叩いてあげる。


「こんな村出ていってやる、二度と戻ってくるか、そう言って村から出ると、おばあさんが後ろから追いかけてきました。これを持っていけ、そう言って剣と鞄をゴレオにくれ、悲しそうに村に戻っていきました…」


 ナズナが深く寝息を立てている。

 眠たくないと言っていたけど思っていたより早かった。

 お話なんてそんなに子供じゃないと言われるかもと思ったけれど嫌がられなかったし、ナズナもやっぱり疲れていたんだろうか。

 私も早く寝ないと。

 寝坊したらコーネルに小言を言われてしまうわ。


―――――――――


 日の出と共に船を出し、既に数時間。

 昨日と同じく風も波も穏やかだけど、昨日よりも雲は多めだ。

 天気が崩れないといいけど。


「リネあの黒いやつの匂いとかする?」


 私が海を眺める横で丸くなっているリネに聞いてみるけど首を横に振る。

 流石に海ではリネの鼻も通用しないみたい。

 そんなことを考えていたら突然リネが私の股の間に潜り込んで立ち上がり、私を背に乗せて走り出す。

 私はしがみつくことしかできない。


「リネ、どうしたの!?」

「ナズナ?どうした?」


 ゲンリュウさんの声がするとリネが立ち止まり、海の方を見てわふわふと吠え出す。


「やつがいるのか!?」


 ゲンリュウさんが身を乗り出して海を眺める。


「すまん。やはり俺の目にはわからん…」

「リネ、このまま連れて行ってくれる?」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに駆け出し、私を乗せたまま軽々手すりに飛び移り、そのまま空へと飛び出す。


「ゲンリュウさんは他のみんなに伝えておいてください!」

「わかった!確認したらすぐに戻るんだぞ!」

「はい!」


 見渡す限りの空と海、背には船が見えるけど、水平線には何もない。

 やっぱり少し不安を覚える。

 リネは真っ直ぐに迷わずに空を飛んでいく。

 そしてリネが吠えた原因が視界に入る。

 楕円形の黒い影が船に向かって泳いでいる。

 速度はよくわからないけど早いように感じる。


「リネもしかしてあの黒いやつ?」


 リネがわふっと吠えると、影から真っ黒い触手が真っ直ぐこちらに飛び出してくる。

 リネがそれを右に避けると、更に二つ三つと触手が飛び出し、リネは急上昇してそれを振り切る。

 私は必死にリネにしがみつき続けることしかできない。


「リネ急いで船に戻って!」


 リネが今度は急降下しながら凄い速度で真っ直ぐに飛んでいく。

 目が開けてられずぎゅっと瞑る。

 身体の中が持ち上がる感覚がして風が止み、ゆっくり目を開けると舵を握るフィシェルさんの背が見える。


「リネ、あいつを見つけたんだって?」


 フィシェルさんが振り向かずに言う。


「はい、リネが見つけました。左の方から泳いできています。昨日と違って触手を伸ばして攻撃をしてきました」

「大きさは?」

「変わりなかったと思います…」

「やっぱり凍らなかったのか…」

「ヘンダーが操っているんでしょうか?」

「いや、けど作ったか、連れてきたか…わざわざ邪魔しにくるくれぇだから無関係じゃねーだろーが」

「凍らないならどうやって戦いますか?」

「足場を作る」

「足場?」

「コーネル!ゲンリュウ!錨を下ろしてくれ!エリン!海を凍らせろ!」


 コーネルさんとゲンリュウさんが錨を下ろすと、フィシェルさんが杖を振って帆を畳んで縛りつける。


「揺れるかもだからリネにしがみついてろよ」


 フィシェルさんが私とリネの方に振り向いてそう言う。

 まだ顔色は良くないみたいだ。


「エリン!いいぞ!」

「わかったー」


 私とリネの代わりに船の前方を見張っていたエリンさんが杖を出して、両手に持って空に掲げると船の周囲が一瞬で凍りつき、ギシギシ、パキパキと軋む音が響いて、小さな島のようになる。


「ゲンリュウ!黒いのは?」

「船からは見えん!」

「飛沫も上げずに移動していたので、かなり近づかないと目視は難しいのかもしれません。でもリネの耳には海中を泳ぐ音が聞こえているのかも…」

「ウチとエリンとリネで氷の上に追い込む!コーネルとナズナが前衛、ゲンリュウは二人を支援してくれ」

「わかりました。リネ気をつけてね」


 頭を撫でてあげるとお返しに私のお腹に鼻先をぐりぐりと押しつけて、船から飛び立つ。


「じゃいってくるわ」

「気をつけてください…」


 リネの後を追ってフィシェルさんが箒に乗って飛んでいき、それに続いて甲板からエリンさんも飛び立つ。

 ゲンリュウさんとコーネルさんが船から氷の上へ飛び降りていき、私も後に続く。

 すると驚いたコーネルさんとゲンリュウさんが飛び込んできて私を受け止めてくれる。


「ごめんなさい…思ったより高かったですね…」

「ははは…」

「無事で何より…」

「二人とも…よくやったわ!」


 てっきり大袈裟と言うのかと思ったら違った。

 鉄塊を階段状にして降りていくべきだっただろうか。

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