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早速なのだろうか

「じゃあ出すぜ!」


 フィシェルさんの合図で船がゆっくりと港から離れていく。

 穏やかに見える水面に反して、大きくゆっくりと船が揺れる。

 私が乗っていても船が魔法で動いているのは規模が違うことと、魔法を掛ける場所を限定しているからだとエリンさんが教えてくれた。

 エリンさんが風を起こし、フィシェルさんが舵を操る。

 私はリネと水平線を眺めている。

 一応うろちょろしたり。あまり船に触れないようにと言われている。

 何か白いものが二つ飛んでいる。


「あれ、鳥かな?」


 わふっとリネが答える。

 ゲンリュウさんとコーネルさんはそれぞれ左右の見張りをしていて、お姉さまはコーネルさんの背にいる。

 私はリネと甲板で前方を見張っているけど、特に海に変化はない。

 けど鳥がいるところには魚がいるんだろうか。


「どーおー?何かいたー?」

「一応鳥が飛んでいまーす!」

「りょーかーい!」


 船がゆっくりと加速していき、揺れが大きくなる。

 エリンさんが速度を上げたみたいだ。

 とても静かで風と波の音しか聞こえない。

 今のところは海は平和そのものに感じる。

 海の不思議な匂いも懐かしさを覚える。潮の香りだろうか。

 鳥の群れが右の方に見えてくると、エリンさんとフィシェルさんにも見えたようで船が少し旋回して群れの方に進んでいく。


「リネ、お願い」


 リネに股がると、鳥のような大きな翼を羽ばたかせて、ふわりと飛び立つ。

 鳥の群れを驚かさないように少し距離を取って海を眺める。

 鳥の群れの下だけ周りより少し色が濃く見える。

 魚影だろうか。

 何かが飛び出して鳥を襲う様子も船に近づく様子もない。

 普通の魚だろうか。

 すると一羽の鳥が勢いよく海に飛び込み、水飛沫を上げると、魚を咥えて海面に上がってくる。


「普通の魚だね。戻ろうリネ」


 リネが反転して飛び、すぐに船の甲板に戻ると、エリンさんが出迎えてくれる。


「どうだった?」

「普通のお魚でした。背が紺色でお腹は銀色で」

「そっか、ありがとう。みんな!また動くよー」


 号令をかけながら、船首側から船尾側の舵のある方へと戻っていく。

 再び船が動き始め、また水平線を見つめる。

 船の姿も鳥の姿もない。

 港ももう見えず、水平線に囲まれている。

 なんだか少し怖い。

 私の恐怖を感じ取ったのかリネが私のお腹に鼻をぐりぐり押しつけてくる。


「ありがとうリネ」


 リネの頭を撫でてあげると、お返しに手をぺろぺろと舐めてきてくれてくすぐったい。

 ずっと海を眺めているけどあまりにも何も無くて時間の感覚もわからなくなりそう。


「しゅーごー!」


 エリンさんの号令を聞いて、みんなが甲板に集まってくる。


「ナズナ大丈夫?酔ったりしてないかしら」

「はいお姉さま。今のところは大丈夫です」

「とりあえずお昼にしよう。今みんなに配るね」


 エリンさんが手を叩くと、甲板に料理の乗ったテーブルと椅子が現れる。


「これは面妖な…」

「う~ん…何もなくて寝そうだったわ…」

「これもまた面妖な…」

「ほらほらみんな座って?」

「フィシェルさんは?」

「フィシェルは一応舵に残ってるよ」

「そうですか」


 とりあえず目の前の席に座ると、右にお姉さま、左にゲンリュウさんが座る。

 豆のスープにサラダとパンが二つだ。


「はい、リネもどうぞ」


 エリンさんが私の後ろにお肉のお皿を置いてくれ、リネがお肉にかぶりつくのを確認して、エリンさんが席に座るのを待ってから私も食べ始めることにする。


「いただきます」

「うむ、いただきます」


 豆のスープとサラダは食べなれた味だけど、パンは買ってきたものみたいだ。


「食べて少し休んだら、私とフィシェルとリネにナズナでもう少し広い範囲を見て回ろうってことになったんだけどナズナは平気?」

「私はリネに乗るだけなので…リネ、大丈夫?」


 わふっと元気に返事が返ってくる。


「ありがとうリネ。船は一旦ここに残すことになる。波も穏やかだし、いざという時にすぐに動かせるように錨は下ろさないでおくけど、もし揺れが酷かったり、流され過ぎてると思ったら三人の判断で錨は下ろしてくれていいから」

「わかったよ」

「わかったわ」

「承った」

「出る前に魔法をかけておいたから沖でも縄が足りないってことはないはずだから安心してね」


 パン一つとサラダを食べ終え、残りのパンをスープと一緒に食べる。


「魔物が夜に現れる可能性もあるんじゃないか?」

「そうだね…今日と明日、このまま何も無ければ夜間も考えないとね」


 この見果てぬ海で魔物を本当に見つけられるんだろうか。

 パンの最後の一口を食べて、豆のスープを飲み干す。

 魔力の多いところに出やすいというなら魔法がかかってる船を狙ってきてもおかしくはないはずだけど、もうどこか遠くに移動したんだろうか。


「お前ら!気をつけろ!なんかくる!」


 フィシェルさんの叫び声にみんな即座に席を立つ。

 エリンさんが葉のついた長い枝のような大きな杖をどこからともなく出して、テーブルを消し、私は四つの鉄塊を周囲に浮かせる。


「ミーティア!」


 コーネルさんの掛け声でお姉さまは剣へと姿を変え、コーネルさんが即座に両手剣を構える。

 ゲンリュウさんもいつでも鯉口を切れるように腰の刀を握る。

 一体何がどこから?

 空には少し雲が浮かぶだけで、生き物の姿は見当たらない。


「下だ!」


 ゲンリュウさんが叫んだ瞬間に低く唸るような音が響き、船が大きく揺れて横に傾いていく。

 


「リネ!飛んで!」


 私が叫ぶとリネが私の股に潜り込み、翼を広げて飛び立つ。

 私は鉄塊を二つにして今にも甲板から滑り落ちそうなコーネルさんとゲンリュウさんの元のに飛ばす。


「二人とも捕まってください!」

「ありがとうナズナ!」


 コーネルさんとゲンリュウさんが鉄塊に掴まったのを見て、エリンさんも杖に股がり飛び上がる。


「やられたな」


 箒に乗ったフィシェルさんが船に杖を向けながら呟き、空を飛ぶ四人が下を見る。

 船の周りの海面が濃く、黒くなっている。

 しかしまだ敵の姿が見えない。

 船は今にも横転しそうな角度のまま動かなくなる。


「フィシェルこらえて!中を見てくる!」

「何かが押し続けてる!立て直せねぇ!」


 群れではなく巨大な一つの魔物なのだろうか。

 エリンさんが杖に乗ったまま鳥のように海の中に突っ込んでいく。

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