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いよいよ海だ

 テーブルの上にたくさん並ぶお皿の中から、焼き茸の串に手を伸ばす。

 しかし届きそうで届かない。

 すると誰かがお皿を持ち上げて私の方に寄せてくれる。

 エリンさんだ。


「ありがとうございますエリンさん」

「どういたしまして」


 四種類の茸が刺さっているようで、シーカテとモモタケと知らない茸が二つ刺さっている。

 塩気もちょうどよくて旨味たっぷりで美味しい。

 ゲンリュウさんとフィシェルさんがワイン、コーネルさんとお姉さまとエリンさんが麦酒を飲んでいて、私はブブのジュースを飲んでいる。

 みなさんお酒で盛り上がっているようだ。


「ナズナ、ゲンリュウに一回も勝てなかったんだって?」

「はい…気づいたら後ろを取られたり、砂をかけられたり、刀を止められて軽々と投げ飛ばされたり、木刀を弾き飛ばされたり…」

「それは災難だったねナズナちゃん」

「俺も何度か木刀を掠めているからな。危なかったぞ」

「こいつとどっちが強いんだよ?」

「ゲンリュウね」


 私が答えにくい質問にお姉さまが即座に答える。


「ミーティアが言うなら文句は無いけど…鍛冶師と聞いていたのにそんなに?」

「私と一緒に身体強化使えばぎりぎり勝てるかもしれないわ」

「すごい身体してたよ…」

「はい…なんていうかバキバキでした」

「バキバキ…本気なら勝てるかもってことか…世界は広いな」


 驚くコーネルさんには目もくれず、隣に座るフィシェルさんがゲンリュウさんの身体をペタペタ触り出す。


「おいおい。年頃の娘がそのような…」

「こりゃ本物だな。どうやって維持してんだ?」

「そうだなぁ…長らく鎚は振るえていないが刀で素振りを毎朝している」

「それだけなんですか?」

「そうだぞ。ナズナも師匠の冊子の通りに素振りを続ければきっとぎこちなさも減っていって身体も丈夫になるだろう」

「はい」

「そういや、明日から海に出っから、船が苦手な奴は飲み過ぎんなよ」

「はーい」

「大丈夫なのかミーティア?」

「剣なっていれば平気だわ」

「そうだったな」

「ナズナ、これも美味しいよ?」

「ありがとうございますエリンさん」


 エリンさんが私が届かないところにあるお肉をお皿によそって渡してくれる。

 柔らかくて噛むほど味がして美味しい。

 リネにも分けてあげようと思い小さく切ってフードに入れる。


「ナズナ、これも食え」

「ありがとうございますゲンリュウさん」


 まん丸のかわいい揚げ物をゲンリュウさんが二つお皿に取ってくれる。きつね色のこんがりした衣だ。

 半分にするかどうか迷ったけど、フォークで刺してぱくっとそのまま放り込む。

 さくっとしてチーズがとろけて、粒々、もちもち、お米だ。

 塩気もしっかりしていて何もつけなくても美味しい。


「気に入ったようでよかった」

「ナズナは米が好きみたいだぜ」

「そうかそうか!」

「お米のフライは初めてだったけど美味しかったです」

「これなら城でも作れそうだな」

「だって、よかったねナズナ」

「はい」

「ぐぬぬぬ…私だって…」

「ミーティア、料理で勝負したって勝てっこないぞ?」

「せめてアリシアくらいはできねーとな」

「ぐぬぬぬ…」


 お姉さまは酔ってきたんだろうか。

 他のみんなが強いだけだろうか。


「お姉さま、この串焼き美味しいですよ。三番目のモモタケが特におすすめです」

「ありがとう…優しいのはナズナだけだわ……美味しい」


 やっぱり酔ってそうだ。


「ゲンリュウも船に乗るか?ちゃんと金なら払うぜ」

「海の中の魔物相手には何も出来んぞ?」

「うーん…私とフィシェルは飛べて、ナズナも一応飛べて、船に残るのはコーネルくんとミーティアになるのか」

「そう。コーネルと同じかそれ以上だってんなら師匠も文句は言わねーと思うし、船の護衛がもう少しいてもいいかと思ってよ」

「そうだね。目が増えるのはいいと思うよ。あっゲンリュウさんは泳げる?」

「一応はな。得意ではないが」

「コーネルはどう思う?」

「俺?俺は雇われてる側だから雇い主の意向に従うよ」

「じゃあお前がいいなら乗らね?」

「うーん…」

「お手伝いをしたら、魔物が消えた後に船に乗せてもらいやすくなるかもしれないですよ?」

「ありえるな。議長に報告入れねーといけね~し」

「わかった…手伝いをさせていただこう」

「おし、じゃあ話しやすくなったから明日からのことを少し説明するぜ。明日からは船で沖に出て偵察だ。会敵したら積極的にこっちから仕掛ける。群れが散ればいいし、本体がいるなら誘い出せるかもしれねー」

「朝から夕方まで船の上になりますけどゲンリュウさんは平気ですか?ナズナちゃんも大丈夫?」

「ああ、船酔いはないから安心してくれ」

「私は船が初めてなのでわからないですけどリネがいるからもし酔っても大丈夫です」


 フードの中からチチチと返事が聞こえる。


「フィシェルの箒が平気ならきっと大丈夫だよ。ね、ミーティア。ミーティア?」

「お姉さま?」

「寝てね?」

「…おいミーティア、今日はまだそんなに飲んでないぞ?」

「うーん」

「質の悪い酒に当たったか?ウチが部屋に送ってくる。ナズナももう夜だし悪ぃけど一緒に帰ってくれね?」

「わかりました」

「いやいやフィシェルさん!俺が送っていきますよ」

「ウチなら魔法ですぐ戻ってこれっから平気だ。任せとけ」

「じゃあお願いします」

「おう、エリン任せたぜ」

「わかったよ。気をつけてね」


 フィシェルさんが席を立って唸るお姉さまを背負い、私は後ろをついていく。

 しかし、大通りから暗い路地に入っていく。

 宮殿とは方向が違う。


「この辺りでいっか」


 そう言うと杖を出して円を描き、空間に穴が空いて、中に入ってお姉さまを置いて戻ってきてすぐ手際よく私を簀巻きにしていく。

 そして持ち上げられて少ししてすぐに下ろされてぐるぐると布から解放される。

 泊まっている宮殿の部屋だ。


「ありがとうございますフィシェルさん」

「おう。っとそうだそうだ」


 フィシェルさんが三角帽子に手を突っ込んで

 何か油紙に包まれた塊を手渡される。

 ずっしりとして重たい。


「これは?」

「さっきコーネルと会議の後に買っておいたリネの肉だ。ギルムーだぞリネ」


 フードから飛び出したリネにフィシェルさんが杖を振ると元の狼のような姿に瞬時に戻る。


「変身ばかりで悪いけどよ。もう少し辛抱してくれ」


 わふっとリネが返事して、お姉さまがうーんと唸る。


「とりあえずウチは戻るな。ミーティアのこと頼むぜ。これ水な」


 お肉と一緒に取り出していたのか水筒を二つ手渡される


「ありがとうございます。おやすみなさい」

「おう、おやすみ」


 フィシェルさんが穴の中に消えると、穴も消える。

 律儀に待っていたリネにいいよと言うと、勢いよくお肉に食らいつく。

 私はリネの背を撫でながらお肉が綺麗に無くなるのを眺めて、それからリネと一緒にベッドに入った。

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