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休憩はしっかりと

「さあどうぞナズナ」

「はいゲンリュウさんも」

「ありがとうございます」

「かたじけない」


 訓練所の壁際によってエリンさんとお姉さまが用意してくれた昼食をいただく。

 酸っぱいジュースが疲れた身体に染み渡る気がする。

 サンドイッチも美味しい。


「ゲンリュウさんは全然疲れてないんですね」

「鍛冶の時は徹夜で打ち続けることも多いからな。体力には自信があるぞ」

「そういえば鍛冶師なんですよね?それもご自身で?」

「ああ。ナズナの刀とは天と地の差があるがな」

「見せていただけますか?」

「私も見てみたいわ」

「かまわない……ほれ」


 ゲンリュウさんが腰から鞘ごと刀を抜いて、先にサンドイッチを食べ終えていた二人に差し出す。


「刀ってこんなに真っ直ぐだったっけ…」

「なに言ってるのエリン?ナズナの反ってる刀の方が珍しいわ」

「え?そうなの?」

「二人とも間違っていない。昔はナズナの持っているような反りのある刀が普通で今は直刀が普通なんだ」

「戦で製鉄技術が一度失われたそうなんです。エリンさんは何か知ってることあったりしませんか?」

「流石にわからないなぁ」

「仕方のないことだ。秘伝として代々その家の子供に伝えられていたものだからな」

「一子相伝ってやつね!」

「よく知っているな」

「じゃあ戦でホノロの人達はみんな?」

「エルフはすごいな…その通りだ」

「そう…」


 ホノロ…聞いても何も頭に浮かばない…。

 やっぱり勇者の記憶全てを覚えているわけじゃないんだ。


「五百年は前のことだがもしや知り合いが?」

「…ええ、みんな優しい人達だったよ。当時は魔王軍っていう共通の敵がいたからキコ、じゃなくて今はトコヨか、内戦なんてしてなかったのに」

「その魔王を倒した後だ。各地の大名が荒れ果てた国を治めるのは己だと戦を始めた」

「確かに我の強い人達だったかな…」


 大きな太刀を振るう大男と大筒を携えた女性が脳裏に浮かぶ。

 顔まではよく思い出せない。

 思い出そうとしてみたら、たくさんの血と肉が浮かぶ。

 視線を感じてそれが全て人だと気づいた瞬間に胸から何かが逆流してきて咄嗟にぐっと堪える。


「ナズナ?どうしたの?」

「うっ…ぐ、大丈夫です…ちょっと喉に詰まりそうになって…」

「ちょっと待って……はい水」

「ありがとうございます」


 エリンさんが水筒を渡してくれて、三口ほど飲む。

 喉がじんじんする。多分ギリギリだった。


「もう大丈夫です」

「午後は稽古はよそうか」

「いえ…本当に大丈夫です。午後もお願いします」


 私は最後の一口を押し込んで、ジュースで流し込んで平静を装う。


「わかった…ならせめてもう少し休憩時間を延ばそう。俺はちと厠に行ってくる」

「ありがとうございます」


 ゲンリュウさんが立ち上がって訓練所を出ていく。

 それを確認したエリンさんが口を開く。


「何か思い出したの?」

「いえ…」

「ナズナ、顔色が悪いわ…」


 二人には嘘はつけなさそうだ。

 ゲンリュウさんも何かを察して出ていってくれたのかもしれない。


「大名という言葉とエリンさんの我の強い人達だったという言葉で二人の方が頭に浮かんできて、でも顔まではよく思い出せなくて思い出そうとしてみたら、たくさんの死体がこっちを見てて」


 話していたらさっきの視線を感じて胸が苦しくなる。


「たくさんの死体…」

「ナズナ落ち着いて…私の目を見て…」


 下を向いていた私の顔をエリンさんが両手で挟んでエリンさんの方へ向ける。


「それは決してあなたに向けられたものじゃない…私の目を見て」


 エリンさんの綺麗な満月のような瞳に私が映る。

 ひどい顔だ。まるでげっそりしているみたい。


「それはあなたに…もちろんユウキに向けられたものでもない」

「なんだか、前に同じことをしてもらったことがある気がします…」


 すっと締め付けられていた胸が楽になってきたような気がする。


「落ち着いた?」

「はい…」


 突然お姉さまが私とエリンさんを抱き締める。


「大丈夫よ…二人共…大丈夫」


 暖かい。

 本当にもう大丈夫な気がする。


「ありがとうミーティア…」

「エリンも私のことお姉様と呼んでもいいわよ?」

「ふふふ、そうしたらガンドルヴァルガはどうなるのお姉様?」

「そういえば賢者様の妹だったわ…賢者様のお姉様になる自信はないわ…」

「それは残念」

「ありがとうございます。エリンさん、お姉様、本当にもう大丈夫です」

「そう?」


 お姉様が放してくれて、エリンさんも両手を私の頬から放す。


「大丈夫そうだね」

「そうだな。顔色がよくなった」

「ゲンリュウ!いつから見てたのかしら?ゲンリュウのえっち…」

「いや!?そのようなことは!」

「冗談よ!」

「肝が少し冷えたぞ…まぁだが仲睦まじい様子は扉を開けた時に遠くから見えた」

「恥ずかしいです…」

「先程、用を足している時にふと思ったんだが…」

「ゲンリュウさん下ネタはナズナの前ではちょっと…」

「違うから安心しろ…ナズナはチンピラどもを魔法で片付けたと言っていたが、戦う時は基本的に刀だけなのか?」

「いえ、これも組み合わせて戦っています」


 私は盾を宙に出してゲンリュウさんに見せ、四つの鉄塊に別れさせてぐるぐる私の回りやみんなの回りに飛ばす。


「基本的には盾として使うことが多いですが牽制や攻撃としても使ったりしています」

「ほう…大きな鉄の延べ棒がなんとも珍妙な…よし、基本は出来ているから応用だな。それもありで組み手といこうか」

「わかりました!」

「じゃあ私が審判をするわ」

「では頼むとしよう」

「二人とも怪我しないようにね」

「はい」


 エリンさんが壁に寄って、お姉様が両手剣を出す。


「私が剣を投げるから砂に落ちたら開始!二人とも準備はいい?」


 ゲンリュウさんが木剣を中段に構える。

 私も木刀を脇構え、左肩に盾を浮かせる。


「…じゃあいくわ!」


 お姉様が下から投げた両手剣がくるくると宙を舞って深く砂に突き刺さり、そして消える。

 目の前にいたはずのゲンリュウさんと一緒に。

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