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変な癖とかはないみたい

 フィシェルさんが借りてくれた宮殿内にある訓練所、床は砂場になっていて壁際には鎧を被せた丸太数本が並んでいたり、木剣や、先の丸い槍や盾などが掛けられている。

 軽い運動や練習に利用する人達も多いのかもしれない。

 ここにいるのは私とゲンリュウさん、お姉さまとエリンさんとその肩に乗る小鳥姿のリネだ。

 フィシェルさんとコーネルさんはググレさんと魔物討伐についての話し合いに行っている。

 今はゲンリュウさんに師匠の冊子を見せて、普段の練習を説明していたところだ。


「ふむ…これをあの時の金髪のお嬢ちゃんが…」

「はい。私のために調べてくれて」

「内容に間違いはない。しかし書いた当人も懸念していた様に、俺も杖術は刀と相性が悪いと思う。片刃の刀は切り返す必要があるからな」

「そうなんですね」

「そしてこの木刀だが…なんというか…これであっているのか?」

「はい。壊れたりはしてないはずですけど…」

「そうか。普段ナズナが使っているのは古刀だな」


 確かにおよそ五百年前の刀と考える古い物になる。


「はい、年代は結構…古いと思います」

「今現在作られている刀のほとんどに反りはない」

「そういえばゲンリュウさんの作っていたものにも反りは無かったですね」

「ああ…長き戦火で製鉄技術が一度失われてな。昔のように作っても折れてしまう」

「そうだったんですね」

「その…良ければ見せてもらえんか?」

「それは…」


 どうしようか迷って壁際で座って見学中のエリンさんとお姉さまの方に視線が泳ぐ。


「何かあったかしらー?」


 会話は届いていないけど視線は伝わったようでお姉さまが大声で叫ぶ。


「いいえ!大丈夫です!」


 咄嗟に強がってしまう。

 ああ、どうしよう。

 しかしこちらは教えを乞う立場だから見てもらうことで何かに繋がるかもしれない。

 私は持っていた木刀を砂に突き立てる。


「あの…私の刀は曰く付きなので他言無用と約束していただけますか?」

「曰く付き…わかった約束しよう。娘に嘘はつかん」


 にかっとは笑わずゲンリュウさんの顔つきが引き締まる。


「ではお父さんを信じます…」


 私は抜き身の刀を出してゲンリュウさんに差し出す。

 突然現れたからか、抜き身だからか、ゲンリュウさんの顔が驚きに変わる。


「これは…」


 ゲンリュウさんが角度を何度も変えてじっくりと刀を見る。

 表情は驚いたまま固まり、言葉を失っている。

 やはり鍛冶師見せるのは危ないのだろうか。


「失礼…」


 一言呟いて私から距離を取り、軽く素振りをする。


「本当にナズナがこれを使っているのか?」

「はい…」

「重いぞ?」

「私にはさっきの木刀と同じように軽く感じるんです」

「ほう…不可思議だ」

「そしてこの刀身…」


 また刀を見つめて固まってしまう。


「鞘はありません」

「そうなのか?」

「はい…私の意思で出し入れできるので困ってはいないですけど」

「そうか…ありがとう」


 差し出された刀を受け取って消し、砂に差しておいた木刀を抜く。


「…では冊子の通りに振ってみせてくれ」

「はい!」


 私は基本の型を順に全て振ってみせる。

 ゲンリュウさんに止められるまで何度も順に繰り返す。


「よし!…普段刀は脇構えでいるのか?」

「はい」

「小さなナズナが低い位置から繰り出す攻撃は刀では防ぎにくい。しかし小さなナズナが脇構えをしていても相手に背から伸びる刀身で刀を振る方向が丸わかりだ」

「なるほど…」


 普段は盾と一緒だから気にしたことが無かった。


「とりあえず、おかしなところはなかったぞ。ぎこちないところは少しあったが、背丈と刃渡りが合っていないから仕方ない部分もあるだろう」

「ありがとうございます」

「しかしなぁ…特に教えられることもないぞ…」


 そう言いながらゲンリュウさんが壁際に歩いていき、木剣を一つ取って戻ってきて、腰の刀を鞘ごと抜いて砂に突き立てる。


「まずは打ち込み稽古だ。全部防ぐから気にせず好きな様にこい」

「…いきます!」


 身体強化は使わずに丁寧に踏み込み、打ち込む。

 コンコンと木と木がぶつかって音を立てる。


「その調子だ」

「はい!」


 ゲンリュウさんは私の打ち込みを右手で軽々と少ない動きで受け止め続ける。


「よし、次は俺が打ち込む。それを防ぐんだ」

「はい!」


 ゲンリュウさんが木剣を両手で握って中段に構え、ゆっくりと私に向かって真っ向に振る。

 私はそれを脇構えから腕を胸の辺りまで持ち上げて横向きに受け止める。


「いいぞ。しかしこうやって力任せに潰しにかかる敵もいるだろう」


 ゲンリュウさんがぐっと力を込め、私は抵抗出来ずに腕が押されて肘が閉じ、木剣が押し付けられる。


「さあこういう場合はどうする?」


 ぎりぎりと木剣と木刀が擦れる。

 手加減されていなければとっくに押し倒されているか、刀に構わずに力任せに肩から胸にかけて斬られてしまうだろう。

 ここまで詰められてしまったらどうすればいいんだろう。


「さあどうする。ナズナ、お前は小さい。お前が戦いで生き残るにはどうする?」

「小さい私が生き残るには…」


 隠れて奇襲?

 そもそも鍔迫り合いを避けるように立ち回る?


「さあどうする?」


 更にぐっと力が込められ、膝が折れかける。

 何度も似た状況に遭遇している。

 そうだ。いつも私はこんな時に盾で相手を牽制するか。


「懐に…潜る!」


 木と木が擦れ、音を立てる。

 私はしゃがみ込みながら木刀を滑らせて、木剣のガードに当たったところで角度を変えて、刀身を下に滑らせてガードから抜け、懐に入り、がら空きの胴を逆袈裟に斬り払おうとして慌てて寸止めする。


「…ハッハッハッハッ!参った!参った!俺の稽古なんていらなかったんじゃないか?」

「そんなことは…ゲンリュウさんのおかげで少し自信が持てました。今までの頑張りは無駄じゃなかったんだって思えました」

「そうか。自信がついたのはいいことだ」

「大丈夫ですか?ぎりぎりに見えたから」

「大丈夫だ。ナズナはちゃんと止めてくれた」


 エリンさんとお姉さまが駆け寄って来ていたみたいだ。


「当たったのは着物の撓みだ。怪我はない」


 ゲンリュウさんが着物を脱いでパンパンとお腹を叩く。

 なんていうかムキムキというかバキバキでちょっと怖い。

 かなり手加減してくれていたみたい。

 そもそも寸止めの必要もなかったかもしないと思ってしまったくらい筋肉がある。


「寸止めいらなかったんじゃないかしら…」


 お姉さまも同じことを思ったみたいだ。


「槌を振るい続けていたら自然とな。さあ稽古は終わってないぞ?」

「お願いします!」


 ゲンリュウさんが着物を着直し、木剣を中段に構える。

 私も気を引き締めなおして木刀を脇に構え、しっかりと視界にゲンリュウさんを捉えて木剣を受け止める。

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