お礼は出来ただろうか
レースさんと別れて宮殿を出て、大通りと中央広場を抜けてゲンリュウさんの泊まっている宿になんとか迷子にならずに辿り着く。
「ここにその男がいんのか?」
「はい。外出していなければ…」
「とりあえず聞いてみっか」
中に入ると、お婆さんがカウンターに座っていて、何か書き仕事をしている。
「ごめんねぇ…今は満室ですよ」
「泊まりに来たんじゃねーから大丈夫だ。それよりここにトコヨから来た奴泊まってるか?」
「ええ、いらっしゃいますよ」
「呼んできてくんね?連れが世話になってよ」
「えっええ…少し待っていてくださいねぇ。右に食堂がありますから、座っていてください」
「おう」
お礼参りといいフィシェルさんが言うと別の意味に感じるのは気のせいだろうか。
お婆さんも怖がっていたように見える。
お婆さんが階段を上がっていき、食堂のてきとうなテーブルに着いてしばらくすると、足音が増えて戻ってくる。
「おお!ナズナか!本当に来たのか!」
「ゲンリュウさんいらっしゃってよかったです」
「して、そちらが連れか」
「おう、フィシェルだ。ナズナが世話になったって聞いたぜ」
「気にするな。俺もナズナに助けられたしな」
「とりあえず座ってくれ」
「では失礼して」
フィシェルさんとゲンリュウさんと私の不思議な三人がテーブルを囲んでいると、お婆さんが飲み物出してくれて食堂から出ていく。
「とりあえずこれを受け取ってくれ」
フィシェルさんがいつの間にか用意していた小包をゲンリュウさんに差し出す。
「これはいったい?」
「保存食と金だ」
「そんな!受け取れん!」
「ウチらが海の問題を解決してもすぐには大陸は渡れねーぞ?航路の安全確認に時間がかかるからな。大金を払うか、余程腕に自信があんならすぐに船に乗せてもらえるかも知れねーけど」
「それは…そうか…そうだなぁ」
「もし急いで渡らなきゃならねー事情があんなら、魔法で送ってやってもいいけどよ」
「いや急ぐようなことはないんだが…」
ゲンリュウさんが腕を組んで天井を仰ぎ見たまま考え込んでしまう。
そして考えが決まったのかフィシェルさんを見る。
「そうだな…俺は鍛冶師をしている。何か仕事はないか?」
「いや無ぇーけど。魔法使いだし」
「そっそうか…」
また天井を見つめ出してしまう。
私も何か考えた方がいいだろうか。
ゲンリュウさんにしか頼めないこと…。
鍛冶、研ぎなども出来るんだろうか。でも一度消して出し直すと汚れもない刀に研ぎはいるんだろうか。
刀…そういえばさっき刀を使っていた。今は腰に差していないようだけど、さっきは差していた。
着物に馴染んでいて気にしていなかったけど。
「あの…私に簡単な稽古をつけてもらえませんか?」
「稽古?鍛冶のか?」
「いえ、刀のです。何か使い方に変なところはないか見てもらえないかなと…」
「そりゃいいな。刀に詳しい奴は周りにいねーから教えてやってくれよ。講習の代金ってことでどーだ?」
「確かに初めてあった時、使ったことがあると言っていたな」
「はい…木刀を使って稽古をしているので一度見てもらえると嬉しいです」
「わかった。引き受けよう。しかし場所はあるのか?」
「宮殿の訓練所が確か借りれたはずだぜ」
「宮殿に泊まっているのか?もしやどこぞのお嬢様…これはこれはご無礼を…」
ゲンリュウさんがフィシェルさんに頭を下げ始める。
「ちげーから!頭上げろ!とりあえず明日の十時に宮殿に来てくれ。帰ったら訓練所の申請しとくから」
「承った」
「これは置いてくからな」
「かたじけない」
「助けてくれたお礼ですから…受け取ってください」
「ああ…わかった」
ゲンリュウさんがやっと小包を懐にしまってくれる。
「うし、じゃあウチらはこれで」
「ああ、明日必ず宮殿に赴こう」
「はい。お待ちしてます」
「ああナズナ、任せておけ」
ゲンリュウさんと別れて宿を出ると、フィシェルさんが両手を上げて大きく伸びをする。
「フィシェルさん、ありがとうございました」
「んあぁ…ウチは何も。すんなり受け取ってくんなかったし」
「でもお金だけじゃなく保存食まで」
「気にすんな。それよりリネに二人を探してもらおうぜ」
「そうでしたね。リネ、出てきていいよ」
背中のフードがもそっと動いて私が出した手のひらにリネがパタパタと飛んできたリネが乗る。
「静かしていてくれてありがとう。もう大丈夫だよ」
そっと顔に近づけて頬擦りするとリネも頭を擦り付けてきてくれる。
そしてチチチと鳴いて飛び始めるリネの後を追ってフィシェルさんと歩き出す。
ひとまず中央広場に行くみたいだ。四つの大通りの繋がる場所だからどれかの大通りにいるのかもしれない。
中央広場に着くとなんだか噴水に人が集まっている気がする。
「なんだ?何かあったのか?」
「どうなんでしょう」
すると広場が突然静まり返り、水の音が止まったことに気づいて噴水を見ると水の流れが止まってしまっている。
壊れてしまったんだろうか。
そんなことを考えていると、徐々に轟音が響き始め、噴水の中心の鐘の付いた柱から水飛沫が飛び出してきて、まるで雨の様に広場に水が降り注ぎながら鐘の音が鳴り響く。
そして水浸しになった人々が歓声をあげる。
「鐘の鳴る時間だったんだな。観光客が集まってたってことか」
「そうみたいですね。すごかったです」
あれ?フィシェルさんは全く濡れてない。
あれ?私も目の前で飛んでるリネも濡れてない。
「どうして濡れてないんですか?」
「ああ、急だったから何かと思って魔法使った」
「そうだったんですね」
「それより、ここに二人がいんのかリネ?」
フィシェルさんに返事をするようにチチチと鳴いて人混みに向かって飛んでいくリネを追いかける。
二人もどこかで鐘が鳴ることを聞いて見に来たんだろうか。




