一安心
部屋に戻るとアリシアさんにベッドに座らされる。
「さあ、こちらを飲んでください。苦いですから一気に流し込んで下さい」
緑色の小瓶を手渡され、苦いと言われる。
覚悟を決めて一気に飲み干す。初めは甘くて全然平気だと思ったら後から苦味どころかえぐみが追いかけてきて涙が出る。
「よく頑張りましたね。口直しにこちらを」
先ほどの美味しい白い液体の小瓶を渡してくれて、私は口の中を治そうと口の中にたくさん含んでから飲む。
それを見て、うふふとアリシアさんが口に手を当てて笑い、少し恥ずかしくなる。
「さあ後はこちらで口を濯いで下さい」
いつの間に持っていたのか。陶器のようなコップを渡される。
「中の水に口に含んで、口の中を濯いで、飲み込まずにコップに吐き出してください」
言われた通りに口に含んで、くちゅくちゅとゆすぐ。
氷ってないのになんだかシャリシャリする。
コップに吐き出すとアリシアさんがそれを回収して机に置くとベッドに寝かされ、毛布をかけてくれる。
「怪我人ですから、あまり出歩かないでくださいね。用があればこれを鳴らしてください。では失礼いたします」
枕元にハンドベルのような物を置いて、アリシアさんが部屋から出ていく。
薬に眠たくなる成分でも入っていたのか、疲れてただけか、私はふっと落ちていってしまう。
はっと目を覚ますと身体がすっきりとしている気がする。
どれだけ眠りに落ちていたんだろう。
窓もないから時間もわからない。
私は一瞬迷ってハンドベルみたいな物を振る。
今度はギリギリになる前にトイレにと思い、大人しく迷子にならないようにアリシアさんを呼ぶ。
少しして扉が開き、扉の前でアリシアさんが一礼する。
「ご用でしょうか?」
「あのトイレに案内してほしくて。お願いしてもいいですか?」
「わかりました。顔色もよくなったようなので少し城の中を案内致しましょう」
「お願いします」
部屋を出て左に歩いていくアリシアさんの後について行く。
「こちらがトイレになります」
左の奥がトイレみたいだ。
「こちらの穴の空いた椅子に座って用を足してください」
「わかりました」
扉を閉めて、お尻が落ちないように気をつけて用を足し、トイレから出る。
「あの今って朝なんでしょうか?夜なんでしょうか?」
「今はお昼頃かと。食堂に行きましょうか。食堂には時計がありますよ。そして何か食べましょうか」
「はい」
通路をずっと右に進んで、途中右に曲がり、進むと食堂があるみたいだ。
「ここはお城ですが、調理人や使用人といった方はいません。主様はお城に住んでいるだけで王様とかではありませんので。お弟子さん達も皆さん自由に生活しています」
「それじゃあえっとご飯は自分で用意しないといけない感じでしょうか?」
「食料庫の物は自由に使ってもそのまま食べてもいいですよ。それにいつも誰かしらが作ってくれたものがありますよ。味は保証できませんし、いたずらが仕掛けられてるかもしれませんけどね」
そう言いながらテーブルと椅子が並んだ広間を抜けて厨房に入っていく。
「今日は当たりですね。フィシェルさんの料理は美味しいですよ。遠慮無くいただきましょう」
「んだよアリシア。師匠の飯は作んなくていいのかよ。おーお前起きたのか」
厨房では耳にピアスをたくさんした金髪の女性が鍋を掻き回している。
「彼女がフィシェルさんですよ。ナズナさんをここに連れてきた方です」
「助けてくれたと聞きました。ありがとうございます」
「おーよ。まあわりーのはエリュだから礼なんていらねーよ」
「レイゼリアさんと、エリュ、さんはどこにいるんですか?」
「なんだ聞いてねーのか。アリシア、言っていーのか?」
「主様はまず心と身体を休めるようにと」
「んーじゃあレイゼリアのことだけ言っておくわ。あいつはここにはいねー。けど怪我もないし大丈夫だ。あいつはお前のダチんままだから安心しろ」
「そうですか。ありがとうございます」
とりあえずレイゼリアさんの無事が確認出来てよかった。少し胸が楽になった気がする。
「ほらよ、食え」
いつの間にやらお皿に盛ってくれていたみたいで私に渡してくれる。
「ありがとうございます。いただきます」
「ほらよアリシア。スプーンは自分で出せよ」
「ありがとうございます。食器類はこちらの棚に一通りあります」
アリシアさんがスプーンを渡してくれて、こっちですよと促されて、厨房から出て、適当に近くのテーブルに着く。
「フィシェルさんのことは気にしないでいいですよ。彼女は料理が趣味なのでこの後はお菓子作りでもすると思いますから」
「じゃあ、いただきます」
何かの薄切り肉と何かの野菜が煮込まれた甘めの香りのものが白くて丸っこい粒々の上にはかけられている。
スプーンで掬って食べてみるとお肉の味と甘い出汁の味がして美味しい。白いものとよく合う。
粒の形が丸いけどこの味は間違いなくお米だ。
私は夢中で掻き込んだ。
「やっぱりフィシェルさんは当たりでしたね」
「はい、美味しかったです」
「そういえばあちらが時計ですよ。今は十二時過ぎですね」
アリシアさんが指差した食堂の入口の上に大きな歯車のたくさんついた時計が飾られていた。