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賢者の城

 また戦争の夢を見た気がする。

 でも最後にレイゼリアさんがぎゅっと私を抱き締めて、懐かしい歌を聞かせてくれたような気がする。

 何してたんだっけ?

 思い出せない。全身が痛い。身体を起こそうと力むと更に痛みが増す。

 腕と背中の痛みに耐えながらどうにか上体を起こすと、胸元から毛布がずり落ち、包帯の巻かれた自分の身体が目に入り、何があったかを思い出す。


「レイゼリア!」


 回りを見渡してもレイゼリアさんはいない。

 それどころか部屋が違いすぎる。

 机の上には何かの瓶と服が畳んで置いてあり、クローゼットは無く、棚には本と瓶が入っている。

 元いた部屋との一番の違いは床も壁も石造りのようなところだろうか、別荘は木造だった。

 瓶は薬か何かなのか、草のような花のような香りが部屋に満ちている。

 とにかく外に出て、レイゼリアさんとレーシャさんと兵士の皆さんを探さないと。

 痛みに耐えながらベッドを降りる。痛みが特に酷いのは最後に何かを叩きつけられた背中と何故か両腕みたいだ。

 とりあえず机を見てみると、光る石のライトが置いてあり机の上は明るい。中身が緑色の小瓶と赤色の小瓶と空の瓶が置いてあり、ナイフと青いケープ、ボロボロになったレーシャさんのシャツが畳んで置いてあった。

 とりあえず青いケープだけ羽織って、部屋を出てみる。

 もしかしたら別荘の地下とかなのかもしれないと思ってたけど、広い通路がそれを否定する。

 等間隔に灯りがついていて、絨毯か何かが敷かれている。天井は高い。石造りの要塞?城?

 王都の城に行くって言っていたからここは城だろうか。

 通路の奥から誰か歩いてくる。

 黒いスカートに白いエプロン、メイドさんだろうか?

 彼女も私に気づいたのか、こっちに歩いてくる。

 白い髪に赤い瞳、両手には肘まで覆う大きなミトン、そして両耳の上辺りから生えた黒くて艶やかな角。

 魔族なんだろうか。

 夢のこともあって、何となく身構えてしまう。


「お目覚めのようですね。お身体は大丈夫ですか?」

「はい。まだ両腕と背中が痛みますが」

「そうですか」

「あのここは王都の城なんですか?レイゼリアさんは?」

「ここは賢者ガンドルヴァルガ様の城です。場所はイー大陸北部の森です」

「森?」

「はい。どこかの国とかではないので。付近に住む方々からは迷いの森や禁じられた森と言われています」


 自分がどこの森にいたのかもわからないからどこにいるのか聞いても全然わからない。


「えっと私はどうやってここにきたんですか?」

「怪我をなされていて危険な状態だったのでフィシェルさんがこちらに連れてこられました」

「そうなんですね」


 フィシェルさんというのは誰なんだろう。


「喉が渇いていませんか?こちらを飲んでください」

「ありがとうございます」


 白い液体の入った瓶をメイドさんが渡してくれる。

 喉が渇いていたのでその場で飲んでみる。

 すごく甘い牛乳みたいな味がする。美味しい。


「お気に召したようでよかったです」

「はい、甘くて美味しかっです」


 メイドさんが空の瓶を回収してくれる。


「では主の元へお連れするので着いてきてください」

「わかりました」


 通路をぐるぐると歩いて階段を登り、広間に案内される。一人では絶対迷子になる。

 


「主様、お客様をお連れしました」

「フィシェルが連れてきた子か」

「はい、お目覚めなられましたので」

「そうか。来てくれ」


 メイドさんに促され、広間の奥へと歩いていく。奥にある玉座には長い耳と長い髭のおじいさんが座っている。

 作法とか知らないので玉座の前でもじもじしてしまう。


「何があったかどこまで覚えている?」

「えっとレイゼリアさんがエリュさんを呼んで、それでちょっと待っててって言って、魔族を連れてきて。そしたら魔族に襲われて、エリュさんも私を攻撃してきて、レイゼリアさんが殺されそうになって、レイゼリアさんを守って、そしたら背中に何かを叩きつけられたような落とされたような…」


 緊張と混乱で上手く説明できない。


「…それで、目が覚めたらここに」

「はぁ、エリュは後でお仕置きだなぁ」


 肘掛けに置いてた手を顎に当て、ため息を吐きながら項垂れている。


「改めて説明しよう。まず、わしは魔法使いのメリエ・エイレリア・ガンドルヴァルガ。一応この城の主だ。そこに控えるのはメイドの」

「アリシアです。よろしくお願いいたします」

「そして君を痛めつけたエリュはわしの弟子の一人。まずは非礼を詫びさせてくれ、怖い思いをさせてすまなかった」


 椅子に座ったまま、おじいさんが深々と頭を下げる。


「わしの弟子達は賢者の杖と持て囃されているが、彼女らも普通の人と変わらない。時には間違いを犯すこともある。今回はわしの監督責任だ。本当にすまなかった」

「わかりました。顔を上げてください」


 何がなにやらわからないけど、エリュさんも初めはレイゼリアさんに頼まれて始めたことだ。一先ずは飲み込もう。


「ありがとう。君と君のこれからについては傷と心が落ち着いてからにしよう」

「えっとありがとうございます」

「だが一つだけ君に行っておく。夢に惑わされるな」


 私の困惑した表情に気づいたのか。更に続ける。


「否定しているわけじゃない。しかし君は君だ」


 そんなことを言われても、夢以外に記憶の手がかりはほとんど無い。


「さあ今日はもうゆっくり休むといい。アリシア」

「はい、主様。さあ、痛み止めが消える前にお部屋に戻りましょう」


 私はアリシアさんに連れられ広間を後にした。  

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