魔法使えないのかな
「これはこうやってここを持って、こうすると皮を剥きやすいですよ」
「こうですか?」
「そうです。この調子で頑張りましょう」
「はい」
私は厨房でレーシャさんの夕食作りをお手伝いしていた。
レーシャさんを見ていて、胸が大きい以外に気づいたことがある。おそらく私が着ているぶかぶかの服はレーシャさんの替えか予備のシャツなんだろう。
私は気を取り直して、芋の皮を剥く。
「ナズナ様ちょっと休憩にしましょうか」
「はい。わかりました」
そう言うと木のコップに水を注いで出してくれる。冷たくて美味しい。
「ナズナ様、この部屋は暑かったですか?」
「いいえ、特には」
「ならいいのですが。これから釜戸に火を着けますので暑くなったら遠慮なく言ってくださいね」
「わかりました」
お水が冷たく感じたのは暑かったからなんだろうか。
「では私は釜戸に火を着けるので、芋を四つに切っておいて貰えますか?」
「わかりました」
「手を切らないように気をつけてくださいね」
「はい」
言ったそばから芋がぬるっと滑って、指にナイフが当たったけど切れてはないみたいだ。
けど少し擦ったみたいでじんじんとする。
ちゃんと集中しないと次は切ってしまいそう。
六つの芋を切り終えると、レーシャさんが鍋を持ってくる。
「こちらに入れてくれますか?」
「…はい。入れました」
「ありがとうごさいますナズナ様。後は煮込むだけですからお手伝いはもう大丈夫ですよ。とても助かりました。お部屋で休んでいてください」
「わかりました」
私は厨房を後にして、階段を上がって部屋に戻ることにした。扉の前の兵士さんに一声かけようかとも思ったけど、上の空だったので話し掛けるのはやめておいた。
部屋に戻ってからそういえば、ナイフとケープはどこだろうと思い出す。
クローゼットを開くとケープが閉まってあった。けどナイフは無いみたいだ。
没収されてしまったんだろうか。と思ったけど机の引き出しにしまわれていた。
なんとなくナイフを手にとって鞘から抜く。
青いケープは夢に出てきたけど、そういえばナイフは出てきてない。
あの盾も夢に出てきたから、考え出すと出てこないのが逆に気になってしまう。
やっぱりなんの変哲もないナイフだと思う。
投げてぶつけてもなんともなかったみたいだから丈夫なのは間違いない。
鞘にしまって、引き出しに戻す。
魔法って皆が使えるものなんだろうか。
レイゼリアさんもレーシャさんも使っていた。呪文的なものも特にはないみたいだし。
「ふんっ!」
水を想像しながら力んでみる。やっぱり何も感じない。なんの取っ掛かりもない。
やっぱり無理そうだ。
コンコン、コンコンと扉が鳴ると向こう側から、ナズナ様失礼いたします、と聞こえて扉が開く。
「夕食の準備が出来ましたよ。レイゼリア様がせっかくだからご一緒にどうかと」
「えと、はい。いただきます」
「では一階の食堂へご案内致しますね」
一階の右側の一室へと連れられ、中に入ると長いテーブルの奥にレイゼリアさんが座っている。
「さあ、座って」
「ナズナ様、どうぞお座りください」
レーシャさんが椅子を引いてくれてレイゼリアさんの向かいに座る。
レーシャさんは座らずに端で静かに立っている。どうしたらいいんだろう。
キョロキョロとレイゼリアさんとレーシャさんとお皿のスープを見てるのがバレたのか、ふふふとレイゼリアさんが笑う。
「気にしないで自由に食べて。せっかくだからレーシャも一緒に食べましょ?ナズナの隣で食べ方を教えてあげて」
「わかりました。少々お待ちください」
レーシャさんが自分の分のスープをお皿に盛り私の隣に座る。
「スプーンの使い方はわかりますか?」
「はい大丈夫です」
「パンはお皿の上でこうして一口大に千切って食べます」
そう言ってレーシャさんがパンを千切って見せてくれる。
「さあどうぞ召し上がってくださいね」
「いただきます」
スプーンでスープを掬って食べる。少し酸味のある変わった味がするけど美味しい。
赤い木の実の風味なのだろうか。芋と塩漬け肉も美味しい。
パンも言われた通りに一口に千切って食べる。小麦の香りが強くて美味しい。
「そういえばレーゼ様、ナズナ様が料理のお手伝いをしてくたんですよ」
「そうだったの?」
「手伝ったと言っても芋を切っただけですよ?」
「綺麗に等分に切れてるわ。これなら兵士達も喧嘩しないわ」
「ありがとうごさいます」
褒めてくれたみたいなのでお礼を言う。
兵士の人達が芋の大きさで争うんだろうか。
その後もレーシャさんがパンをおかわりさせてくれたり、レイゼリアさんがリネに干し肉をあげた話をしたり楽しく談笑しながら夕食を終えた。
「では私は片付けがあるのでこれで。レイゼリア様、ナズナ様も遠慮せずにお休みくださいね」
ワゴンに食器をしまい、ごろごろと押しながらレーシャさんが部屋を後にする。
「じゃあ私達も行きましょうか」
レイゼリアさんが手を差し出してきて、恐る恐る手を繋ぐ。にこっと微笑んで歩き出すのにつられ、階段を二つ上がって三階に戻ってくる。そして通路を奥まで進む。
レイゼリアさんのお部屋は向かいの部屋だったみたいだ。
「後で、私の部屋に来てくれる?」
「わかりました」
レイゼリアさんが扉の中に消えるのを見て、私も部屋に入る。
ベッドに腰掛け、少し考える。
後でってどれくらいだろう。そうだ。魔法のこと聞いてみようかな。