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思ったよりもあっさりと

「この下だ」


 レーシャさんのお茶をいただいて、小休止をして王子様の天幕に戻り、すぐに遺跡へと向かって地下へと続く階段の前に辿り着く。

 遺跡は壁の名残や舗装された床があるだけで、周りは荒れ地となっている。

 地下は無事らしいけど崩れないように強力な魔法は控えるように王子様とレイゼリアさんが言っていたけど、ひびとかあるんだろうか。

 フィシェルさん、私とチチ、レイゼリアさん、王子様の順に降りていくと真っ暗な通路の壁に等間隔に灯りが揺らめく。

 迷宮核という物の影響なんだろうか。


「ゴブリン達はぐるぐると通路を徘徊している。部屋から飛び出してきたことはないが警戒を怠るな」

「わーってるよ」


 フィシェルさんが杖で壁を時折叩きながら歩いていく。

 淡い水色の光の灯った杖の先がぼろぼろの石の壁に触れると、まるで最初からそこの壁には元から魔法陣が隠れていたかのように浮かび上がる。


「いたぜ。まず六人」


 フィシェルさんがそう言って足を止めると暗がりから二つの光が近づいてくる。

 こちらは松明などは持っていないけど、ゴブリン達はどこで用意したんだろう。

 暗がりからうっすらとゴブリン達の姿が浮かび、フィシェルさんが飛び出していく。


「ギャギャッ!ギギャー!」


 ゴブリン達もこちらに気づいて声を荒げ、武器を構えて駆け出してくる。

 私も念のために木刀を抜き、脇構えで集中すると、レイゼリアさんが前に出てきて右手の指輪に光を灯し、王子様も剣を抜く。


「子供は下がっていろ。手出しはさせない」


 言っていることはごもっともだけど、それを言ってるのが王子様だとどうしたらいいのかわからなくなる。

 私が盾になるべきではないんだろうか。


「ありがとうございます。ですが王子様と姫様の背中は守り抜きます」

「ありがとう」


 レイゼリアさんが振り返ってそう言うとすぐに前を向いて構え直す。

 目の前に集中し直すと既に戦闘は終わったのか、静まり返っている。


「これは…」

「これが賢者の杖か」


 ゴブリン達が時が止まったように固まっている。

 剣を振りかぶったままだったり、お腹を蹴られて体勢を崩したところのようだったり、様々だ。

 そして宙に杖で円を描いて穴を開けるとその中に固まったゴブリンを六人入れていく。

 杖で指しただけでふわりと浮かびそのまま杖の指す先へ流れるように。


「ギャー!ギギャー!」


 後ろからゴブリン叫び声が聞こえてきて、咄嗟に振り返ると音が止む。


「さっきの罠にかかったみたいですね」

「かかったのは四人だな。二人くるぞ」


 レイゼリアさんの言葉にこちらに戻ってきたフィシェルさんが答える。

 足音が近づき、壁の灯りに照らされた剣が輝く。


「ギャギャ!」


 暗がりから剣を振りかぶったゴブリンが飛び出してくる。

 ぐっと右手に力を込めると、頭上を二つの光が飛んでいき、一つが目の前のゴブリンに当たるとゴブリンの動きがゆっくりになって次第に動かなくなっていく。


「ギ…ギャ……」


 目の前でゴブリンが剣を振り下ろすことはなく、完全に動きが止まる。


「ギャギャギャ!」


 動かなくなったゴブリンの影から二人目が飛び出し、剣の切っ先が私に迫る。

 迫る剣を横に払って弾き、師匠の残した冊子の通りに即座に切り返して木刀で胸を突き飛ばす。

 しかし子供の腕力では威力がそこまで無かったのか、ギギギと唸りながらこちらを睨み付けてくる。

 さっきのフィシェルさんの攻撃は避けたのだろうか。

 ゴブリンが高く跳び出し、振りかぶった剣を振り下ろしてくる。


「子供のわりにはやるようだか棒ではな」


 突然目の前に王子様が現れて、ゴブリンの剣を片手で軽々と受け止める。

 一瞬で間に割って入ったみたいだ。


「すごい…」

「セイさんお怪我はありませんか?」


 さらに私の前に出てきたレイゼリアさんが声をかけてくれる。


「大丈夫です。ありがとうございます」


 固まったゴブリンを穴に入れて、フィシェルさんが何かレイゼリアさんに耳打ちをする。


「お兄様!そのゴブリンの剣、探しているものかもしれないです」

「探し物?……まさかこの何の変哲もない剣がか?」


 ゴブリンの攻撃を片手で余裕であしらっていた王子様が驚きの声を挙げる。


「お兄様下がってください。試してみます」


 王子様がゴブリンを力強く押し返し、ゴブリンを後退させると、レイゼリアさんの右手から大きな水の球が放たれる。

 以前森で見た時よりもゆっくりと。


「ギャギャギャギャギャ!」


 ゴブリンが笑い出し、ゆっくりと飛んでくる水の塊に自ら剣を掲げて飛び掛かると、空中で水球に向かって剣を振り回す。

 する水球が粘土の様に切り分けられて、形が歪になってバラバラになっていく。

 バラバラに切り刻まれた水の塊が四方に散って壁や床を濡らし、ゴブリンがギャギャギャギャギャと笑う。


「レイゼリア、炎でも試せないか?」

「流石にゴブリンの方が危険です」

「奪って確かめるしかないか…悪く思うなよ!」


 王子様が笑うゴブリンに向かって瞬時に踏み込むと一瞬でゴブリンとの間合いを詰めて、剣を弾き飛ばす。

 その隙を逃さなかったフィシェルさんが放った水色の光がゴブリンに当たると両手を上げたままの姿で固まり、すぐに穴の中に消える。

 カッという音と共に剣がゴブリンがいた場所に突き刺さる。

 まさかガンゼツの武器なんだろうか。

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