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朝に到着

 お兄様達が地下に入ってから二時間程はたっただろうか。


「姫様、ゴブリンに気づかれずに地下二階に降りるにはどうしても慎重になりますから、順調に事が進んでいても時間はしばらくかかると思います」

「そうね、ありがとう」


 ヘーンド遺跡の地下はたった二階層だが、未だに盗賊達の姿は発見出来ていない。

 最奥に閉じ籠っていると思われるけど、詳細は不明のままだ。


「オークを捕らえてもゴブリンに気づかれずに運び出せるかしら…」

「オークが正気に戻ればいいですが、戻らなかった場合は無理に捕らえずに戻ってくるかもしれませんね。地下二階には盗賊達が隠れている可能性もありますから」

「そうね…」


 兵士達はお兄様ともう長い付き合いなのか、先陣切って進んでいくことにも慣れているようだ。

 英雄譚が好きなだけあって相変わらず勇ましいようだけど、魔族への当たりが強かったりしないか少し不安がある。


「姫様、誰かが階段を上がってきます」


 兵士達が剣を抜き、私は右手に魔力を込める。


「警戒ご苦労。残念だが正気に戻すことは出来なかった。ガードが負傷した。手を貸してやってくれ」

「はっ!」


 お兄様様とすれ違いに兵士達が階段を下りていく。


「お兄様は平気ですか?」

「ああ、大丈夫だ。オークはレイゼリアがエレイナに渡した指輪で足止めをくっているよ」

「役に立ったようで良かったです」

「上がってきたな。拠点に戻ろう」

「鎧が…」


 兵士の一人が両側から二人に肩を担がれながら上がってきて、残りの三人の兵士達も上がってくる。

 負傷したという兵士の鎧が拳の形に凹んでしまっている。


「壊れて外せなかったんだ。早く戻って兵装隊にばらしてもらわないといけない」

「そうですか。では早く戻りましょう」


 私達は足早に天幕を張った拠点まで戻り、一旦解散という形で、私は専用の天幕へと帰された。

 怪我が心配だけど私に出来ることはない。


「レイゼリア様、エレイナさんという方がいらっしゃいましたよ」

「通してあげて」


 もじもじと緊張した様子でエレイナさんがレーシャが開いた天幕の隙間から入ってくる。

 兜は脱いできたようで初めてちゃんと顔を見る。

 茶色い髪を後ろで一つ結びにしていて、瞳は青く、まだ幼さを感じる顔立ちをしている。


「レイゼリア様、指輪をお返しに参りました」


 丁寧に綺麗な白い布に包んできてくれた指輪を受け取る。


「お兄様から聞いたわ。役に立ったようで良かったわ」

「はい、ですが…申し訳ありません。魔石は使いきってしまいました」

「いいのよ。気にしないで」

「ありがとうございます。それでは、私はこれで失礼いたします」

「ええ、またね」


 エレイナさんが天幕から出ていき、レーシャが隙間をぴっちりと閉める。

 三つ全て使い切ったということは、オークには苦戦を強いられたのかもしれない。

 やはり捕獲となると難しいのだろう。


「レイゼリア様、そろそろ日が落ちますので夕食の準備をして参りますね」

「わかったわレーシャ」


 ほどなくして料理が運ばれてきて、夕食を食べる。

 他の侍女達が用意を済ませていたんだろう。

 食べ終えた私は身体を拭いて明日に向けて早めにベッドに入り、師匠がくるのか別の賢者の杖がくるのかを考えながら眠りについた。

 翌朝早めに寝たからか、いつもより早く目が覚めてしまう。夢も見ずぐっすりだった。


「おはようございますレーシャ様、起きていらっしゃいましたか。兵士達が何か騒いでいますよ」

「おはようレーシャ、賢者の杖の方が着いたのかもしれないわね」

「急いでお着替えしましょうか」

「別にドレスを着る必要はないからね?レーシャ?」

「せっかく持ってきたのに全然着てくれないんですから」


 むくれながらもちゃんとズボンを用意してくれるレーシャに感謝しつつ、急いで着替えを済ませる。


「レイゼリア様、レイアルト様がお呼びです。賢者の杖が到着したから天幕に来てくれと」

「ありがとう。今いくわ」


 用意を済ませて、お兄様の天幕へと向かう。

 いつもお兄様の方から来てくれる上に師匠がいるかもしれないと思うと少し緊張してしまう。

 天幕の前に着くと入口を守る二人の兵士が私に一礼して入口の布を捲ってくれる。


「失礼します」

「来たかレイゼリア。賢者の杖のフィシェルさんと侍女のセイさんだ」

「エリュは砂漠で別件だ。悪りーな」

「それは残念です。二人ともよろしくお願いします」


 賢者の杖の三角帽子、腕に金色の紐、耳にピアスをたくさんした同じ年頃に見える女性は王家の森であった人だ。

 連れている侍女は魔族の子供なんだろうか。

 頭の膨らんだ白いキャップにとても大きなミトンが肘まで両手を覆っていて、腰に巻かれたエプロンの紐に棒を差している。

 長めのスカートからは可愛い黒い靴が見える。


「では話を初めてもいいかな?」


 お兄様がそう言って周りを見る。


「ああ」

「そちらの少女も一緒に?」


 お兄様が小さな侍女を指してフィシェルさんに聞く。

 魔族だとしたら見た目通りの年齢とは限らない。


「ああ、人数が多いみてーだから、保護した魔族のお守り役だ」

「わかった。まず残念だが気絶させても洗脳が解ける様子は無く、力が強すぎて捕獲も困難だった」

「じゃあ片っ端から城に送りつけっかぁ」


 簡単に別の大陸まで送ると宣言するフィシェルさん。

 しかしそれよりも、となりの小さな少女がなんだか気になってしまう。

 茶色い瞳がナズナにとてもよく似ている。

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