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行けるのなら行きたい

「よし、書けたかな」


 書き終えた手紙を眺め、机から振り替えってベッドにいるリネに見せる。

 字は読めないんだったと反省するけど、頭のいいリネはわふっと吠えてくれる。

 きっと誉めてくれている。そういうことにしておこう。


「よしリネ、実験室に行ってみよう?アリシアさんかガンドルヴァルガさんに手紙の出し方を教えてもらいに」


 手紙を持って、わふっと答えるリネと一緒に部屋を出る。

 今日はメイド服を着ていないからシャツとパンツだ。

 階段を下りて通路を進み中庭を抜けようとすると雨が降ってきた。

 手紙が濡れてしまう。どうしようかな。

 リネが何かを感じ取ったのか、中庭に飛び出して身体を大きく元の大きさに戻す。


「どうしたのリネ?濡れちゃうよ?」


 リネが片方の翼を広げて屋根のように雨を遮る。雨避けになってくれるみたい。


「ありがとうリネ」


 リネのエスコートで中庭を渡り、濡れずに階段下に辿り着く。

 私が陰に隠れたの確認すると、リネがぶるぶると全身を振って雨水を払う。

 そして払い終えるのを待って、一緒に階段を登っていく。


「ふぅ…着いた…」


 なんとか上まで自分で歩いてこれた。

 息を整えてから扉を叩いて開き、挨拶をする。


「失礼します。今お時間大丈夫でしょうか?」

「すまない。少し待ってておくれ」

「わかりました」


 扉静かに閉めて、大人しく待っていると、足音が聞こえてくる。

 アリシアさんだろうか。

 いや違う。折れた三角帽子の先端が階段を登ってくる。

 鍔で顔は見えない。


「ん?そんなとこでどーした?いたずらでもして怒られたのか?」

「フィシェルさん?」

「おーよ。急に呼ばれてよ、戻ってきたんだ」


 三角帽子に外套、シャツに膝上のスカートとロングブーツで手には短い木の枝のような杖を持っている。

 魔法学校があったら生徒はこういう格好をしていそう。

 いつも下着とか寝巻きの姿を見かけていたから新鮮に感じる。


「んだよ、ジロジロと」

「いえ…ごめんなさい。仕事着?は初めてだったので…」

「そーだったか?」

「すまなかったなナズナ。おやフィシェルもいたのか?」

「師匠が呼んだんだろ?」

「とりあえず二人…三人共、中に入りなさい」


 実験室の中に入るとガンドルヴァルガさんが机に戻って座る。


「それでまずナズナ、何か話があっようじゃが?」

「はい。そうなんですけど急ぎじゃないのでお仕事の話を先にどうぞ」

「そうか?では少し待ってておくれ。そこの椅子に座って待っててもいいし、何か見てても構わんから」

「わかりました」


 私はこの間のボールみたいなリネと一緒に遊べる魔法道具がないかと木箱を覗いてみる。

 リネも一緒に木箱を覗き込んでいる。


「それで師匠、いきなり呼び戻したわけは?」

「ああ、明日アルセル郊外のヘーンド遺跡に行ってきてほしくてな」


 ついアルセルという単語で聞き耳をたててしまう。


「エリュの方がいいんじゃ?」

「手が放せないようでな…一番城の近くにいたのがお主だったんじゃ」

「…それで何があったんだ?」

「森でゴブリンとオークが消えた。するとヘーンド遺跡の地下で迷宮核が使用され、そこにゴブリンとオークが現れたそうじゃ」

「魔族を召喚するなんてずいぶん古い迷宮核だな」

「ああ、ヘーンド遺跡はほとんど崩れてしまっているが、かつては前哨基地として使われていた。もしかしたら地下にでも埋まってたのかもしれん」

「つまり連れて帰ってきてくれってことか」

「そうじゃ」

「穏便に済ませてくれるよう、話はしておいた」

「わかったよ」


 消えたオークとゴブリンは迷宮に?


「くるか?」

「……え?」


 私に聞いてるんだろうか。


「一緒にくるか?」


 フィシェルさんと目が合う。

 やっぱり私に聞いてたみたいだ。

 私は困惑してつい助けを求めてガンドルヴァルガさんの方を見る。


「ナズナはまだ本調子ではない。それにヘーンド遺跡には王子も一緒にいる。わしとしては気乗りせん…」

「だとよ。どうしたい?」

「どうと言われても…ガンドルヴァルガさんは気乗りしないって…」

「駄目とは言ってないぜ」


 フィシェルさんの言葉にガンドルヴァルガさんがやれやれと言った顔をする。


「えっと…行きたいです…」

「師匠、消えた人数は?」

「オークが六人、ゴブリンが十二人だ」

「ナズナは保護した奴らのお守り役だ。いいな?」

「はい!あのリネも一緒にいいでしょうか…?」


 わがままを言うなと怒られないか不安で声が小さくなっていってしまう。


「うーん…これでどーだ」


 フィシェルさんがリネに向かって杖を振ると、リネの姿が銀色の小鳥に変わる。


「すごい…」

「感心してねーで変装してこい」

「変装?」

「王子にばれねーよーにな」

「そうじゃな。部屋まで送ってやろう」


 ガンドルヴァルガさんが私の頭に手を置くと一瞬で自分の部屋の中に移動させられる。

 驚いてないで着替えないと。

 と言ってもメイド服くらいしかないけど大丈夫だろうか。

 とりあえずシャツとパンツを脱いで急いでメイド服に着替え、変装ならと思っていつもは長い髪をしまうのが大変過ぎて被らない白いふりふりのキャップを被って髪を隠す。

 黒い髪は目立つだろうから、いつものふりふりの付いたカチューシャよりはいいはずだ。

 茶色いブーツも黒い靴に履き替えて、念のために木刀は腰に差す。


「それ目立たねーか?」


 いつの間にか部屋の扉が開いていてフィシェルさんがそう言う。


「今は武器を出せないので…念のために…」

「まあいいけどよ」


 フィシェルさんの肩からぱたぱたと可愛くて綺麗な銀色の小鳥が飛び立ち、私の頭の上に乗っかった。

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