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不穏さが残る

 お城のガンドルヴァルガさんの実験室から一瞬で森へ移動したかと思いきや、見知らぬ妖精に突然捲し立てられる。

 何が起きているんだろう。リネも驚いているのか静かだ。


「こら、ナズナになんてこと言うんじゃ。ほんとに寝起き最悪じゃなぁ。早く謝らんか」

「だってあいつの魔力なんか気持ち悪いぞ」

「だってじゃない。もう蜂蜜やらんぞ」


 そういえば私と打ち合ったお姉さまも気持ち悪いと言っていた。


「申し訳ない…お嬢さん。俺のこの顔に免じて許して欲しい」


 突然目の前に来て私の顎を持ち上げながら、変なことを言い出す。


「蜂蜜お好きなんですね…」

「あれほど甘美な物はこの世に他にないだろう…」

「ルダメニア、二日前にここでゴブリンが消えたそうだ。何かわからんか?」


 くるっと振り返ってガンドルヴァルガさんの方へ戻っていく。切り替えが早い。


「確かに魔法の痕跡を感じるが、もうわからないよ。オークだってゴブリンだってお前達だって魔法を使うのだから、ちょっと魔法が使われたからっていちいち把握してないぞ」

「ふむ、余程の手練れか、魔法道具でも使われたか…」

「まあしばらくは起きて警戒しておくよ。それでいいだろ?」

「ああ、頼む」


 ルダメニアさんが光になって弾けて消えてしまう。


「すまなかったなナズナ。あいつは口が悪くてな」

「いえ、気にしてませんから」

「お前達、次にまた仲間が消えるようなことがあったら、すぐに城の者かハルメイニア達に伝えるんだ。いいな?」

「ワカッタ!」


 ゴブリンがギャーギャーと騒ぎ出す。

 どんぐりゴブリンさんが他の仲間に説明しているんだろうか。

 すると一人のゴブリンの身体が光を放つ。


「ギギャ!ギャギャー!」


 驚いているようで自分の身体をまさぐり出す。

 気がついた時にはもうすでに五人全員が光り出している。

 ゴブリン達はもう半狂乱だ。


「ガンドルヴァルガさん!」

「ああ、何かおかしいぞ」

「ヨンデル!ダレカ!コワイ!ヨンデル!」


 声なんて聞こえないけどゴブリン達には聞こえているんだろうか。

 ガンドルヴァルガさんが腕を広げると辺り一帯が幕のようなものに包まれる。


「駄目だな。かなり強い召喚魔法だ。大戦の生き残りか?ルダメニア!」

「わかっている。侵入者はいない。奴らの内から魔法が発動してるぞ」


 どんどん光が強くなっていく。

 召喚魔法ということは何処かに勝手に連れていかれてしまう。

 身体の痛みと説教を覚悟して、ゴブリン達へ手をかざす。


「お願い…!来て!」


 シャンという音が鳴り、青い鉄塊が四つ縦に繋がった袖のような盾が姿を表す。

 それと同時に全身が切り刻まれるような痛みに襲われる。

 効果があるかはわからない。

 それでも盾を四つに分けてゴブリン達の元へ飛ばす。

 足りない一人のために必死にゴブリン達の元へ駆けながら。


「それをしっかり掴んで!抱き締めて放さないで!」


 ギャーギャー言っていてわからないけどどんぐりゴブリンさんが通訳してくれたのか、目の前の鉄塊をぎゅっと抱き締める。


「あなたは…これを…」


 どんぐりゴブリンさんの目の前に刀を出す。


「しっかり…握って…」


 私から刀を受け取ると重たくて持ち上げらないのか、地面に引きずりながらぎゅっと柄を握る。

 出しただけですごい疲労感に襲われている。

 全身も痛い。なんだか音が聞こえない。

 気絶しちゃ駄目だ。盾達が消えてしまうかもしれない。

 リネとガンドルヴァルガさんがへたり込んだ私を上から覗き込んでいるけど何を言っているのか全然わからない。

 目の前にルダメニアさんが出てくる。

 気持ち悪いもの出すなって怒っているのかもしれない。

 おもむろに私の長い前髪を掻き分け出して、おでこに暖かくて柔らかいものが触れる。

 おでこから熱が頭の後ろ、首、肩、胸と全身に広がって、痛みが引いていき、音が戻ってくる。


「ルダメニア…さん?…これは?」

「魔力を分けてやったんだ」

「えっと…ありがとうございます」


 鼻先をぐりぐりしてくるリネをわしゃわしゃ撫で回す。


「ゴブリンさん達は?」

「オモイ!ヒトノケン!デカイ!」


 ギャーギャーと騒ぎ出す声を聞いて安心して力が抜ける。


「ナズナ、身体は?」

「ルダメニアさんのおかげでなんとか…でも思ったよりも疲れてしまったみたいで力が入りません」

「俺は寝る…半分以上もっていかれるとは思わなかったぞ…じゃあな」

「ありがとうございました。おやすみなさい」


 光になって弾けて消えてしまう。


「わしらも一度城へ戻ろうか。お前達も今日はもう帰りなさい」

「ワカッタ!カエス!フシギナケン!アリガト!」

「賭けでしたけど効果があってよかったです」


 盾と刀をしまうといきなり消えて驚いたのかゴブリン達が少しざわつくけどすぐに森の奥へと帰っていく。


「さて、ゆっくり帰るとしよう」


 ガンドルヴァルガさんが私を抱き上げて歩き出す。

 お姫様抱っこというやつで少し恥ずかしい。


「今のことは秘密にしておきなさい」


 真剣な顔でガンドルヴァルガさんが言う。


「今のこと…ゴブリン達のことですか?」

「力のことだ。触れているだけで魔法を無効化するだなんて知られたらナズナの身が危険じゃ」

「ごめんなさい…」

「こちらこそ無理ばかりさせてすまないな…ゴブリン達を助けてくれてありがとう」


 今までそれが普通だったから気にしていなかったけど、たくさんの人達に見られるのは不味かったかもしれない。

 私自身、無意識に刀を握らせていたけど、盾と同じ力があったのは驚いた。

 斬れるだけじゃなく持っているだけで魔法を消してしまうみたいだ。

 不意に思い出したレイゼリアさんが言っていた他国には渡せないの言葉が今さら重いものだと気づいた。

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