事件の匂い
シーカテとモモタケを取りつつ森を北上してきて、やっとバンバさんと出会ったところまで戻ってきた。
日はすでに高く、お昼頃だろう。
城にお昼ごはんを食べに戻るか、野営をするか、どうしようかな。
リネが茸を食べても平気なのかがわからないから大人しく戻るべきだろうか。
マルタケは午後に探そうかな。
「リネ、一度お城に戻ろうか」
わふっと答えるリネと一緒に城の方へ歩く。
少し風が吹いて、なんだか香ばしい香りがする。
誰かがお肉を焼いているんだろうか。
侵入者だったらどうしよう。
念のために確認した方がいいかもしれない。
「リネ、匂いの方に静かに近づこう」
頭の良いリネは吠えずにこっちだと教えてくれるみたいに振り返りながら先行してくれる。
少し進んで行くと話し声が聞こえ始め、すぐに侵入者ではないことが確認できた。
五人のゴブリン達が鹿を焼いて食べているようだ。
ゴブリン語で話しているのか会話の内容はさっぱりわからない。
「侵入者じゃなくてよかったね。邪魔しないようにゆっくり離れよう」
振り返った時に小枝を踏んだのか、ぱきっと音が響く。
ゴブリン達の話し声が止み、森が静まり返る。
いっそ出ていった方がゴブリン達も安心かもしれない。
もしもの時はお願い、とリネに呟きゆっくりとゴブリン達の前に進み出る。
「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんです」
ゴブリン達が歩いてきてギャーギャーと何か話しながら私を囲う。
言葉のわかるゴブリンはいないのだろうか。
「オンナ!オンナ!マイゴカ?」
どんぐりを首から下げたゴブリンが話しかけてくれる。もしかして前に会ったゴブリンさんなのだろうか。
「いいえ。侵入者だったら危ないと思って少し見に来ただけなんです。お邪魔してすみませんでした」
「シンニューシャ!イル!ナカマモドラナイ!」
「ほんとですか?詳しく聞いてもいいですか?」
「フツカマエ!キエタ!ヒカッテキエタ!」
オークの人達と同じ日?
「どこで消えましたか?」
「ココ!ココ!ダカラマッテル!カエッテクル!マッテル」
特に拓けた場所というわけでもない。
何か争ったような跡もない。
「リネ、何かわかる?」
リネがすぐに首を横に振る。
特に匂いなどはないみたいだ。
「何人いなくなりましたか?」
「ロク!」
「実はオークの方もいなくなったそうなんです。何か知りませんか?」
どんぐりゴブリンさんが他のゴブリンに説明しているのか、ギャーギャーと話し始める。
「シラナイ!ワカラナイ!」
「わかりました。ガンドルヴァルガさんにも伝えておきます」
「ワカッタ!」
ゴブリン達に手を振って城へと急いで戻る。
とりあえず食堂に向かい食糧庫に籠を置き、リネのお肉を厨房に出しておいて、ガンドルヴァルガさんを探す。
実験室か謁見の間かそれ以外の何処かか。
大人しくリネにお願いして背に乗って廊下を駆ける。
誰かに見れらたら怒られるだろうか。
中庭を走り抜けるということは実験室だろうか。
案の定リネが階段を駆け上がっていく。
「ありがとうリネ」
頭を撫でてリネから降り、扉を叩いてから開く。
「失礼します」
「ん?ナズナか。珍しいな。遊びにきたのかい?」
「いえ、今日は違うんです。ガンドルヴァルガさんに急いで伝えた方がいいかなってことがありまして…」
「ふむ、何かな?とりあえず入りなさい」
「ありがとうございます」
手を止めて机から離れて、実験道具がたくさん乗ったテーブルとは別の本棚の側の小さなテーブルに椅子を二つ出してくれる。
ガンドルヴァルガさんが一人掛けの椅子に座ると私とリネを二人掛けの椅子に促すので、リネと隣同士で座る。
「それで話とは?」
「森で行方不明の方が出ていることはしっていますか?」
「いや、知らんぞ。森で何があった?」
私はオークのバンバさんの話とその後にゴブリン達にも話を聞いたことを話す。
「光って消えたか…」
「オークの族長さんが来てからでいいかなと思っていたんですが、同じ日にゴブリンからも行方不明者が出ていたようなので、急いで話を伝えた方がいいかと…」
「そうじゃな。よく伝えてくれた。ありがとう」
ガンドルヴァルガさんが私とリネの頭を撫でる。
「すぐに調べるとしよう」
「ギギャ!」
一瞬で景色が変わり、ゴブリン達の驚く声がする。
「え?」
「移動したんじゃ。お前達、仲間はどこで消えた?」
リネと私はいつの間にか木の根に座っている。音もなく身体に何かを感じることもなかった。
呆然とガンドルヴァルガさんとゴブリン達が話しているの眺めていると、ゴブリン達がここだと言うようにギャーギャー言いながら跳ね回っている。
ガンドルヴァルガさんは地面に手を突いたり、何かを調べているみたいだ。
「ふむ…もう残っとらんか……ルダメニア!でてきてくれ!」
周囲に無数の光の粒が現れ、光がガンドルヴァルガさんの目の前に集まって形を作っていき、緑色の服を着た白髪の妖精が姿を表す。
「なんだ…いきなり…誰か木でも折りやがったのか?」
すごく期限が悪そうだ。
男の妖精さんなんだろうか。
そしてルダメニアと呼ばれた妖精が私を指差して睨み付けてくる。
「お前がなんかしたんだろ!気持ち悪い魔力を感じるぞ!」
未だに呆然としていた私はただただ困惑するばかりで何も言えなかった。