二日酔いにはならずにすんだ
「ほら、出来たぞ」
フィシェルさんがお皿を二つ手に持って、更にその上にもうひとつお皿と、スプーンとコップを三つをふわふわと宙に浮かせながら歩いてきて、手際よくテーブルに並べる。
「さっさと座れよ。立ちっぱで話してたのか?」
フィシェルさんが指を指すと椅子が勝手に下がってきて座りやすくなる。
そういえば立ちっぱなしで話していたけど、そんなに長話はしていないはず。
料理が趣味のフィシェルさんは慣れていて作るのが早いんだろうか。
「いつも作るのが早いのう」
ガンドルヴァルガさんが座るのを見て、私も椅子に座る。
すると椅子が勝手に前に進んでテーブルが近くになる。
ガンドルヴァルガさんのは動いてないのをみると足のつかない私のためにフィシェルさんが動かしてくれたみたいだ。
「ありがとうございます。いただきます」
「ああ、いただこう」
小さな丸い粒々、がいっぱいのお皿に何かソースがかかっている。
粒々はお米の粒より小さくて、黄色みがかっている。
ソースは赤くて芋とたまねぎと塩漬け肉が入っているみたいだ。
スプーンで掬って食べてみると、やっぱりお米じゃない。だけど何処かで食べたことがあるような、ないような。
甘味と酸味と旨味があって、パスタという言葉が脳裏をよぎる。
とりあえず辛くなくてよかった。
「酔いに効くからスープも綺麗に飲んどけよ」
「そうなんですか?わかりました」
フィシェルさんに言われた通りに美味しく綺麗に食べ終える。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「おう。下げたらアリシアのミルク飲んどくといいぜ」
「はい」
二人より早く食べ終えてたみたいで少し自分でも驚きつつ、空の食器を厨房へ持っていく。
けど小さな私のご飯の量はそもそも二人と違うから気にすることではないのかもしれない。
食器を下げて、ミルクを飲む。
甘くて美味しいから食後のデザートのような感じなのだろうか。
すぐに飲み干せてしまったということは身体はきっともう平気だ。
食堂の方へ戻ると話し声が聞こえる。
アリシアさんも食堂に来たみたいだ。
私は隙を見て声をかける。
「アリシアさんおはようございます。昨日はごめんなさい。もう吐き気もないし大丈夫です」
「おはようございます。お元気になってよかったです」
「靴もありがとうございます」
「いえ、ご用意するのを忘れていてすみません。ナズナさんのお部屋のクローゼットにブーツ閉まっておきましたので後で確認してください」
「ありがとうございます。あの…今日もお手伝いしていいですか?」
「もちろんです。では今日は森に出て、リネさんと茸を取ってきていただいてもよろしいですか?」
「わかりました」
「今リネさんをナズナさんの部屋に帰してあげたところなので会いに行ってあげてください。私は茸を入れる籠を用意して食糧庫に入れておきますね」
「わかりました。みなさんまた後で」
「おう、頑張れよ」
「また後でな」
「転ばないように気をつけてくださいね」
「はい」
リネにまた心配をかけてしまったと思い、小走りで部屋に戻ると、リネが私のベッドの上で丸くなっている。
「リネ、おはよう」
リネがすぐに私に気がついて飛びついてきてくれ、ぎゅっと抱きしめる。
転びそうになったのはリネには内緒だ。
顔をわしゃわしゃと撫でてあげると尻尾を振り回す勢いで振ってくれる。
「もう元気になったから大丈夫だよ。後で一緒に森に茸を取りに行こうね」
嬉しそうに顔を上げて私を見てわふっと答えてくれる。
リネが満足するまで撫で続けて重たくなった腕でクローゼットを開くと、アリシアさんが言っていたブーツが下に置いてある。私が履いていたものと変わらないように見える。
そしてメイド服も閉まっておいてくれていたようで、ハンガーにかけられてぶら下がっている。
お手伝いなら着ていくべきだろうか。
いつもの白い肌着のような袖無しシャツと白いかぼちゃパンツを脱いで、メイド服に着替え、靴は黒い艶々なメイド服のものではなく、置いておいてくれた丈夫そうな茶色いブーツに履き替える。
武器が出せないので念のために師匠がくれた木刀をエプロンの腰と紐に差しておく。
「よしリネ。師匠の部屋によってから食堂に行こうか」
わふっと答えるリネと部屋を出て鍵を閉め、師匠の部屋に向かう。扉の鍵は開けっ放しだ。
机の上のリリクラの鉢を確認する。
湿っているからまだ大丈夫そうだ。
師匠の部屋を出て食堂に行くと、もう誰もいないみたいだ。
厨房を通り過ぎる時に、お肉の皿が目に入る。アリシアさんが出しておいてくれたのかもしれない。
ありがたくお皿を取る。
「リネ、ご飯を食べててくれる?私は食糧庫に道具を取りに行ってくるから」
厨房を出てお肉のお皿を床に置いてあげ、食糧庫を見ると入口の方に籠が二つとナイフと水筒が置いてあり、紙切れが入っている。
紙切れには、お肉を出しておいたこと、籠はリネの胴体の左右に着けること、遅くても日が落ちる前に帰ってくるように書いてある。
リネがご飯を食べ終えるのを待ちながら、ナイフと水筒を腰にくくりつける。
そしてリネの空になった食器を下げて、早速外に繰り出す。