疲れてたのかな
「さあどうぞ」
目の前には大きな木の桶があり、たくさんのお湯が張られているのか湯気があがっている。
どうぞってなんだろう。入っていいんだろうか。正直に聞こう。
「あのお風呂始めてで、どうしたらいいんでしょうか?」
「そうでしたか。少しお待ちください」
そう言ってレーシャさんが一度浴室を出ると、服を脱いで戻ってくる。
「さあ、桶の中へどうぞ」
桶の中に先に入り、手を差し出してくれる。
私は手を取り、もう片方の手で桶の縁を掴み、足を挙げて縁にかけ桶に入る。
「ちょっと桶が大きかったですね。私の膝の上に座りましょうか」
そういうとレーシャさんが脇に手を入れて私を軽々持ち上げると自分の上に座らせる。なんだか恥ずかしい。
「お湯には石鹸が入っていますからこうして身体を擦るだけで汚れが落ちますよ」
そう言うとレーシャさんが私の右腕をマッサージするように手から肩にかけて擦る。
「そんなに緊張しないでください。それとも熱かったですか?」
「いえ、気持ちいいです」
「それはよかったです」
左腕、右足、左足、と順番にレーシャさんがマッサージしてくれる。
「今度はお腹ですよ」
お腹をなでなでされる。なんか変な気持ちになってくる。
「胸もきれいにしましょうね」
くすぐったい。
「最後は股ですよ。ちゃんときれいにしましょうね…あら?ナズナ様?」
優しくトントンと叩かれて目が覚める。
「ごめんなさい…気持ち良くてなんだか…」
「いいんですよ。お部屋でお休みになりましょうね」
目が覚めると知らない部屋。
というわけではなくて所々記憶がある。濡れた髪をレーシャさんが手から風を出しながら手早く乾かし、身体を拭いてぶかぶかのワンピースのようなものを着せてくれ、いつの間にか背中に背負われながら階段を上がり、気がついたらここにいる。
起き上がると窓から日差しが入ってる。
日を跨いでいたらどうしよう。
ベッドから降りて部屋を見渡すとクローゼットに棚に机と椅子。
机の上には何かが乗っている。クローシュというんだったか、銀色の半球の側に紙が置いてある。
紙には、起きたら食べてくださいね、という言葉と、暗い顔した黒髪の女の子がサンドイッチを食べて笑顔になるといった感じの絵が書いてある。
レーシャさんが用意してくれたんだろうか。
文字を読めなかった場合を考えて絵も書いてくれたんだろうか。多才な方みたいだ。
クローシュを開けると絵にある通り、サンドイッチが乗った皿が入ってる。三種類味があるみたいだ。
一つ目を手にとって口に運ぶ。
中には鶏肉が挟んであるようで、甘酸っぱいソースが塗ってあるみたいだ。美味しい。
二つ目にも手をつける。
中には独特の香りがするこくと塩気のあるのっぺりとしたものとハムのようなものが挟んであるようだ。懐かしい感じがする、チーズだ。こちらも美味しい。
最後の三つ目を食べる。
バターと何かのジャムが塗ってあり、甘酸っぱくて美味しい。こちらもなんだか懐かしい感じがする。美味しい。
暗い顔ではなかったと思うけど、絵の通りに笑顔になったと思う。
私は空になったお皿にクローシュを戻し、それを持って部屋を出る。
お礼を言って、今は何時なのか聞かないともやもやが晴れない。
廊下に出ると私のいた部屋は一番奥の右の部屋だったようだ。
廊下を進んでおそらく中央の階段を下りると似たような景色が広がる。もうひとつ降りて見ると、広い広場の奥に扉が見える。
扉の横に人が立っているのに気づき、歩いて近づく。
「おはようございます。あのこれ、レーシャさんにお礼を言いたくて」
上の空だった金髪の兵士の男が私に気づいて下を見る。クリフトさんより若く、ジャンさんより上に見える。
「おお、おはよう、お嬢ちゃん。レーシャと風呂なんて羨ましいぜぇ」
「あの私どれくらい寝てたのか、わかりますか?」
「そうさなぁ、二、三時間ってところじゃねぇかなぁ」
「そうですか、ありがとうございます。あのレーシャさんがどこにいるかはわかりませんか?」
「おお、すまんすまん。厨房か、姫様の部屋にいると思うぜ」
「わかりました。ありがとうございます」
「厨房にいなかったとしても、それは厨房のテーブルに置いときゃ大丈夫だと思うぜ」
私の持ってるものを指して言う。
「ありがとうございます。それでは…あっ!ごめんなさい!厨房ってどこですか?」
「確かに知るわけなかったな!左の通路の一番手前の右の部屋だよ」
「ありがとうございます、失礼、します」
なんだか恥ずかしくなって足早に厨房へ向かう。扉は空いたままになってるみたいだ。
「すみません。誰かいますか?」
「はい、どうかなさいましたか?グリオさんですか?なんだか笑い声が聞こえていましたけど」
そういいながら奥からレーシャさんが出てきてくれる。
「あら?おはようございます、ナズナ様。よくお休みになられましたか?」
「はい、おかげさまで。あのごちそうさまでした。どれも美味しかったです」
「それはそれは良かったです。わざわざ持ってきてくださってありがとうごさいます」
前屈みになってお皿を受け取り優しく微笑む。
そして今さら気づく。
彼女の胸がとても大きかったことに。